結論:セールス業務は「外務員はどうふるまうべきか」を問う章です。計算はなく、原則の名前と中身の対応、そして「法令を守れば十分」といった考え方の誤りを見抜けるかが得点源です。
- IOSCOの行為規範原則は7つ(誠実・公正、注意義務、能力、顧客に関する情報、顧客に対する情報開示、利益相反、コンプライアンス)
- 金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」は原則1〜7。2024年9月の改訂で、商品を組成する会社向けの補充原則1〜5(プロダクトガバナンス)が加わった
- 2024年11月から、金融サービス提供法で「顧客等の最善の利益を勘案しつつ誠実かつ公正に業務を遂行する」義務が法律上の義務に
- 適合性の原則=顧客の知識・経験・財産の状況・契約締結の目的に照らして不適当な勧誘をしない
- 自己責任の原則は、適切な情報提供と適合性の原則が守られていることが前提
一種・二種の出題範囲
一種◯ 出題範囲二種◯ 出題範囲外務員必携 第1巻
この章は一種・二種で範囲が同じです。二種の方も記事全体が対象です。
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外務員の仕事とは
外務員の仕事は、株式・債券・投資信託などの金融商品の売買を勧誘し、注文を受けることです。ただし、単に商品を売る人ではありません。お客さまの資産の状況や運用の目的を把握し、それに合った商品や情報を提供する資産運用のアドバイザーとしての役割が期待されています。
- 情報の提供:経済・市況・企業などの情報を、正確にわかりやすく伝える
- ニーズの把握:顧客の資産・収入・投資経験・目的・リスク許容度を知る
- 商品の提案:ニーズに合った商品を選び、リスクとコストを含めて説明する
- アフターフォロー:購入後も値動きや状況変化を伝え、見直しを提案する
外務員は会社に代わって一切の裁判外の行為を行う権限があるとみなされるため(金融商品取引法第64条の3)、外務員の行為の責任は会社にも及びます。外務員制度そのものは金融商品取引法①業者規制と外務員制度で確認してください。
外務員に求められる倫理観
証券会社の取引は、お客さまとの信頼関係の上に成り立っています。外務員は、お客さまより商品や市場について多くの情報を持っている(情報の非対称性がある)立場です。だからこそ、法令で禁止されていないことでも、お客さまの利益を損なう行為はしないという高い倫理観が求められます。
| よくある誤解 | 正しい考え方 |
|---|---|
| 法令に違反しなければ何をしてもよい | 法令は最低限のルール。法令に明文の規定がなくても、社会規範や市場のルールに反する行為は許されない |
| 会社の利益になるなら顧客の利益は二の次 | 顧客の利益を犠牲にして会社や自分の利益を図ることは、長期的には信頼を失い会社にも損害を与える |
| 顧客が望んだ取引なら何でも受ければよい | 顧客の意向があっても、明らかに適合しない取引や不公正な取引は受けてはならない |
| 倫理は個人の問題 | 個人の倫理観とあわせて、会社全体の企業倫理・企業文化として定着させることが必要 |
コンプライアンス
コンプライアンスは「法令等の遵守」と訳されますが、ここでいう法令等には、法律・政令・内閣府令のほか、自主規制機関の規則、社内規程、さらには社会規範や市場のルールまで含みます。
- 外務員一人ひとりが、関連する法令・諸規則の内容を正しく理解する
- 判断に迷ったら自分だけで判断せず、上司や内部管理責任者、コンプライアンス部門に相談する
- 事故や違反を見つけたら隠さずにすぐ報告する。隠ぺいは被害を拡大させる
- 会社は内部管理態勢を整え、研修などで定着させる
日本証券業協会の規則では、営業単位ごとに内部管理責任者を置くことなどが定められています。
IOSCOの行為規範原則(7原則)
IOSCO(証券監督者国際機構)は、各国の証券規制当局でつくる国際機関です。1990年11月に、証券会社などが業務を行う際の国際的な行為規範として7つの原則を採択しました。名前と中身を正確に結び付けるのがポイントです。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 1 誠実・公正 | 業務を行うに際し、顧客の最大の利益および市場の健全性を図るため、誠実かつ公正に行動する |
