Learning Module 4「Using Multifactor Models(マルチファクター・モデルの活用)」は、裁定価格理論(APT)の前提とマルチファクター・モデルとの関係、裁定機会の判定、ファクター感応度とリスク・プレミアムからの期待リターンの計算、マクロ経済・ファンダメンタル・統計的ファクター・モデルの比較、モデルの活用とアクティブ・リスクの分解を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM4のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM4には7つのLOSがあります。

  1. LOS 1:裁定価格理論(APT)について、その前提とマルチファクター・モデルとの関係を含めて説明するdescribe arbitrage pricing theory (APT), including its underlying assumptions and its relation to multifactor models
  2. LOS 2:裁定機会を定義し、裁定機会が存在するかどうかを判断するdefine arbitrage opportunity and determine whether an arbitrage opportunity exists
  3. LOS 3:資産のファクター感応度とファクター・リスク・プレミアムから、資産の期待リターンを計算するcalculate the expected return on an asset given an asset’s factor sensitivities and the factor risk premiums
  4. LOS 4:マクロ経済ファクター・モデル、ファンダメンタル・ファクター・モデル、統計的ファクター・モデルを説明・比較するdescribe and compare macroeconomic factor models, fundamental factor models, and statistical factor models
  5. LOS 5:マルチファクター・モデルの用途を説明し、マルチファクター・モデルに基づく分析結果を解釈するdescribe uses of multifactor models and interpret the output of analyses based on multifactor models
  6. LOS 6:資産リターンのモデル化において複数のリスク次元を考慮することの投資家にとっての潜在的な利点を説明するdescribe the potential benefits for investors in considering multiple risk dimensions when modeling asset returns
  7. LOS 7:アクティブ・リスクの源泉を説明し、トラッキング・リスクとインフォメーション・レシオを解釈するexplain sources of active risk and interpret tracking risk and the information ratio

LM4のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • マルチファクター・モデルはシングル・ファクターより細かくリスクを捉えられる
  • マルチファクター・モデルは資産のリターンを一連のファクターに対するリスクで説明し、システマティック・ファクターは投資家が追加リターンを求める「プライスド・リスク」を表す
  • APTは期待リターンをファクターに対するリスクの線形関数で表す均衡理論で、CAPMより弱い前提に基づく
  • APTの主な前提は、資産リターンがファクター・モデルで表される、多数の資産により固有リスクを消去できる、裁定機会が存在しない、の3つ
  • マクロ経済ファクター・モデルの要素はマクロ変数のサプライズ(実績 − 予想)で、期待値はゼロ
  • ファンダメンタル・ファクター・モデルのファクターは株式・企業の属性(PBRの逆数、時価総額、PER、財務レバレッジなど)で、ファクター・リターンを回帰で推定する
  • 統計的ファクター・モデルは統計手法でファクターを抽出するため、ファクターの経済的な解釈が難しい
  • アクティブ・リスクの2乗(アクティブ分散)はアクティブ・ファクター・リスクとアクティブ固有リスクに分解できる

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:APTとマルチファクター・モデル

裁定価格理論(APT)は、資産の期待リターンを複数のファクターに対する感応度の線形関数として表す均衡モデルです。CAPMより弱い前提で導かれ、ファクターの数や内容は特定しません。

  • 前提1:資産リターンはファクター・モデルで記述される
  • 前提2:多数の資産を組み合わせることで固有リスクを消去できる
  • 前提3:資産は裁定機会が存在しないように価格付けされる
  • CAPMと違い、市場ポートフォリオを特定する必要がない
  • ファクター・ポートフォリオ:特定のファクターに感応度1、他は0
E(R) = R_F + λ₁β₁ + … + λₖβₖ

LOS 2:裁定機会の判定

裁定機会とは、投資額ゼロ・リスクゼロで正のリターンが得られる取引機会です。同じファクター感応度を持つポートフォリオ同士の期待リターンが異なれば裁定機会があります。

