Learning Module 1「Currency Exchange Rates: Understanding Equilibrium Value(為替レートの均衡価値)」は、為替のビッド・オファー・スプレッドと三角裁定、フォワード・レートと先渡契約の時価評価、国際パリティ条件とその相互関係、キャリー・トレード、国際収支・金融財政政策と為替の関係、介入・資本規制、通貨危機の兆候を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM1のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM1には13個のLOSがあります。

  1. LOS 1:直物または先渡の為替相場のビッド・オファー・スプレッドを計算・解釈し、スプレッドに影響する要因を説明するcalculate and interpret the bid–offer spread on a spot or forward currency quotation and describe the factors that affect the bid–offer spread
  2. LOS 2:3つの通貨のビッド・オファー相場から三角裁定の機会を特定し、その利益を計算するidentify a triangular arbitrage opportunity and calculate its profit, given the bid– offer quotations for three currencies
  3. LOS 3:直物レートとフォワード・レートを説明し、ある通貨のフォワード・プレミアム/ディスカウントを計算するexplain spot and forward rates and calculate the forward premium/discount for a given currency
  4. LOS 4:為替先渡契約の値洗い(時価)を計算するcalculate the mark-to-market value of a forward contract
  5. LOS 5:国際パリティ条件(カバー付き・カバーなし金利平価、フォワード・レート・パリティ、購買力平価、国際フィッシャー効果)を説明するexplain international parity conditions (covered and uncovered interest rate parity, forward rate parity, purchasing power parity, and the international Fisher effect)
  6. LOS 6:国際パリティ条件の相互関係を説明するdescribe relations among the international parity conditions
  7. LOS 7:現在の直物レート、フォワード・レート、購買力平価、カバーなし金利平価を将来の直物レートの予測に使うことを評価するevaluate the use of the current spot rate, the forward rate, purchasing power parity, and uncovered interest parity to forecast future spot exchange rates
  8. LOS 8:為替レートの長期的な適正価値を評価するアプローチを説明するexplain approaches to assessing the long-run fair value of an exchange rate
  9. LOS 9:キャリー・トレードとカバーなし金利平価との関係を説明し、キャリー・トレードの利益を計算するdescribe the carry trade and its relation to uncovered interest rate parity and calculate the profit from a carry trade
  10. LOS 10:国際収支の各勘定のフローが為替レートに与える影響を説明するexplain how flows in the balance of payment accounts affect currency exchange rates
  11. LOS 11:金融政策と財政政策が為替レートに与える潜在的な影響を説明するexplain the potential effects of monetary and fiscal policy on exchange rates
  12. LOS 12:中央銀行や政府による為替介入と資本規制の目的を説明し、それらの有効性を説明するdescribe objectives of central bank or government intervention and capital controls and describe the effectiveness of intervention and capital controls
  13. LOS 13:通貨危機の警告サインを説明するdescribe warning signs of a currency crisis

LM1のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • 直物レートは次の決済日(通常 T+2)に受け渡す取引に、フォワード・レートはそれより長い期日の取引に適用される
  • ビッド・オファー・スプレッドは通貨ペア、時間帯、市場のボラティリティ、取引金額、ディーラーと顧客の関係で決まり、流動性が高く主要市場が開いていて変動が小さいときに狭い
  • ディーラーのクロス・レートがインターバンク市場から導かれるクロス・レートと矛盾すると三角裁定の機会が生じる
  • フォワード・ポイントは金利差にほぼ比例し、プラスならベース通貨はフォワード・プレミアム、マイナスならディスカウント
  • 理想的には期待インフレ率の差が名目金利差を決め、金利差がフォワード・レートを決め、フォワード・レートが将来の直物レートを正しく予測する
  • 裁定で強制されるカバー付き金利平価を除き、パリティ条件は短中期ではほとんど成立しないが、長期では成立する傾向がある
  • キャリー・トレードは平常時には魅力的なリターンを上げてきたが、ボラティリティが高い局面ではクラッシュ・リスクにさらされる
  • 経常赤字が続く国の通貨は長期的に弱くなりやすいが、不均衡は長く続き得る。資本市場の統合が進み、資本フローの影響が増している。引き締め的な金融政策、構造改革、財政赤字の縮小は、資本流入を通じて通貨高につながりやすい

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:ビッド・オファー・スプレッドとその決定要因

マーケット・メーカーは、ベース通貨を買う価格(ビッド)と売る価格(オファー)を建値通貨(プライス通貨)で提示し、オファーは常にビッドより高くなります。ディーラーが顧客に提示するスプレッドは、インターバンク市場のスプレッドより広いのが通常です。

