Learning Module 6「Fixed-Income Active Management: Credit Strategies(債券アクティブ運用:クレジット戦略)」は、スプレッド商品のリスクの考え方、信用スプレッド指標の長所・短所とOASが最適とされる理由、ボトムアップとトップダウンのクレジット戦略、流動性リスクとテールリスクの管理、CDS戦略とスプレッド見通しの実行方法、国際クレジット市場、ストラクチャード商品、分析ツールの活用を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM6のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM6には11個のLOSがあります。

  1. LOS 1:スプレッド・ベースの債券ポートフォリオにおけるリスクの考慮事項を説明するdescribe risk considerations for spread-based fixed-income portfolios
  2. LOS 2:スプレッド・ベースの債券ポートフォリオにおける信用スプレッド指標の長所と短所を論じ、オプション調整後スプレッドが最も適切な指標とされる理由を説明するdiscuss the advantages and disadvantages of credit spread measures for spread-based fixed-income portfolios, and explain why option-adjusted spread is considered the most appropriate measure
  3. LOS 3:クレジット戦略におけるボトムアップ・アプローチを論じるdiscuss bottom-up approaches to credit strategies
  4. LOS 4:クレジット戦略におけるトップダウン・アプローチを論じるdiscuss top-down approaches to credit strategies
  5. LOS 5:クレジット市場の流動性リスクと、クレジット・ポートフォリオにおける流動性リスクの管理方法を論じるdiscuss liquidity risk in credit markets and how liquidity risk can be managed in a credit portfolio
  6. LOS 6:クレジット・ポートフォリオのテールリスクを評価・管理する方法を説明するdescribe how to assess and manage tail risk in credit portfolios
  7. LOS 7:アクティブな債券ポートフォリオ運用におけるクレジット・デフォルト・スワップ戦略の利用を論じるdiscuss the use of credit default swap strategies in active fixed-income portfolio management
  8. LOS 8:特定の信用スプレッドの見通しを実行するために運用者が使えるさまざまなポジショニング戦略を論じるdiscuss various portfolio positioning strategies that managers can use to implement a specific credit spread view
  9. LOS 9:国際クレジット市場にまたがるポートフォリオの構築・運用における考慮事項を論じるdiscuss considerations in constructing and managing portfolios across international credit markets
  10. LOS 10:クレジット・ポートフォリオにおいて、社債の代替としてストラクチャード金融商品を利用することを説明するdescribe the use of structured financial instruments as an alternative to corporate bonds in credit portfolios
  11. LOS 11:債券ポートフォリオ運用に分析ツールを用いる際の主要なインプット、アウトプット、考慮事項を説明するdescribe key inputs, outputs, and considerations in using analytical tools to manage fixed-income portfolios

LM6のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • 利回りスプレッドは、期待した利息・元本を受け取れないリスクと、現在の市場環境での売買コストに対する対価。信用リスクの主要な構成要素はデフォルト確率(POD)とデフォルト時損失率(LGD)
  • 信用スプレッドは、景気循環に伴う信用の拡大・収縮(クレジット・サイクル)で変化する。ハイイールド発行体はPODの変化が大きく、ディストレスト債の価格は回収率に近づく
  • 固定利付債のスプレッド指標は実際の・補間した・ゼロ・カーブのベンチマークを使い分けるが、OASはオプション付き債券とオプションなし債券の比較を可能にする。変動利付債は参照金利(MRR)にスプレッドを加えた利息を払う
  • スプレッド・デュレーションはスプレッド変化に対する価格感応度。低格付債ほどスプレッドは絶対幅ではなく水準に比例して変化しやすい
  • ボトムアップ戦略は財務比率分析、Zスコアなどの誘導型モデル、構造型モデルを用いる。トップダウン戦略はマクロ要因にもとづき、格付けや業種で投資判断をまとめる。ESGを含むファクター投資も広がっている
  • クレジット市場の流動性リスクは市場構造の違いから株式より高い。テールリスクはVaRや期待ショートフォールで測り、ポジション上限、リスク・バジェッティング、デリバティブで管理する
  • CDSなどのクレジット・デリバティブは、発行体・セクター・年限のオーバー・アンダーウェイトを実現する流動性の高い合成的手段。クレジット・カーブのスティープ化は低いデフォルト予想と高い成長予想、フラット化・逆転はデフォルト予想の上昇を示す
  • 国際クレジットでは先進国と新興国を区別する。ストラクチャード商品は、流動性の高い債券プールや不動産・消費者ローン由来のキャッシュフローへのアクセスと、トランチングによるリターン強化をもたらす。分析ツールではインプットと前提の正確さ、アウトプットと運用目的の整合が重要

