EUには「これを受ければいい」という1本の試験がない

米国・香港・シンガポール・イギリスには、それぞれ「これに合格すれば業務に就ける」という分かりやすい試験がありました。EUはそこが違います。EU全体で共通の資格試験は存在せず、具体的な要件は加盟国ごとに決まります。フランクフルトとパリとルクセンブルクでは、やることが違うということです。

この分かりにくさこそが、EUに赴任する方が最初につまずくところなので、まず全体の構造から整理します。

共通しているのはMiFID IIとESMAのガイドライン

土台になっているのはMiFID II(第2次金融商品市場指令)の第25条1項です。ここで、投資助言や金融商品に関する情報提供を行う職員が必要な知識と能力を備えていることを、金融機関が確保するよう求めています。

その具体的な物差しを示したのが、ESMA(欧州証券市場監督機構)の「知識と能力の評価に関するガイドライン」です。2017年1月3日から適用されており、EU各国の当局はこれに沿って自国の基準を定めています。

具体的な要件は国ごとに決まる

ESMAのガイドラインは、各国の当局に対して「認める資格を具体的に公表する」か「ガイドラインの基準と、適切な資格が満たすべき特徴を公表する」かのいずれかを求めています。あわせて、必要な実務経験の長さ、監督下で働ける最長期間、資格の審査を社内で行うか社外で行うかも公表することになっています。

つまり「EUではこの資格」という答えは存在せず、赴任先の国の当局が公表している一覧を見に行くしかありません。これがEU編の結論の半分です。

ESMAのガイドラインが決めていること

国ごとに違うとはいえ、共通の枠組みはあります。押さえておくと、赴任先の制度を読むときに迷いません。

項目内容
職員の区分「投資助言を行う職員」と「情報提供のみを行う職員」で基準が分かれ、助言を行う側により高い水準が求められる
最低限の実務経験フルタイム相当で6ヶ月以上。取得した資格や提供するサービスに応じて、各国当局がこれより長い期間を定めることができる
要件を満たしていない場合資格か経験のいずれか(または両方)が足りない職員は、要件を満たす職員の監督下でのみ業務を行える
監督下で働ける期間最長4年(各国当局がより短い期間を定める場合はそれに従う)
各国当局の役割認める資格の一覧、または基準と資格が満たすべき特徴を公表する

※2026年9月時点。出典はESMA「Guidelines for the assessment of knowledge and competence」。

例:フランスのAMF認証

具体例として、日本人の赴任先として多いフランスを見てみます。フランスではAMF(金融市場庁)の職業認証が必要になります。

項目内容
対象になる職種セールス、資産運用担当、清算担当、ポストトレード担当、金融アナリスト、トレーダー、コンプライアンス・内部統制責任者(RCCI)、投資サービスコンプライアンス責任者(RCSI)。2020年1月1日以降は、すべてのファイナンシャル・インベストメント・アドバイザーも対象
試験120問の多肢選択式/最大2時間
合格ライン金融知識と職業実務の両方のセクションで80%
期限着任から6ヶ月以内に知識の検証要件を満たす。それまでは適切な監督下に置かれる
実施AMFが認定した研修機関(現在13機関)が実施。2020年以降はフランス語または英語で受験可能
有効期間生涯有効。雇用主が変わっても有効

「高等教育の資格では代替できない」と明記されている

ここは正直に書いておきます。AMFは「No higher education qualification is equivalent to the AMF examination.(AMF試験と同等の高等教育資格は存在しない)」と明記しています。つまりフランスでは、CFA®︎を持っていてもAMF試験は受けることになります。

例:ドイツ — BaFinへの従業員届出

フランクフルトは、日系金融機関の欧州拠点が集まる都市です。ドイツでは、証券サービスを提供する会社の一部の職員が、BaFin(連邦金融監督庁)に届け出られる仕組みになっています。根拠はWpHG(ドイツ証券取引法)と、その下位規則であるWpHG-Mitarbeiteranzeigeverordnung(WpHGMaAnzV)です。