| 2 注意義務 | 顧客の最大の利益および市場の健全性を図るため、相当の技術・配慮・注意をもって行動する |
| 3 能力 | 業務の適切な遂行のために必要な人材と手続を整え、効果的に活用する |
| 4 顧客に関する情報 | サービスの提供にあたり、顧客の資産状況・投資経験・投資目的を把握するよう努める |
| 5 顧客に対する情報開示 | 顧客との取引において、取引に関する具体的な情報を十分に開示する |
| 6 利益相反 | 利益相反を回避するよう努め、回避できない場合でも顧客を公正に取り扱う |
| 7 コンプライアンス | 顧客の最大の利益および市場の健全性を図るため、業務に適用されるすべての規則を遵守する |
ひっかけの定番は「顧客に関する情報(顧客を知る=4)」と「顧客に対する情報開示(顧客に伝える=5)」の入れ替えです。また、利益相反は「回避するよう努める」のが基本で、回避できない場合は顧客を公正に扱うこと、という順番も押さえましょう。
プリンシプルと顧客本位の業務運営
ルールベースとプリンシプルベース
金融規制には、細かい規則を定めて守らせるルールベースと、守るべき原則を示して各社の創意工夫に委ねるプリンシプルベースがあります。金融庁は2008年4月に、金融サービス業者が尊重すべき主要な原則として「金融サービス業におけるプリンシプル」(14項目)を公表し、両者を組み合わせた監督を進めてきました。
顧客本位の業務運営に関する原則
金融庁が2017年3月に策定し、2021年1月、2024年9月26日に改訂したのが「顧客本位の業務運営に関する原則」です。法律ではなくプリンシプルベースで、金融事業者は原則を採択したうえで、実施しない原則があればその理由を説明する(コンプライ・オア・エクスプレイン)ことが求められます。採択した事業者のリストは金融庁が公表しています。
| 原則 | 内容の要点 |
|---|---|
| 原則1 方針の策定・公表等 | 顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表し、取組状況を定期的に公表する |
| 原則2 顧客の最善の利益の追求 | 高度の専門性と職業倫理を保持し、誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図る。それを企業文化として定着させる |
| 原則3 利益相反の適切な管理 | 取引における利益相反の可能性を正確に把握し、あらかじめ対応方針を定めて適切に管理する |
| 原則4 手数料等の明確化 | 顧客が負担する手数料その他の費用の詳細を、どのようなサービスの対価なのかを含めてわかりやすく情報提供する |
| 原則5 重要な情報の分かりやすい提供 | 情報の非対称性を踏まえ、商品・サービスの重要な情報をわかりやすく提供する |
| 原則6 顧客にふさわしいサービスの提供 | 顧客の資産状況・取引経験・知識・取引目的・ニーズを把握し、ふさわしい商品・サービスの組成・販売・推奨等を行う |
| 原則7 従業員に対する適切な動機づけの枠組み等 | 顧客の最善の利益を追求するための報酬・業績評価体系、研修、ガバナンス体制を整える |
2024年の改訂では、投資信託の運用会社など金融商品を組成する事業者向けに、補充原則1〜5(プロダクトガバナンス)が新設されました。想定する顧客(ターゲット顧客)の特定、商品のライフサイクル全体を通じた品質管理、販売会社との情報連携、運用・ガバナンス体制の情報開示などが内容です。原則そのものの数は7つのままという点に注意してください。
金融庁は、比較しやすい商品情報を1枚にまとめた重要情報シートの活用や、投資信託の運用損益別の顧客比率などの共通KPIの公表も促しています。
最善利益勘案義務の法定化
