シンガポールで金融の仕事に就くと、まず試験の話から始まる

シンガポールで金融の仕事に就くと、業務の前に必ず試験と登録の話が出てきます。駐在員でも現地採用でも同じで、顧客に商品を売る、投資の助言をする、資産を運用する——このいずれかに関わるなら、MAS(Monetary Authority of Singapore/シンガポール金融管理局)の枠組みのもとで所定の試験に合格し、代表者として登録される必要があります。

試験を実施しているのはIBF(The Institute of Banking and Finance Singapore)です。日本の証券外務員に相当する位置づけですが、業務ごとにモジュールが細かく分かれているのが特徴で、最初は「自分はどれを受けるのか」が分かりにくいはずです。

二階建ての仕組み:会社のライセンスと、個人の登録

シンガポールの仕組みは二階建てです。1階が会社で、証券や運用の業務を行う法人はMASからCapital Markets Services(CMS)ライセンスを、投資助言を行う法人はFinancial Adviser(FA)ライセンスを受けます。2階が個人で、その会社に紐づいて代表者(representative)として登録され、MASの公開登録簿に名前が載ります。

ここで押さえておきたいのは、個人の登録が会社に紐づいているという点です。会社を移れば登録も移し替えが必要になり、シンガポールを離れれば終了します。日本に持ち帰って使える資格ではありません。

受ける試験は「CMFAS」と「CACS」の2系統

試験は大きく2系統あります。ひとつがCMFAS(Capital Markets and Financial Advisory Services)で、証券・デリバティブ・運用・アドバイザリーなど幅広い業務の登録要件です。もうひとつがCACS(Client Adviser Competency Standards)で、プライベートバンキングで富裕層に助言する人が対象になります。どちらも2024年に新しい体系へ移行しています。

CMFAS:業務ごとに分かれたモジュール試験

CMFASは「RES」と呼ばれるルール・倫理・スキルのモジュールと、商品知識のモジュールの組み合わせで構成されます。担当する業務によって、受けるモジュールが決まります。

モジュール対象となる業務問題数/時間合格点受験料(会員/非会員)
RES 1A証券のディーリング(SGX-ST会員会社)80問/2時間75%S$207.10/S$250.70
RES 1B証券のディーリング(取引所非会員)60問/1.5時間75%S$207.10/S$250.70
RES 2Aデリバティブのディーリング(SGX-DT会員会社)100問/2.5時間75%S$250.70/S$294.30
RES 2Bデリバティブのディーリング(取引所非会員)60問/1.5時間75%S$207.10/S$250.70
RES 3ファンドマネジメント100問/2.5時間75%S$250.70/S$294.30
RES 4コーポレートファイナンスに関する助言60問/1.5時間75%S$250.70/S$294.30
RES 12B証券とデリバティブの両方(取引所非会員)60問/1.5時間75%S$414.20/S$501.40

※2026年9月時点。いずれも多肢選択式のコンピュータ試験。このほか取引所ごとの追加モジュール(RES 1BE1・2BE1・2BE2・2BE3/各40問・1時間・75%・S$109.00/S$130.80)があります。

商品知識のモジュール

顧客に商品を販売・推奨する立場であれば、上のRESに加えて商品知識のモジュールが必要になります。

モジュール内容問題数/時間合格点受験料(会員/非会員)
CM-EIP証券および除外投資商品90問/2.5時間70%S$207.10/S$250.70
CM-SIP特定投資商品(SIP)80問/2.5時間70%S$207.10/S$250.70
CM-CMP上記を合わせたもの80問/2.5時間70%S$414.20/S$501.40

どれを受けるかは、自分では選ばない

モジュールの組み合わせは、所属する会社が保有するライセンスと、皆さんが実際に行う業務で決まります。入社時や異動時にコンプライアンス部門から指定されるのが一般的なので、自己判断で申し込む前に必ず確認してください。