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:スプレッド・ベース債券ポートフォリオのリスク

利回りスプレッドは、信用リスク(デフォルト確率PODとデフォルト時損失率LGD)と流動性リスク(売買コスト)に対する対価です。スプレッドはクレジット・サイクルに応じて変化し、とくにハイイールド債ではPODの変化が大きくなります。

  • 期待損失=POD×LGD(LGD=1−回収率)
  • クレジット・サイクル:景気拡大期にスプレッド縮小、後退期に拡大
  • ハイイールド債:PODの変動が大きく、ディストレスト時は価格が回収率に近づく
  • 投資適格債:金利リスクの比重が大きく、ハイイールド債は信用リスクの比重が大きい
  • スプレッド・デュレーション:スプレッド変化に対する価格感応度
超過リターン ≈ (s × t) − (SD × Δs) − (t × POD × LGD)

LOS 2:信用スプレッド指標とOAS

スプレッド指標には、Gスプレッド(国債との差)、Iスプレッド(スワップ・レートとの差)、Zスプレッド(国債ゼロ・カーブ全体に一定のスプレッドを加える)、OASなどがあります。OASは組込オプションの価値を除いたスプレッドなので、オプション付き債券とオプションなし債券を同じ土俵で比較でき、最も適切な指標とされます。

  • Gスプレッド:単純だが、満期の合う国債がないと補間が必要、ゼロ・カーブの形状を反映しない
  • Iスプレッド:スワップ・カーブを基準にする、ヘッジとの整合性
  • アセット・スワップ・スプレッド:固定利付債を変動に交換した場合のスプレッド
  • Zスプレッド:カーブ全体を使うが、組込オプションを考慮しない
  • OAS:金利モデルでオプション価値を除く、金利ボラティリティの前提に依存
  • 変動利付債:クォーテッド・マージン、ディスカウント・マージン

LOS 3:ボトムアップのクレジット戦略

ボトムアップ戦略は個別の発行体・銘柄の信用力を評価し、同程度のリスクの中で相対的に割安なものを選びます。財務比率分析誘導型モデル(Zスコアなど)、構造型モデルを用い、スプレッドを信用リスクと比べて判断します。

  • ユニバースを業種・格付けなどで比較可能なグループに分ける
  • 財務比率:レバレッジ、カバレッジ、収益性など
  • 誘導型モデル:Zスコアなど財務データからデフォルトを予測
  • 構造型モデル:株価と負債から企業資産の価値を推定し、デフォルト確率を求める
  • 相対価値:スプレッド・デュレーションあたりのスプレッドなどで比較
  • 流動性や銘柄固有の事情も考慮

LOS 4:トップダウンのクレジット戦略

トップダウン戦略は、経済成長、クレジット・サイクル、金利、業種の動向などのマクロ要因から判断し、格付け(信用度)業種セクター単位で配分を決めます。

  • 景気拡大の予想:信用度を下げる(ハイイールドを増やす)、スプレッド・デュレーションを延ばす
  • 景気後退の予想:信用度を上げる
  • 業種セクターの配分:景気感応度の違いを利用
  • スプレッドの予想は比率ベースで考えることが多い(低格付ほど変化幅が大きい)
  • ファクター投資:規模、バリュー、モメンタム、ESGなど

LOS 5:クレジット市場の流動性リスクと管理

クレジット市場はディーラー中心の店頭市場で、銘柄数が多く多くの銘柄の取引が少ないため、株式より流動性リスクが高くなります。短期の戦術的なポジションには流動性の高い債券を使い、流動性の低い銘柄は買い持ち戦略に回すなど、目的に応じて使い分けて管理します。

  • 流動性は新発・大型の銘柄で高く、既発・小型の銘柄で低い
  • ストレス時にはディーラーの在庫縮小で流動性が急低下
  • 短期の戦術的ポジション:流動性の高い債券やデリバティブ
  • 買い持ち:流動性の低い銘柄で非流動性プレミアムを得る
  • アクティブ運用の付加価値が小さい部分はETF・CDSなど流動性の高い代替手段

LOS 6:クレジット・ポートフォリオのテールリスク

テールリスクは、VaR期待ショートフォールで定量化し、ポジション上限リスク・バジェッティングデリバティブで管理します。クレジットのリターン分布は、デフォルトによる大きな損失で左に歪んでいる点に注意が必要です。

