イギリスで金融の仕事に就くと、何が必要になるか

イギリスに赴任すると、香港やシンガポールとは少し違う話から始まります。あちらは「個人が当局に登録され、そのために所定の試験に合格する」という仕組みでした。イギリスは、資格の取得そのものは個人で完結し、その資格を持った人を業務に就かせてよいかを勤務先が判断する、という形になっています。

業務ごとに「適格資格」が求められる

FCA(Financial Conduct Authority/金融行為規制機構)は、Training and Competence(TC)というルールの中で、一定の業務には「適格資格(appropriate qualification)」の保有を求めています。対象になるのは、証券やデリバティブについて顧客に助言する業務、リテール投資商品について助言する業務、そして運用(managing investments)などです。

つまり「ライセンス試験に受からないと何もできない」というより、担当する業務によって、認められた資格の中から該当するものを持っている必要があるという形です。どの資格が認められるかは、FCAが資格の一覧表として公表しています。

もう一点、混同しやすいので分けて書いておきます。資格を取ること自体は、個人で完結します。IMCは勤務先のスポンサーが不要で、個人で申し込んで受験できます。一方で、その人を実際の業務に就かせてよいかを判断するのは勤務先です。FCAのルールには「A firm must not assess an employee as competent to carry on an activity … until the employee has demonstrated the necessary competence to do so.」(TC 2.1.1R)とあり、能力の評価は会社が行う建て付けになっています。さらに、リテール投資商品について個人的推奨を行うなど一部の業務では、業務を始める前に資格を取得していることが求められます(TC 2.1.6R・2.1.7R)。

業界の入口になっているのがIMC

その一覧に載っている資格のうち、イギリスの投資業界でもっとも広く使われているのがIMC(Investment Management Certificate)です。運用会社に入ると最初に取ることになる資格で、フロントだけでなくミドル・バックの方も受けています。

そして、このIMCを運営しているのがCFA UK(CFA協会の英国支部)です。ここがイギリス編のいちばん面白いところで、後ほど詳しく書きます。

IMC:2つのユニットと、その中身

IMCはUnit 1「Investment Environment(投資環境)」とUnit 2「Investment Practice(投資実務)」の2科目構成です。

Unit 1:投資環境Unit 2:投資実務
問題数85問105問
試験時間1時間40分2時間20分
合格ライン65〜75%(回次により変動)60〜70%(回次により変動)
受験料£365£390
推奨学習時間約100時間約140時間

※2026年9月時点。

受験のしやすさが、香港やシンガポールと違う

IMCの受験はPearson VUEのテストセンターで毎営業日、さらにオンライン試験(OnVUE)なら24時間いつでも受けられます。そして勤務先のスポンサーは不要で、個人で申し込めます。香港やシンガポールが「会社に紐づく登録」を前提にしていたのに対し、イギリスは資格そのものを個人で取りに行ける設計です。転職活動中の方や、これから現地で職を探す方でも先に取っておけます。

誰が受けているのか

CFA UKによれば、IMCは年間およそ4,000回の受験があり、そのうち約30%が規制上の要件を満たすために受けています。裏を返せば残りの7割は、要件ではなく業界の共通言語として取っているということです。BlackRock、Schroders、JP Morgan、Goldman Sachsといった大手の社員が受けており、実質的に業界の標準になっています。

FCAの資格一覧に、CFA®︎の名前がある

ここからがイギリス編の核心です。FCAが公表している適格資格の表には、CFA協会のCFA Programが明記されています。証券やデリバティブへの助言、リテール投資商品への助言といった業務について、表にはこう書かれています。

Completion of CFA Program plus Investment Management Certificate Unit 1: The investment environment

(CFA Programの修了に加えて、IMC Unit 1「投資環境」)

つまりイギリスでは、CFA®︎を持っている人はIMC Unit 1を足すだけで、規制上の適格資格が揃うという扱いになっています。運用(managing investments)についても、CFA Programが表に載っています。

CFA®︎ Level I 以上で、IMC Unit 2 が免除される

制度はもう一段かみ合っています。CFA UKの免除規定では、CFA®︎ Level I 以上に合格していれば、IMC Unit 2の免除を申請できます。ただし条件があり、リテール(個人)投資家への助言を行わない場合に限られます。

3レベルすべてに合格している場合は制限がなく、リテール投資家に助言する立場でもUnit 2が免除されます。

CFA®︎の到達段階IMC Unit 2 の扱い
Level I または Level II 合格リテール(個人)投資家への助言を行わないことを条件に免除
Level III 合格リテール投資家に助言する場合も含めて免除
いずれの場合もUnit 1 は受ける必要がある