CACS:プライベートバンキングで助言する人の試験

CACSは、ABS(シンガポール銀行協会)のPrivate Banking Code of Conduct が定める「Covered Person」——認定投資家(Accredited Investor)に対して顧客と向き合って助言を行う人——が対象です。リレーションシップ・マネージャー、クライアントアドバイザー、投資スペシャリスト、ウェルスプランナーなどが該当します。助言業務に就く前に合格しているのが原則です。

Paper 1Paper 2
内容法令・規制・業界行動規範業界・商品知識
問題数/時間80問/2.5時間80問/2.5時間
合格点75%70%
受験料(GST込)法人会員 S$446.90/非会員 S$534.10法人会員 S$446.90/非会員 S$534.10
免除なしCFA®︎ Charterholder は免除

※2026年9月時点。試験会場はIBFのアセスメントセンター(20 Anson Road)。

CFA®︎ Charterholder は CACS Paper 2 が免除される

ここがシンガポールで働く方にとって、CFA®︎の実利が最もはっきり出る部分です。IBFは明確に次のように書いています。

From 1 January 2019, CFA Charterholders are exempted from CACS 2.

(2019年1月1日より、CFA Charterholder は CACS 2 を免除される)

Paper 1 に免除はない

一方でPaper 1については、IBFは「Rules and Regulations の試験であるため免除はない」と明記しています。シンガポールの法令・規制を問う試験なので、どの資格を持っていても受けることになります。

Level 1・Level 2の合格では免除されない

免除の対象は称号(charter)を保有している方に限られます。Level 1やLevel 2に合格した段階では免除されません。CFA®︎の称号は、3レベルすべての合格に加えて所定の実務経験とCFA協会への入会を経て与えられるものなので、免除を目当てに学習を始める場合は、そこまでの距離を最初に理解しておいてください。

この免除をどう評価するか

金額だけを見れば1科目分(S$446.90〜534.10)です。ただ実際に効いてくるのは、80問・2.5時間の試験を1本、準備ごと省けるという点だと考えています。着任直後の慌ただしい時期に、覚える対象が半分になる意味は小さくありません。もっとも、これは「CFA®︎を取る理由」としては副次的なもので、本筋は次に書く環境の話です。

そもそもCFA®︎とはどんな資格か

ここまで試験の話をしてきましたが、CFA®︎という資格自体をご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に紹介させてください。

CFA®︎(Chartered Financial Analyst)は、米国に本部を置くCFA協会(CFA Institute)が認定する投資分野の国際資格です。日本語では「米国証券アナリスト」と呼ばれることもあります。運用会社のファンドマネージャー、リサーチアナリスト、プライベートバンクのアドバイザーなど、投資に関わる職務で世界共通の物差しとして使われており、世界160を超える市場に約20万人の資格保有者がいます。

何を問う試験なのか

試験はLevel 1・2・3の3段階で、すべて英語で実施されます。Level 1は選択式、Level 2はひとつのケース(ヴィネット)を読んで複数の設問に答える形式、Level 3は記述を含む形式です。出題範囲は職業倫理、財務諸表分析、コーポレートファイナンス、株式、債券、デリバティブ、オルタナティブ投資、ポートフォリオマネジメントと、投資の実務に必要な領域を横断します。

CMFASやCACSが「シンガポールで業務を行うための条件」を問うのに対して、CFA®︎は「投資をどう考えるか」を問う試験です。資格そのものの評価や位置づけはCFA®︎とは何か・その価値、試験制度の全体像はCFA®︎試験の全体像の記事で扱っています。

どのくらいの時間と費用がかかるのか

合格率は各レベルとも40〜50%前後で推移しており、学習時間は1レベルあたり300〜400時間前後が目安です(300時間は最低限と考えてください)。費用は、独学中心であれば合格までおよそ60万〜70万円、サポート教材をフル活用する場合はおよそ110万〜130万円が目安になります(合格までにかかる総額)。受験資格など細かい疑問はよくある質問にまとめてあります。