届出の対象になるのは、次の3つの職種です。

  • 投資アドバイザー(Anlageberater)
  • 販売責任者(Vertriebsbeauftragte)
  • コンプライアンス責任者(Compliance-Beauftragte)

これらの職員には、専門知識(Sachkunde)と信頼性(Zuverlässigkeit)の両方が求められます。BaFinは「投資助言の質に影響を与えうる職員は、専門知識だけでなく信頼性についても一定の最低要件を満たさなければならない」としています。

届出は、会社がBaFinのMVPポータルを通じて非公開のデータベースに登録する形で行われ、苦情の件数といった監督上の情報も紐づけて管理されます。つまりドイツは、個人が制度の中に記録として残る形に近く、この点は香港やシンガポールと似ています。

どの資格が専門知識として認められるか

具体的にどの学歴・資格がSachkundeとして認められるかは、WpHGMaAnzVに定めがあります。本記事では一次資料での確認ができていないため断定は避けますが、赴任が決まったら「自分の職種が届出の対象か」「Sachkundeをどう証明するか」の2点を、人事とコンプライアンス部門に最初に確認してください。ドイツ国内の教育制度を前提に組まれている部分があるため、日本や英語圏の資格がそのまま当てはまるとは限りません。

例:オランダ — AFMとDSIの認証

アムステルダムにも日系金融の拠点があり、欧州の拠点機能が集まっている都市のひとつです。オランダの制度は、フランスやドイツとはまた違う形をしています。

AFM(金融市場庁)は、認める資格の一覧を公表していません。ESMAのガイドラインに沿って、会社が職員一人ひとりの知識と能力を評価する、という考え方を取っています。試験に受かれば終わりではなく、会社の評価が前提になる設計です。

その実務を支えているのがDSI(Stichting DSI)の認証です。AFMとDSIは職業能力に関する協定(covenant)を結んでおり、2022年11月に2年間の自動延長がされています。DSIの認証は、ESMAの「助言」と「情報提供」の区分に対応して分かれています。

区分対応するDSIの認証
投資助言を行う職員DSI Advising Retail Investment Advisor Custom Products/DSI Retail Investment Advisor Standard Products/DSI Advising Institutional Investment Advisor/DSI Advising Treasury Advisor
情報提供を行う職員DSI Retail Investment Information Provider/DSI Treasury Information Provider

※2026年9月時点。

オランダで働くことになったら、自分がどの区分に当たり、どのDSI認証に対応するのかを確認するところから始まります。

例:アイルランドのMinimum Competency Code

ダブリンも日系金融の拠点がある都市です。アイルランドではアイルランド中央銀行のMinimum Competency Code(最低能力規範)が適用され、対象となる業務ごとに認定資格が定められています。

中央銀行が公表している認定資格の一覧を確認したところ、CFA協会やCFA Society Irelandの資格は、この一覧には入っていませんでした(2026年9月時点)。掲載されているのはInstitute of Banking、The Insurance Institute of Ireland、Chartered Insurance Institute といった機関の資格です。この制度がリテール金融商品を中心に設計されていることが背景にあります。

では、EUでCFA®︎はどう効くのか

ここまで読むと「EUではCFA®︎は効かないのか」と思われるかもしれませんが、そうではありません。効き方が違うだけです。イギリスのように「試験が免除される」という形では効きませんが、EUだからこそ効く場面があります。

現地の試験は「その国で働くための条件」、CFA®︎は「どこでも残る専門性」

AMF認証は生涯有効でも、それはフランスの制度の中での話です。フランクフルトに異動すればドイツの要件が、ルクセンブルクに移ればルクセンブルクの要件が出てきます。EU圏内で異動が起きるほど、国に紐づかない資格の価値が上がります。この構造は、ひとつの国に長くいる駐在よりも、欧州内を動くキャリアでこそ効いてきます。

ESMAの枠組みは「資格+経験」で評価される

ESMAのガイドラインは、知識と能力を「適切な資格」と「実務経験」の組み合わせで評価する設計です。そして資格の審査を社内で行うか社外で行うかは、各国当局が定めることになっています。CFA®︎はこの「資格」側の評価材料になり得ますが、認められるかどうかは国と職務によって変わるので、赴任先の当局の公表内容と、所属先のコンプライアンス部門での確認が前提です。