この制度がなぜ効くのか

香港ではライセンス試験がそのまま必要で、シンガポールでも免除が効くのは称号(charter)を持っている方だけでした。イギリスはLevel I の合格だけで免除の対象になるという点で、3つの地域の中でもっとも早い段階から実利が出ます。学習を始めて最初の1年で、現地の資格要件の一部が片付く計算になります。

そもそもCFA®︎とはどんな資格か

ここまで試験の話をしてきましたが、CFA®︎という資格自体をご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に紹介させてください。

CFA®︎(Chartered Financial Analyst)は、米国に本部を置くCFA協会(CFA Institute)が認定する投資分野の国際資格です。日本語では「米国証券アナリスト」と呼ばれることもあります。運用会社のファンドマネージャー、リサーチアナリスト、プライベートバンクのアドバイザーなど、投資に関わる職務で世界共通の物差しとして使われており、世界160を超える市場に約20万人の資格保有者がいます。

何を問う試験なのか

試験はLevel 1・2・3の3段階で、すべて英語で実施されます。Level 1は選択式、Level 2はひとつのケース(ヴィネット)を読んで複数の設問に答える形式、Level 3は記述を含む形式です。出題範囲は職業倫理、財務諸表分析、コーポレートファイナンス、株式、債券、デリバティブ、オルタナティブ投資、ポートフォリオマネジメントと、投資の実務に必要な領域を横断します。

IMCが「イギリスで業務を行うための条件」を満たす資格であるのに対し、CFA®︎は「投資をどう考えるか」を問う試験です。資格そのものの評価や位置づけはCFA®︎とは何か・その価値、試験制度の全体像はCFA®︎試験の全体像の記事で扱っています。

どのくらいの時間と費用がかかるのか

合格率は各レベルとも40〜50%前後で推移しており、学習時間は1レベルあたり300〜400時間前後が目安です(300時間は最低限と考えてください)。IMCの推奨学習時間がUnit 1で約100時間、Unit 2で約140時間ですから、CFA®︎のほうが1レベルあたりでも重い試験だと分かります。費用は、独学中心であれば合格までおよそ60万〜70万円、サポート教材をフル活用する場合はおよそ110万〜130万円が目安です(合格までにかかる総額)。細かい疑問はよくある質問にまとめてあります。

イギリスでCFA®︎はどう見られているか

業界の入口の資格を、CFA協会の英国支部が運営している

これがイギリスの特徴です。運用会社の新人が最初に取るIMCを、CFA UK——つまりCFA協会の英国支部——が運営しています。日本で言えば、業界の標準資格をCFA協会の日本支部が出しているようなもので、そんな状況は日本にはありません。

結果として、IMCを取った人の多くが次のステップとしてCFA®︎を意識します。運営主体が同じなので、免除の仕組みまで用意されている。イギリスでは、IMCとCFA®︎が最初から地続きに設計されていると考えたほうが実態に近いはずです。

規制当局の資格一覧に名前が載っているということ

FCAの表にCFA Programが明記されているという事実は、現地での扱いをよく表しています。日本で「CFAとは何ですか」と説明が必要な場面は、イギリスではまず起きません。求人票に書かれ、署名に「, CFA」が並び、規制の文書にも名前が出てくる。CFA®︎は意味がないのではないかという問いが日本で出てくるのは、単に周りに保有者が少ないからだと気づく瞬間があります。

IMCとCFA®︎は、競合ではなく順番

IMCCFA®︎
目的イギリスで業務を行うための適格資格投資の専門性を示す国際資格
有効な範囲イギリスの規制上の要件世界160を超える市場
在籍との関係個人の資格として残る(スポンサー不要)勤務先・国に紐づかない
問われる内容投資環境と投資実務の基礎財務分析、株式・債券、ポートフォリオ、倫理など
必要な時間Unit 1 約100時間/Unit 2 約140時間各レベル300〜400時間前後
取り組む時期着任後(業務によっては開始前に必要)並行、または業務が落ち着いてから

どちらから始めるかは、リテール顧客に助言するかで変わる

リテール(個人)投資家への助言を行わない立場であれば、CFA®︎ Level I に合格した時点でUnit 2の免除を申請でき、残りはUnit 1だけになります。この場合はCFA®︎を先に進めるほうが合理的です。一方、着任直後からリテール顧客に助言する立場であれば、免除の条件から外れるので、IMCを2科目とも先に片付けてからCFA®︎に進む形になります。

いずれにしても、両者は競合しません。IMCは業務の入場券、CFA®︎はキャリアの資産で、性質が違います。

いつCFA®︎に着手するか

Level 1は300〜400時間前後。始める時期の決め方

CFA®︎の学習には最低6ヶ月を見るべきなので、受験する試験回は「今から6ヶ月以上先」で選ぶことになります。いつの試験を狙うかはCFA®︎はいつから勉強を始めるべきか、学習の設計はLevel 1の全体像独学で合格できるのかの記事が参考になります。