シンガポールで、CFA®︎はどう見られているか

数字で見る、シンガポールと日本の差

CFA Society Singapore の会員は4,000名を超え、世界に140以上ある支部の中でも上位に入ります。日本の会員は約2,000名ですから、人口規模を考えると密度はまったく違います。在留邦人が33,397人(2025年10月時点・外務省)というコミュニティの中で、金融に携わる方が集まっている都市でもあります。

この差は日常の風景として現れます。求人票に「CFA charterholder preferred」と書かれている。名刺や署名に「, CFA」が並んでいる。会議で「CFAを持っています」と言ったときに、それが何なのかを説明する必要がない。CFA®︎は意味がないのではないかという問いが日本で出てくるのは、単に周りに保有者が少ないからだと気づく瞬間があります。

運営者がシンガポールに住んで感じること

FA-Academyの運営者である私自身、シンガポールに住んでいます。現地で金融の方と話していて感じるのは、資格を「取るかどうか」ではなく「いつ取るか」で話が進むことです。若手が自分の市場価値を自分で上げにいく動きが当たり前にあり、上司もそれを前提に見ている。日本にいたときとは、資格に対する空気がはっきり違います。

もうひとつ、シンガポールは日本との時差が1時間しかありません。日本の家族や同僚とのやりとりに無理がなく、学習のリズムも崩れにくい。海外で学習を続けるうえで、地味に効く条件だと感じています。

ライセンス試験とCFA®︎は、競合ではなく順番

CMFAS・CACSCFA®︎
目的シンガポールで規制業務を行うための前提条件投資の専門性を示す国際資格
有効な範囲シンガポールのみ世界160を超える市場
在籍との関係所属する会社に紐づく。離職・帰任で終了勤務先・国に紐づかない。手元に残る
問われる内容シンガポールの法令・規制、商品知識財務分析、株式・債券、ポートフォリオ、倫理など
必要な時間モジュールごとに数週間〜各レベル300〜400時間前後
取り組む時期着任直後(業務の前提なので最優先)業務が落ち着いてから

在籍している間だけの登録と、どこでも残る専門性

この2つを「どちらが上か」で比べても意味がありません。ライセンス試験は業務の入場券で、取らない選択肢がない。CFA®︎はキャリアの資産で、取る・取らないを自分で決められる。性質が違います。

ただ、シンガポールにいる期間に限って言えば、CFA®︎に取り組むのにこれ以上の条件はなかなかありません。英語の資料が当たり前に回ってくる環境で、周囲に保有者がいて、資格の意味を説明する必要がない。さらにCACSの対象になる方であれば、Paper 2の免除という実利まで付いてきます。

いつCFA®︎に着手するか

まずライセンス、落ち着いたらLevel 1

着任直後はライセンスが業務の前提になるので、そこに集中してください。CMFASのモジュールもCACSも、着任後の数ヶ月で片付けるのが一般的な流れです。CFA®︎はその後で構いません。

Level 1は300〜400時間前後。始める時期の決め方

CFA®︎の学習には最低6ヶ月を見るべきなので、受験する試験回は「今から6ヶ月以上先」で選ぶことになります。いつの試験を狙うかはCFA®︎はいつから勉強を始めるべきか、学習の設計はLevel 1の全体像独学で合格できるのかの記事が参考になります。

英語環境にいるのに、日本語で学ぶ意味

英語で仕事をしているのだから英語の教材でいいのではないか、と思われるかもしれません。ただ、実務で使う英語と、CFA®︎のカリキュラムを英語で初見から理解する作業は別物です。限られた時間で範囲を一周するとき、概念の理解を日本語で先に済ませ、英語は用語と問題文に集中する——この分担のほうが速い。詳しくはCFA®︎に必要な英語力に書きました。

FA-Academyの受講生に海外在住の方が多いのは、学習がすべて電子ベースで完結するからです。どんな方が受講しているかは受講生の属性の記事にまとめています。海外駐在という働き方そのものについては海外駐在×CFA®︎、香港で働く場合の試験については香港で金融の仕事をする日本人が受ける試験で扱っています。

CMFAS・CACSについてのよくある質問

どのモジュールを受けるかは、自分で選ぶのですか?