  • 相場を求めた側はビッドかオファーのどちらでも取引できる(義務はない)
  • 決定要因:通貨ペア、時間帯、ボラティリティ、取引金額、顧客との関係
  • 流動性が高い・主要市場の開場中・低ボラティリティのときに狭い
  • フォワードのスプレッドは期間が長いほど広がる
  • 逆数の相場:ビッドとオファーが入れ替わる(1/オファー がビッド)

LOS 2:三角裁定の機会と利益

2つの通貨ペアから計算されるインプライド・クロス・レートと、ディーラーが提示するクロス・レートを比べ、矛盾があれば三角裁定(triangular arbitrage)で無リスクの利益が得られます。計算では、どちらの相場(ビッドかオファーか)で取引するかを正しく選ぶことが重要です。

  • 裁定が生じない条件:ディーラーのビッドはインターバンクのオファー以下、オファーはビッド以上
  • インプライド・クロスのビッド = ビッド × ビッド(通貨の向きをそろえた上で)
  • 提示クロスのビッド > インプライドのオファー、または提示オファー < インプライドのビッドなら裁定機会
  • 通貨を一周させて元の通貨で利益を測る
A/C のビッド = (A/B のビッド) × (B/C のビッド)

LOS 3:直物・フォワード・レートとフォワード・プレミアム/ディスカウント

フォワード・レートは、カバー付き金利平価により直物レートと2通貨の金利差から決まります。フォワード・ポイント(F − S)がプラスならベース通貨はフォワード・プレミアム、マイナスならフォワード・ディスカウントです。

  • 相場表記 f/d:ベース通貨 d 1単位あたりのプライス通貨 f の量
  • フォワード・ポイントは直物レートに加算して使う(通常 1/10,000 単位)
  • 金利の高い通貨はフォワード・ディスカウント
  • ポイントは金利差にほぼ比例し、満期にもほぼ比例
F(f/d) − S(f/d) = S(f/d) × [(if − id) × (Actual/360)] /

LOS 4:為替先渡契約の値洗い

既存の先渡契約の価値は、同じ満期日で反対売買する新しいフォワード・レートと当初の契約レートの差から計算し、それを満期までの期間についてプライス通貨の金利で現在価値に割り引いて求めます。

  • 反対売買は残存期間が同じフォワード・レートで行う
  • ベース通貨の買いポジションは、フォワード・レート上昇で利益
  • ビッド・オファーの適用:買いの手仕舞いはビッド、売りの手仕舞いはオファー
  • 差額はプライス通貨建てで生じるので、プライス通貨の金利で割り引く
V(ベース通貨の買い持ち)= [(F新 − F旧) × 契約金額] /

LOS 5:国際パリティ条件

国際パリティ条件は、金利・インフレ率・フォワード・レート・将来の直物レートの関係を示します。カバー付き金利平価は裁定で成立しますが、それ以外は投資家の期待に基づく条件で、短中期には成り立たないことが多いです。

  • カバー付き金利平価:為替ヘッジ付き外貨運用の収益 = 国内運用の収益
  • カバーなし金利平価:高金利通貨は金利差の分だけ減価すると期待される
  • フォワード・レート・パリティ:フォワード・レート = 期待将来直物レート
  • 購買力平価(PPP):絶対的・相対的・事前(ex ante)PPP
  • 国際フィッシャー効果:名目金利差 = 期待インフレ率の差(リスク・プレミアムが各国で同じと仮定)
カバーなし金利平価:%ΔSᵉ(f/d) = if − id

LOS 6:パリティ条件どうしの関係

パリティ条件は互いにつながっています。事前 PPP とカバーなし金利平価が両方成り立てば実質金利平価(実質金利が各国で等しい)が成り立ち、カバー付きとカバーなしの金利平価が両方成り立てばフォワード・レートが期待将来直物レートの不偏推定量になります。

  • 事前 PPP + カバーなし金利平価 → 実質金利平価
  • 実質金利平価 + フィッシャー効果 → 国際フィッシャー効果
  • カバー付き + カバーなし金利平価 → フォワード・レート・パリティ
  • すべて成立すれば、期待インフレ差 = 金利差 = フォワード・プレミアム = 期待為替変化率
  • 結論:高インフレ・高金利の通貨は長期的に減価

LOS 7:将来の直物レートの予測手段の評価

将来の直物レートの予測には、現在の直物レート、フォワード・レート、PPP、カバーなし金利平価が使えますが、いずれも短中期の予測力は限られます。実証的には、高金利通貨はカバーなし金利平価が示すほど減価しない傾向があります。

