Learning Module 1「Economics and Investment Markets(経済と投資市場)」は、経済要因が資産価格に影響する3つの経路、期待とその変化の役割、経済成長と実質短期金利の関係、景気循環と金利・イールドカーブ・クレジット・スプレッド・企業収益・バリュエーション倍率・商業用不動産との関係を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM1のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM1には11個のLOSがあります。

  1. LOS 1:経済要因が市場価値に影響を与えるためには、1)各満期のデフォルト・フリー金利、2)期待キャッシュフローの時期・大きさ、3)リスク・プレミアムのいずれかに影響しなければならないという考え方を説明するexplain the notion that to affect market values, economic factors must affect one or more of the following: 1) default-free interest rates across maturities, 2) the timing and/or magnitude of expected cash flows, and 3) risk premiums
  2. LOS 2:市場評価における期待および期待の変化の役割を説明するexplain the role of expectations and changes in expectations in market valuation
  3. LOS 3:経済の長期成長率、成長率のボラティリティ、実質短期金利の平均水準の関係を説明するexplain the relationship between the long-term growth rate of the economy, the volatility of the growth rate, and the average level of real short-term interest rates
  4. LOS 4:景気循環の局面が政策金利・短期金利、金利の期間構造の傾き、満期の異なる債券の相対パフォーマンスに与える影響を説明するexplain how the phase of the business cycle affects policy and short-term interest rates, the slope of the term structure of interest rates, and the relative performance of bonds of differing maturities
  5. LOS 5:インフレ非連動債とインフレ連動債の利回りスプレッドに影響する要因を説明するdescribe the factors that affect yield spreads between non-inflation-adjusted and inflation-indexed bonds
  6. LOS 6:景気循環の局面がクレジット・スプレッドと信用リスクのある債券のパフォーマンスに与える影響を説明するexplain how the phase of the business cycle affects credit spreads and the performance of credit-sensitive fixed-income instruments
  7. LOS 7:企業の製品市場の特性が企業の信用力に与える影響を説明するexplain how the characteristics of the markets for a company’s products affect the company’s credit quality
  8. LOS 8:株式の消費ヘッジ特性と株式リスク・プレミアムの関係を説明するexplain the relationship between the consumption hedging properties of equity and the equity risk premium
  9. LOS 9:景気循環の局面が短期・長期の利益成長期待に与える影響を説明するexplain how the phase of the business cycle affects short-term and long-term earnings growth expectations
  10. LOS 10:バリュエーション倍率に対する景気循環の影響を説明するdescribe cyclical effects on valuation multiples
  11. LOS 11:商業用不動産投資に影響する経済要因を説明するdescribe the economic factors affecting investment in commercial real estate

LM1のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • 金融資産の市場価値は期待キャッシュフローの割引現在価値であり、割引率は実質デフォルト・フリー金利、期待インフレ、各種リスク・プレミアムの和。景気循環はそれぞれの要素を通じて価格に影響する
  • 実質短期金利の平均水準は、経済のトレンド成長率および成長率のボラティリティと正の関係にある
  • テイラー・ルールでは、政策金利はトレンド成長率と期待インフレ(インフレ目標)の和である中立金利を中心に、インフレ率と目標の乖離や需給ギャップに応じて上下する
  • 短期名目金利は中央銀行の政策金利と密接に関係し、実質金利と期待インフレから成る
  • イールドカーブの傾きは景気循環に応じて変化し、景気後退期には急になり、景気の過熱期には平坦化・逆転しやすい
  • クレジット・スプレッドは景気拡大期に縮小し、景気後退期に拡大する傾向
  • 株式は景気が悪く消費が落ち込む局面で価格が下がりやすく消費のヘッジにならないため、株式リスク・プレミアムが求められる
  • 商業用不動産の収益は賃料と稼働率を通じて景気に左右され、債券と株式の両方の性質を持つ

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:経済要因が市場価値に影響する3つの経路

金融資産の価値は期待キャッシュフローの割引現在価値です。したがって経済要因が価格を動かすには、デフォルト・フリー金利期待キャッシュフローの時期・大きさリスク・プレミアムのいずれかに影響する必要があります。

  • 割引率 = 実質デフォルト・フリー金利 + 期待インフレ + リスク・プレミアム
  • 期待キャッシュフローは景気・企業業績の見通しで変わる
  • リスク・プレミアムは不確実性や投資家のリスク回避度で変わる
P₀ = Σ E(CFₜ) ÷ (1 + l₀,ₜ + θ₀,ₜ + ρ₀,ₜ)ᵗ

LOS 2:期待と期待の変化の役割

市場価格には既に現在の期待が織り込まれています。価格を動かすのは、経済データそのものではなく、期待との差(サプライズ)や期待の変化です。

  • 予想通りの情報は価格に織り込み済み
  • 予想外のニュースが期待キャッシュフローや割引率を変え、価格を動かす
  • 同じ経済指標でも市場予想との比較で解釈が変わる

LOS 3:経済成長と実質短期金利

実質短期金利の平均水準は、経済のトレンド成長率が高いほど、また成長率のボラティリティが大きいほど高くなります。消費を平準化したい投資家は、将来の消費が増える経済ほど現在の貯蓄に高い見返りを求めるためです。