  • VaR:一定の信頼水準で生じうる最小損失
  • 期待ショートフォール(CVaR):VaRを超えた場合の平均損失
  • VaRの手法:パラメトリック、ヒストリカル、モンテカルロ
  • 管理:銘柄・セクターのポジション上限、リスク・バジェット
  • デリバティブ:CDSプロテクションの購入、CDXのプロテクション、プット・オプション

LOS 7:CDS戦略の利用

CDSは、発行体・セクター・年限ごとの信用リスクを、現物債より流動性が高く合成的にオーバー・アンダーウェイトする手段です。プロテクションの売りは信用リスクを取るロング、買いは信用リスクを減らすショートに相当します。

  • 単一銘柄CDSとインデックスCDS(CDXなど)
  • プロテクションの売り=信用リスクのロング、買い=ショート
  • ロング・ショート:信用力が改善する発行体を売りプロテクション、悪化する発行体を買いプロテクション
  • クレジット・カーブ戦略:年限の異なるCDSの組み合わせ
  • ベーシス取引:現物債とCDSのスプレッド差を利用
  • 現物債の空売りの難しさを回避できる

LOS 8:信用スプレッドの見通しの実行

クレジット・スプレッドの水準とカーブの傾きはクレジット・サイクルに沿って変化します。安定したカーブを予想するならスプレッド・デュレーションや信用リスクを増やし、異なる見通しがある場合は、発行体・セクター・市場全体について現物やデリバティブで実行します。

  • クレジット・カーブのスティープ化:短期のデフォルト予想が低く成長予想が高い
  • フラット化・逆転:デフォルト予想の上昇、成長予想の低下
  • 安定したカーブ:スプレッド・デュレーションの追加、平均の信用リスクを高める(ロールダウンも得る)
  • スプレッド拡大の予想:信用度を上げる、プロテクションの買い
  • スティープナー・フラットナーをCDSや現物で構築

LOS 9:国際クレジット市場の考慮事項

国際クレジット市場では先進国新興国を区別します。先進国は共通のマクロ要因の影響を受けつつ、景気・信用サイクルの違いが金利・為替・スプレッドの差になります。新興国は成長率が高い一方、ソブリン・地政学リスク、通貨規制、資本規制が大きくなります。

  • 先進国:景気・信用サイクルのずれが相対価値の機会
  • 新興国:高い成長、商品価格への依存、ソブリン・地政学リスク
  • 新興国:外貨建てと現地通貨建ての違い、通貨の交換・送金の制限
  • 為替リスク:ヘッジするかどうか、ヘッジ・コスト
  • 法制度・破産手続・会計基準の違い

LOS 10:ストラクチャード金融商品の利用

ストラクチャード商品は、社債の代わりとして、流動性の高い債券プールや不動産・消費者ローン由来のキャッシュフローへのアクセスを与えます。トランチングによって、リスクとリターンの異なる部分を選べるため、ボラティリティやレバレッジ(負債のエクスポージャー)を加えてリターンを高めることもできます。

  • MBS:住宅ローン由来、期限前償還リスク(ネガティブ・コンベクシティ)
  • ABS:オートローン、クレジットカードなど消費者ローン由来
  • CLO:レバレッジド・ローンのプールをトランチングしたもの
  • カバード・ボンド:発行体の信用と担保プールの二重の保護
  • 劣後トランチほど信用リスクと期待リターンが高い

LOS 11:分析ツールの活用

債券の分析ツールは、保有銘柄・市場データ・モデルの前提をインプットとし、デュレーション、スプレッド・デュレーション、キー・レート・デュレーション、シナリオ分析などのアウトプットを出します。重要なのは、インプットと前提の正確さと、アウトプットが運用目的と整合していることです。

  • インプット:保有銘柄と条件、価格・利回り、金利・スプレッド・ボラティリティの前提
  • アウトプット:リスク・エクスポージャー、期待リターン、シナリオ別の損益
  • オプション付き債券やストラクチャード商品はモデルの前提に敏感
  • 前提の誤りはアウトプットを大きく歪める
  • ツールの結果を運用者の目的・制約と照らして使う

効率よく学ぶには FA-Academy

CFA®︎の協会テキストは英語で分量も多く、1つひとつの単元を英語だけで理解していくのは大きな負担です。

FA-Academy(Financial Analyst Academy)は、日本語で学べる数少ないCFA®︎試験サポートです。これまで Level 1 から Level 3 まで多くの合格者を輩出しており、合格者の方々との対談も数多く公開しています。どんな方が、どのように合格されたのかは合格者対談・合格体験談の一覧からご覧いただけます。