助言を行う側に立つなら、求められる水準は上がる

ESMAのガイドラインは、情報提供のみを行う職員より、投資助言を行う職員に高い水準を求めています。運用やアドバイザリーで顧客と向き合う立場に進むほど、体系的に投資を学んだ実績が意味を持ちます。EUの制度が求めているのはまさにその中身です。

そもそもCFA®︎とはどんな資格か

ここまで制度の話をしてきましたが、CFA®︎という資格自体をご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に紹介させてください。

CFA®︎(Chartered Financial Analyst)は、米国に本部を置くCFA協会(CFA Institute)が認定する投資分野の国際資格です。日本語では「米国証券アナリスト」と呼ばれることもあります。運用会社のファンドマネージャー、リサーチアナリスト、プライベートバンクのアドバイザーなど、投資に関わる職務で世界共通の物差しとして使われており、世界160を超える市場に約20万人の資格保有者がいます。

何を問う試験なのか

試験はLevel 1・2・3の3段階で、すべて英語で実施されます。Level 1は選択式、Level 2はひとつのケース(ヴィネット)を読んで複数の設問に答える形式、Level 3は記述を含む形式です。出題範囲は職業倫理、財務諸表分析、コーポレートファイナンス、株式、債券、デリバティブ、オルタナティブ投資、ポートフォリオマネジメントと、投資の実務に必要な領域を横断します。

各国の認証試験が「その国の規制と実務」を問うのに対して、CFA®︎は「投資をどう考えるか」を問う試験です。資格そのものの評価や位置づけはCFA®︎とは何か・その価値、試験制度の全体像はCFA®︎試験の全体像の記事で扱っています。

どのくらいの時間と費用がかかるのか

合格率は各レベルとも40〜50%前後で推移しており、学習時間は1レベルあたり300〜400時間前後が目安です(300時間は最低限と考えてください)。費用は、独学中心であれば合格までおよそ60万〜70万円、サポート教材をフル活用する場合はおよそ110万〜130万円が目安になります(合格までにかかる総額)。細かい疑問はよくある質問にまとめてあります。

赴任先が決まったら、最初に確認すること

EUは国ごとに制度が違うので、赴任が決まった段階で確認すべきことは決まっています。

確認することなぜ必要か
赴任先の当局が公表している資格一覧・基準ESMAのガイドラインで各国当局に公表が求められている。ここに何が載っているかで、受ける試験が決まる
自分が「助言」側か「情報提供」側か求められる水準が変わる
着任後、いつまでに満たす必要があるかフランスは着任から6ヶ月以内。国によって異なる
監督下で働ける期間ESMAの枠組みでは最長4年。各国がより短く定める場合がある
試験を受けられる言語フランスは2020年以降、フランス語または英語で受験できる

いつCFA®︎に着手するか

まず現地の要件、そのうえでLevel 1

着任直後は現地の認証要件に期限があることが多いので、そちらを優先してください。CFA®︎はキャリアのための投資なので、業務と生活が落ち着いてから着手するのが現実的です。学習には最低6ヶ月を見るべきなので、受験する試験回は「今から6ヶ月以上先」で選ぶことになります。いつの試験を狙うかはCFA®︎はいつから勉強を始めるべきか、学習の設計はLevel 1の全体像独学で合格できるのかの記事が参考になります。

英語環境にいるのに、日本語で学ぶ意味

EUの拠点では、現地語と英語が混ざる環境で働くことになります。実務で使う英語と、CFA®︎のカリキュラムを英語で初見から理解する作業は別物です。限られた時間で範囲を一周するとき、概念の理解を日本語で先に済ませ、英語は用語と問題文に集中する——この分担のほうが速い。詳しくはCFA®︎に必要な英語力に書きました。

FA-Academyの受講生に海外在住の方が多いのは、学習がすべて電子ベースで完結するからです。どんな方が受講しているかは受講生の属性、海外駐在という働き方そのものは海外駐在×CFA®︎、他の地域の試験は香港編シンガポール編イギリス編で扱っています。

EUの資格要件についてのよくある質問

EU全体で使える共通の資格はありますか?