所属する会社が保有するライセンスと、皆さんが実際に行う業務の組み合わせで決まります。入社時や異動時にコンプライアンス部門から指定されるのが一般的です。証券のディーリングならRES 1A・1B、ファンドマネジメントならRES 3、コーポレートファイナンスの助言ならRES 4、といった対応になり、顧客に商品を販売・推奨する立場ならCM-EIPやCM-SIPなどの商品知識モジュールが加わります。

CFA®︎を持っていると、本当にCACS Paper 2が免除されますか?

免除されます。IBFは「From 1 January 2019, CFA Charterholders are exempted from CACS 2.」と明記しています(2026年9月時点)。ただし対象は称号(charter)を保有している方に限られ、Level 1やLevel 2の合格では免除されません。またPaper 1は法令・規制の試験であるため免除はありません。申請の際は所属先のコンプライアンス部門とIBFの現行案内でご確認ください。

試験は日本語で受けられますか?

CMFAS・CACSとも英語で実施されます。日本語での実施はありません。問われるのはシンガポールの法令・規制と商品知識で、英語の難しさよりも制度の理解が中心になります。英語への不安についてはCFA®︎に必要な英語力の記事も参考になるはずです。

シンガポールを離れたら、この登録はどうなりますか?

個人の登録は所属する会社に紐づくため、その会社を離れれば終了します。シンガポールで取得したライセンスを日本に持ち帰って使うことはできません。一方でCFA®︎は勤務先や国に紐づかないので、帰任後も手元に残ります。海外での勤務経験をキャリアにどう接続するかは海外駐在×CFA®︎の記事で詳しく扱っています。

CFA®︎についてのよくある質問

ライセンス試験とCFA®︎は、どちらを先に取るべきですか?

順番は明確です。CMFASやCACSは業務を始めるための前提条件なので、着任後はまずそちらに集中してください。CFA®︎はキャリアのための投資なので、業務と生活が落ち着いてから着手するのが現実的です。Level 1の学習時間は300〜400時間前後が目安で、着任から数ヶ月後に始めても駐在期間のうちに十分間に合います。

シンガポールで働きながら、CFA®︎の学習時間は確保できますか?

確保している方がいます。FA-Academyの学習はすべて電子ベースで完結するため、海外在住の受講生が多いのが特徴です。シンガポールは日本との時差が1時間で、日本の家族や同僚とのやりとりに無理がなく、学習のリズムも崩れにくい環境です。どんな方が受講しているかもご覧ください。

シンガポールでCFA®︎はどのくらい知られていますか?

CFA Society Singapore の会員は4,000名を超え、世界に140以上ある支部の中でも上位に入ります。日本の会員数は約2,000名ですから、人口規模を考えると密度はまったく違います。求人票に「CFA charterholder preferred」と書かれ、署名に「, CFA」が並ぶ環境では、資格の意味を説明する必要がありません。

まとめ

シンガポールで金融の規制業務に携わるなら、CMFASかCACSのモジュールは避けて通れません。そのうえで、プライベートバンキングでCACSの対象になる方にとっては、CFA®︎の称号がPaper 2の免除という形で直接効いてきます。

ただ、より大きいのは環境のほうです。周囲に保有者がいて、英語の資料が当たり前に回ってきて、資格の意味を説明しなくていい。この条件は、日本に帰ってからは手に入りません。まずライセンス、落ち着いたらCFA®︎ Level 1。この順番で考えてみてください。

シンガポールから学ぶ方へ

FA-Academyは日本語でCFA®︎を学べるオンラインの講座です。学習はすべて電子ベースで完結するので、シンガポールはもちろん、どの国からでも同じ環境で進められます。まずは無料のメール講座で、合格までのロードマップを確認してください。

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出典(いずれも2026年9月時点で確認):IBF「CACS Examination Details」IBF「CMFAS Examination Details」、ABS Private Banking Code of Conduct、CFA Society Singapore、CFA Institute、外務省「海外在留邦人数調査統計」。制度・受験料は改定されることがあるため、受験・登録の際は必ず最新の原文をご確認ください。