  • 同じ感応度のポートフォリオを組み合わせてファクター・リスクをゼロにする
  • 期待リターンの高い方を買い、低い方を売る
  • 投資額ゼロでリスクなしの利益が生じれば裁定機会あり
  • 裁定取引により価格が修正され、APTの関係が成り立つ

LOS 3:期待リターンの計算

APTでは、リスクフリー・レートにファクター感応度 × ファクター・リスク・プレミアムの合計を加えて期待リターンを求めます。ファクター・リスク・プレミアムは、そのファクターに感応度1を持つポートフォリオの期待超過リターンです。

  • λₖ:ファクターkのリスク・プレミアム
  • βₖ:ファクターkへの感応度
  • ファクター・プレミアムが未知の場合は、既知のポートフォリオの連立方程式から推定
  • プライスド・リスクでない固有リスクにはプレミアムがつかない
E(Rₚ) = R_F + β₁λ₁ + β₂λ₂ + … + βₖλₖ

LOS 4:3種類のファクター・モデル

ファクター・モデルはマクロ経済ファンダメンタル統計的の3種類に分かれます。ファクターが何で、感応度とファクター・リターンのどちらを先に決めるかが大きな違いです。

  • マクロ経済:ファクターはマクロ変数のサプライズ。感応度を時系列回帰で推定
  • ファンダメンタル:ファクターは企業属性(バリュー、規模、PERなど)。感応度(標準化した属性)を先に決め、ファクター・リターンをクロスセクション回帰で推定
  • ファンダメンタル・モデルの切片はマクロ・モデルと違い期待リターンとは解釈しない
  • 統計的:因子分析や主成分分析でファクターを抽出。当てはまりは良いが経済的解釈が困難
Rᵢ = E(Rᵢ) + bᵢ₁F₁ + bᵢ₂F₂ + εᵢ(マクロ経済モデル、F:サプライズ)

LOS 5:マルチファクター・モデルの活用

マルチファクター・モデルはリターンの要因分解(アトリビューション)リスクの要因分解ポートフォリオ構築、戦略的な資産配分などに使われます。

  • リターン・アトリビューション:アクティブ・リターンをファクター・リターンと銘柄選択に分解
  • リスク・アトリビューション:アクティブ・リスクをファクターごとに分解
  • ポートフォリオ構築:パッシブ運用(ファクター感応度をベンチマークに一致)、アクティブ運用、ファクター・ティルト
  • 特定のファクターへの感応度を持つポートフォリオでヘッジやベットを行う
アクティブ・リターン = Σ(βₚₖ − β_Bₖ)× Fₖ + 銘柄選択によるリターン

LOS 6:複数のリスク次元を考慮する利点

市場ポートフォリオだけでなく複数のリスク次元を考えることで、投資家は自分の状況(職業、負債、所得の変動など)に応じて、負担しやすいリスクを取り、避けたいリスクを抑えるポートフォリオを作れます。

  • 投資家ごとにヘッジしたいリスクが異なる(例:景気悪化時に所得が減る投資家)
  • 市場ポートフォリオが全員にとって最適とは限らない
  • ファクター感応度をきめ細かく調整できる
  • ファクターごとのリスク・プレミアムを意識した配分が可能

LOS 7:アクティブ・リスクの源泉とIR

アクティブ・リスク(トラッキング・リスク)はアクティブ・リターンの標準偏差で、その2乗であるアクティブ分散はアクティブ・ファクター・リスクアクティブ固有リスクに分解できます。インフォメーション・レシオはアクティブ・リスク1単位当たりのアクティブ・リターンです。

  • アクティブ・ファクター・リスク:ベンチマークと異なるファクター感応度から生じる
  • アクティブ固有リスク:個別銘柄のウエイト差から生じる
  • ファクター・ベット中心か銘柄選択中心かを分解から判断
  • IR = アクティブ・リターン ÷ アクティブ・リスク
アクティブ分散 = アクティブ・ファクター・リスク + アクティブ固有リスク

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