  • 直物レート:ランダム・ウォークを前提にした予測
  • フォワード・レート:フォワード・レート・パリティが成り立つなら不偏推定量だが、実証的には偏りがある
  • PPP:長期の均衡の目安としては有用、短期では乖離が大きい
  • カバーなし金利平価:短中期では成立しないことが多い
  • パリティ条件は長期ほど成り立ちやすい

LOS 8:為替の長期的な適正価値の評価

為替レートは短中期には均衡から大きく長く乖離し得ますが、長期的には基礎的な力によって均衡水準(適正価値)に引き戻されると考えられています。適正価値は、購買力平価を長期の目安としつつ、実質金利差やリスク・プレミアム、経常収支などの要因を加味して評価します。

  • PPP:長期の適正価値の目安(アンカー)
  • 実質金利差が大きい通貨ほど実質的に強くなりやすい
  • リスク・プレミアムが高い通貨ほど弱くなりやすい
  • 持続不可能な経常赤字は通貨の適正水準を下押し
  • 乖離は徐々に蓄積し、経済の不均衡を生んだ後に修正されやすい

LOS 9:キャリー・トレードとカバーなし金利平価

キャリー・トレードは低金利通貨で資金を借りて高金利通貨で運用する戦略で、カバーなし金利平価が短中期に成り立たないことを利用します。高金利通貨の減価が金利差より小さければ利益になりますが、市場が荒れると急激な損失(クラッシュ・リスク)が生じます。

  • 利益 = 金利差 − 高金利通貨の減価率(近似)
  • カバーなし金利平価が成立すれば期待超過収益はゼロ
  • リターン分布は負の歪みとファット・テール
  • ボラティリティ上昇時に巻き戻しが起きやすい
キャリー・トレードの収益 ≈ i(高金利) − i(低金利) − %Δ(高金利通貨の減価)

LOS 10:国際収支のフローと為替レート

経常収支の赤字が続く国の通貨は長期的に弱くなりやすく、黒字が続く国の通貨は強くなりやすいとされます。ただし経常収支の調整には時間がかかり、短中期の為替には規模が大きく変化の速い資本フローの影響が大きくなっています。

  • 経常収支の調整メカニズム:輸出入の価格変化、ポートフォリオ・バランス、債務の持続可能性
  • 貿易の価格調整は数量の反応が遅く、時間がかかる
  • 資本の流入は通貨高、資本の流出は通貨安の圧力
  • 過度な資本流入は資産バブルや通貨の過大評価を生む

LOS 11:金融政策・財政政策と為替レート

マンデル=フレミング・モデルでは、資本移動性が高い場合、金融緩和は通貨安、財政拡張は金利上昇による資本流入を通じて通貨高をもたらします。ポートフォリオ・バランス・アプローチでは、持続的な財政赤字は長期的に通貨安につながり得ます。

  • 資本移動性が高い:拡張的財政+引き締め的金融 → 通貨高
  • 資本移動性が高い:緊縮的財政+緩和的金融 → 通貨安
  • 資本移動性が低い:財政拡張は貿易収支悪化を通じて通貨安の方向
  • マネタリー・アプローチ:通貨供給の増加 → 物価上昇 → 通貨安
  • オーバーシューティング:短期的に長期均衡を超えて動く

LOS 12:為替介入・資本規制の目的と有効性

新興国などは、資本の急激な流入・流出による通貨の過度な変動を防ぐために為替介入資本規制を使います。先進国では為替市場の規模に比べて外貨準備が小さく介入の効果は限られますが、十分な外貨準備をもつ新興国では一定の効果があり得ます。

  • 目的:通貨の過大評価の防止、資産バブルの回避、金融政策の独立性の確保、急激な資本流出の抑制
  • 先進国:市場規模に対し介入規模が小さく効果は限定的
  • 新興国:外貨準備の規模次第で効果あり
  • 資本規制は危機時の防衛策として一定の役割

LOS 13:通貨危機の警告サイン

通貨危機の前には、資本の自由化後の大量流入、急速な信用拡大、実質為替レートの過大評価、外貨準備の減少などの兆候が見られることが多いです。これらは危機を確実に予測するものではなく、危険度を示す目安です。

  • 資本規制の緩和後の大規模な資本流入
  • 急速な信用拡大と銀行システムの脆弱性
  • 平均を上回る実質為替レート(過大評価)
  • 外貨準備の減少と固定・準固定相場制
  • 交易条件の悪化、マネー・サプライやインフレ率の上昇
  • 資産価格のバブル、他国からの伝播(コンテイジョン)

効率よく学ぶには FA-Academy

CFA®︎の協会テキストは英語で分量も多く、1つひとつの単元を英語だけで理解していくのは大きな負担です。

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