ありません。MiFID II 第25条1項とESMAのガイドラインという共通の枠組みはありますが、認められる資格や必要な実務経験の長さは加盟国ごとに決まります。各国の当局が、認める資格の一覧か、資格が満たすべき基準のいずれかを公表することになっているので、赴任先の当局の公表内容を確認するのが確実です。

CFA®︎を持っていれば現地の試験は免除されますか?

国と職務によりますが、EUではイギリスのような免除は期待しないほうが現実的です。フランスのAMFは「AMF試験と同等の高等教育資格は存在しない」と明記していますし、アイルランド中央銀行のMinimum Competency Codeの認定資格一覧にもCFA協会の資格は入っていません(2026年9月時点)。一方でESMAの枠組みは「適切な資格」と「実務経験」の組み合わせで能力を評価する設計なので、CFA®︎はその評価材料になり得ます。最終的な判断は赴任先の当局の公表内容と、所属先のコンプライアンス部門での確認になります。

着任してすぐに資格がないと働けませんか?

いいえ。ESMAのガイドラインでは、資格か経験が足りない職員は要件を満たす職員の監督下で業務を行うことができ、その期間は最長4年とされています(各国当局がより短く定める場合はそれに従います)。フランスの場合は、着任から6ヶ月以内に知識の検証要件を満たすこととされ、それまでは適切な監督下に置かれます。

試験は英語で受けられますか?

国によります。フランスのAMF認証は2020年以降、フランス語または英語で受験できます。他の国は現地語のみという場合もあるため、赴任先の制度を確認してください。英語への不安についてはCFA®︎に必要な英語力の記事も参考になるはずです。

CFA®︎についてのよくある質問

現地の試験とCFA®︎は、どちらを先に取るべきですか?

現地の認証には着任後の期限が設けられていることが多いので、まずそちらを優先してください。CFA®︎は期限のない投資なので、業務と生活が落ち着いてから着手するのが現実的です。Level 1の学習時間は300〜400時間前後が目安で、着任から数ヶ月後に始めても駐在期間のうちに十分間に合います。

EUで働きながら、CFA®︎の学習時間は確保できますか?

確保している方がいます。FA-Academyの学習はすべて電子ベースで完結するため、海外在住の受講生が多いのが特徴です。ヨーロッパは日本との時差が大きいぶん、早朝や夜の時間をどう使うかが鍵になります。どんな方が受講しているかもご覧ください。

EUでCFA®︎はどのくらい知られていますか?

CFA®︎はCFA協会が認定する国際資格で、世界160を超える市場に約20万人の資格保有者がいます。ヨーロッパ各国にも支部があり、運用・リサーチの現場では共通の物差しとして扱われています。現地の認証が「その国で働くための条件」であるのに対し、CFA®︎は国が変わっても残る専門性という位置づけです。

まとめ

EUは、この連載の中でいちばん答えが一本化できない地域です。共通しているのはMiFID IIとESMAのガイドラインという枠組みだけで、実際に何を受けるかは赴任先の国が決めます。フランスのようにCFA®︎で代替できないと明記している国もあります。

ただ、それはCFA®︎の価値が下がるという話ではありません。国ごとに要件が違うということは、国が変わるたびに現地の要件を満たし直すということです。その中で、どこへ移っても残るものを一つ持っておく意味は、むしろEUでこそ大きいはずです。まず現地の要件、そのうえでCFA®︎。この順番で考えてみてください。

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出典(いずれも2026年9月時点で確認):ESMA「Guidelines for the assessment of knowledge and competence」(MiFID II 第25条1項)、AMF「Professional certification: the AMF examination」Central Bank of Ireland「Minimum Competency – Qualifications」BaFin「Employee and complaints register」AFM「Knowledge and competence」DSI「ESMA guidelines」、CFA Institute。制度・要件は国ごとに異なり改定されることもあるため、赴任・受験の際は必ず赴任先当局の最新の原文をご確認ください。