英語環境にいるのに、日本語で学ぶ意味

英語で仕事をしているのだから英語の教材でいいのではないか、と思われるかもしれません。ただ、実務で使う英語と、CFA®︎のカリキュラムを英語で初見から理解する作業は別物です。限られた時間で範囲を一周するとき、概念の理解を日本語で先に済ませ、英語は用語と問題文に集中する——この分担のほうが速い。詳しくはCFA®︎に必要な英語力に書きました。

FA-Academyの受講生に海外在住の方が多いのは、学習がすべて電子ベースで完結するからです。イギリスは日本との時差が大きいぶん、早朝や夜の時間の使い方が鍵になります。どんな方が受講しているかは受講生の属性、海外駐在という働き方そのものは海外駐在×CFA®︎、他の地域の試験は香港編シンガポール編で扱っています。

IMC・FCAについてのよくある質問

IMCは誰でも受けられますか?

受けられます。勤務先のスポンサーは不要で、個人で申し込めます。受験はPearson VUEのテストセンターで毎営業日、オンライン試験(OnVUE)なら24時間いつでも可能です。これから現地で職を探す方や転職活動中の方が、先に取っておくこともできます。

CFA®︎を持っているとIMCは免除されますか?

Unit 2が免除の対象になります。CFA UKの免除規定では、CFA®︎ Level I 以上に合格していれば Unit 2 の免除を申請でき、ただしリテール(個人)投資家への助言を行わない場合に限られます。3レベルすべてに合格していれば、リテール投資家に助言する立場でも免除されます。Unit 1 はいずれの場合も受ける必要があります(2026年9月時点)。申請の際はCFA UKの現行案内と、所属先のコンプライアンス部門でご確認ください。

FCAの規制上、どの業務に資格が必要なのですか?

FCAのTraining and Competence(TC)ルールで、証券やデリバティブについて顧客に助言する業務、リテール投資商品について助言する業務、運用(managing investments)などに「適格資格(appropriate qualification)」の保有が求められます。どの資格が該当するかはFCAが一覧表で公表しており、その表にはCFA ProgramとIMCの両方が載っています。

IMCの試験は英語だけですか?

英語で実施されます。Unit 1が85問・1時間40分、Unit 2が105問・2時間20分で、いずれも合格ラインは回次によって変動します(目安としてUnit 1が65〜75%、Unit 2が60〜70%)。英語への不安についてはCFA®︎に必要な英語力の記事も参考になるはずです。

CFA®︎についてのよくある質問

IMCとCFA®︎は、どちらを先に取るべきですか?

リテール(個人)投資家への助言を行わない立場なら、CFA®︎ Level I に合格した時点でUnit 2の免除を申請できるので、CFA®︎を先に進めるほうが合理的です。着任直後からリテール顧客に助言する立場なら免除の条件から外れるため、IMCを2科目とも先に片付けてからCFA®︎に進む形になります。

イギリスで働きながら、CFA®︎の学習時間は確保できますか?

確保している方がいます。FA-Academyの学習はすべて電子ベースで完結するため、海外在住の受講生が多いのが特徴です。イギリスは日本との時差が大きいぶん、早朝や夜の時間をどう使うかが鍵になります。どんな方が受講しているかもご覧ください。

イギリスでCFA®︎はどのくらい知られていますか?

イギリスの投資業界で広く使われているIMCを運営しているのが、CFA協会の英国支部であるCFA UKです。さらにFCAが公表する適格資格の一覧にもCFA Programが明記されています。求人票に書かれ、署名に「, CFA」が並ぶ環境なので、資格の意味を説明する必要がありません。

まとめ

イギリスは、3つの地域の中でCFA®︎ともっとも噛み合っている市場です。業界の入口の資格であるIMCをCFA協会の英国支部が運営し、FCAの適格資格の一覧にはCFA Programの名前が載り、そしてLevel I の合格だけでIMC Unit 2の免除対象になる。学習を始めて最初の1年で、現地の資格要件の一部が片付きます。

リテール顧客に助言するかどうかで順番は変わりますが、どちらにしてもIMCとCFA®︎は競合しません。目の前の要件を満たしながら、どこでも残る専門性を積み上げていく——イギリスはそれがいちばんやりやすい場所だと思います。

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▶ 海外で金融の仕事をする日本人が受ける試験(地域別):香港(SFC・HKSI LE)シンガポール(CMFAS・CACS)EU(MiFID II・ESMA)

出典(いずれも2026年9月時点で確認):CFA UK「Investment Management Certificate」CFA UK「Exemptions policy」FCA Handbook「TC Appendix 4」、CFA Institute。制度・受験料・免除の条件は改定されることがあるため、受験・申請の際は必ず最新の原文をご確認ください。