  • 異時点間の消費選択と限界効用の考え方が基礎
  • 成長率が高い経済:現在消費の価値が相対的に高く、実質金利が高い
  • 成長の不確実性が高い経済:実質金利が高くなる
  • 低成長・安定的な経済:実質金利が低い

LOS 4:景気循環と金利・イールドカーブ

中央銀行は景気とインフレに応じて政策金利を調整し、短期金利はそれに連動します。テイラー・ルールが政策金利の目安で、イールドカーブの傾きは景気の局面によって変化します。

  • 中立金利 = トレンド成長率 + インフレ目標(期待インフレ)
  • インフレが目標を上回る、または需給ギャップがプラスなら政策金利は中立金利より上
  • 景気後退期:政策金利引き下げで短期金利が低下し、カーブが急になる
  • 景気のピーク付近:カーブは平坦化・逆転しやすい
  • 景気後退が予想される局面では長期債が相対的に好成績になりやすい
i = rₙ + π + 0.5 ×(π − π*)+ 0.5 ×(Y − Y*)(rₙ:中立実質金利、π*:インフレ目標、Y − Y*:需給ギャップ)

LOS 5:インフレ連動債と通常債の利回りスプレッド

通常の名目債とインフレ連動債の利回り差(ブレークイーブン・インフレ率)は、期待インフレ率インフレ・リスク・プレミアムで構成されます。流動性の違いなども影響します。

  • 名目債の利回り = 実質利回り + 期待インフレ + インフレ・リスク・プレミアム
  • インフレ連動債はインフレ・リスクを負わない
  • インフレの不確実性が高いほどインフレ・リスク・プレミアムは大きい
  • インフレ連動債の流動性が低い場合、その分もスプレッドに影響
ブレークイーブン・インフレ率 = 名目債利回り − インフレ連動債利回り

LOS 6:景気循環とクレジット・スプレッド

クレジット・スプレッドは景気拡大期に縮小し、景気後退期にデフォルト・リスクへの懸念から拡大します。信用力の低い債券ほどスプレッドの変動が大きくなります。

  • 景気後退期:デフォルト率上昇、スプレッド拡大、低格付債のパフォーマンス悪化
  • 景気回復期:スプレッド縮小で社債(特にハイイールド)が国債を上回りやすい
  • スプレッドは期待損失と信用リスク・プレミアムから成る
  • 低格付ほど景気感応度が高い

LOS 7:製品市場の特性と信用力

企業の信用力は、その企業が販売する製品市場の特性にも左右されます。需要が景気に敏感な製品競争の激しい市場で事業を行う企業は、キャッシュフローが不安定で信用力が低くなりやすいです。

  • 生活必需品など需要が安定した市場:キャッシュフローが安定し信用力が高い
  • 景気敏感な市場:景気後退期にキャッシュフローが悪化しやすい
  • 価格決定力や参入障壁が高いほど信用力にプラス
  • 財務レバレッジや業種特性も考慮

LOS 8:株式の消費ヘッジ特性とリスク・プレミアム

株式は景気が悪化し消費が落ち込む局面で価格が下がりやすく、消費のヘッジとして機能しにくい資産です。投資家はそのリスクを負う見返りとして株式リスク・プレミアムを求めます。

  • 悪い時期に価値が下がる資産ほど高いリスク・プレミアムが求められる
  • 株式は債券よりも景気悪化時の損失が大きい
  • 株式リスク・プレミアムは景気後退期に拡大しやすい
  • 景気循環とリスク回避度の変化が株価を動かす

LOS 9:景気循環と利益成長期待

企業の短期の利益成長期待は景気循環の局面によって大きく変動します。一方、長期の利益成長期待は経済のトレンド成長率に近く、循環の影響は相対的に小さくなります。

  • 景気回復・拡大初期:利益が急回復しやすい
  • 景気後退期:利益の落ち込み、特に景気敏感業種で大きい
  • 長期の利益成長はトレンドGDP成長率に制約される
  • 景気敏感株とディフェンシブ株で循環への感応度が異なる

LOS 10:バリュエーション倍率への景気循環の影響

株価収益率(P/E)などのバリュエーション倍率は、景気の局面に応じて変化します。一般にP/Eは景気拡大期に上昇し、景気後退期に低下する傾向があります。高いP/Eは、実質金利の低下、株式リスク・プレミアムの低下、将来の実質利益成長期待の高まり、事業・財務リスクの低下などを反映します。

  • 倍率は期待成長率が高く、割引率(金利・リスク・プレミアム)が低いほど高い
  • 景気拡大期に上昇、景気後退期に低下しやすい
  • インフレや金利の水準も倍率に影響
  • 同じ倍率でも景気局面を踏まえて解釈する

LOS 11:商業用不動産に影響する経済要因

商業用不動産の価値は、賃料収入という債券的な要素と、賃料や物件価値が景気に連動する株式的な要素を併せ持ちます。景気、金利、クレジット環境、需給が主な要因です。

  • 長期リース・高信用テナント:債券に近い性格
  • 短期リース・景気敏感な物件:株式に近い性格
  • 景気後退期:空室率上昇と賃料低下で収益と価値が低下
  • 金利・クレジット・スプレッドの上昇はキャップレート上昇を通じて価値を下げる
  • 供給の増加(新規開発)の動向も重要

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