2024年11月1日からは、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(金融サービス提供法)第2条により、金融サービスの提供等に係る業務を行う者は「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」とされました。これまでプリンシプルで求めてきた顧客本位の考え方が、法律上の義務になったということです。詳しくは金融サービス提供法・消費者契約法の記事で扱っています。
適合性の原則と自己責任の原則
適合性の原則
金融商品取引法第40条第1号は、金融商品取引業者等が顧客の知識、経験、財産の状況および金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行い、投資者の保護に欠けることのないよう業務を行わなければならないと定めています。これが適合性の原則です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 狭義の適合性原則 | ある商品について、どれだけ説明してもその顧客には販売・勧誘してはならない(一定の顧客を取引から排除する) |
| 広義の適合性原則 | 顧客の知識・経験・財産・目的に合わせて、その顧客にふさわしい勧誘や説明を行う |
| 判断の4要素 | 知識、経験、財産の状況、契約締結の目的 |
適合性の原則を守るには、まず顧客のことを知る必要があります。そのため、日本証券業協会の規則では、顧客の氏名・住所・生年月日・職業・投資目的・資産の状況・投資経験などを記載した顧客カードの整備が求められています。
高齢のお客さまへの勧誘
日本証券業協会のガイドラインでは、高齢顧客の目安をおおむね75歳以上とし、より慎重な対応が必要な目安を80歳以上としています。
| 目安の年齢 | 主な対応(価格変動の大きい商品など勧誘留意商品の場合) |
|---|---|
| 75歳以上 | 勧誘を行う前に役席者が面談などで顧客の健康状態や理解度を確認し、事前に承認する |
| 80歳以上 | 上記に加え、勧誘した日の当日ではなく翌日以降に受注する(熟慮期間を置く)などの対応 |
具体的な手続は各社の社内規則で定めるため、細部は会社によって異なります。
自己責任の原則
投資の結果、利益が出ても損失が出ても、それは投資判断をした顧客自身に帰属する、というのが自己責任の原則です。ただし、これが成り立つ前提として、業者側が商品のリスクやコストを十分に説明し、適合性の原則を守っていることが必要です。虚偽の説明や断定的判断の提供をして勧誘した場合、顧客に自己責任を問うことはできません。また、損失補てんや特別の利益の提供が禁止されているのも、自己責任の原則を守るためです。
勧誘の場面で特に注意すべき禁止行為
倫理やコンプライアンスは抽象論に聞こえますが、試験では具体的な禁止行為と結び付けて問われます。金融商品取引法などで禁止されている代表的な行為を、セールスの場面に置き換えて確認しておきましょう。
| 禁止行為 | セールスの場面での例 |
|---|---|
| 虚偽の告知 | 実際にはない材料を「決まった話です」と伝えて買わせる |
| 断定的判断の提供 | 「この株は必ず上がります」「元本割れはありえません」と言い切る |
| 損失補てん・特別の利益の提供 | 「損が出たら穴埋めします」と約束する、事後に損失を埋め合わせる |
| 不招請勧誘・再勧誘 | 依頼のない顧客への訪問・電話による店頭デリバティブ取引の勧誘や、断った顧客への再勧誘 |
| 迷惑時間の勧誘 | 深夜や早朝など、顧客に迷惑な時間に電話や訪問をする |
| 無断売買 | 「いつもの銘柄だから」と顧客の同意なく注文を出す |
これらは顧客が望んだかどうかに関係なく禁止されます。たとえば損失補てんは、顧客から求められて応じた場合も違反で、要求した顧客の側も処罰の対象になります。個々の条文は金融商品取引法①の行為規制で確認してください。
商品選定とアフターフォロー
顧客に提案する商品は、顧客の投資目的や運用期間、リスク許容度に合っていることが大前提です。仕組みが複雑な商品や流動性の低い商品は、特に慎重な適合性の判断と、わかりやすい説明が必要です。
- 商品を理解する:外務員自身が商品の仕組み・リスク・コストを理解していなければ、説明できない
- 分散投資の視点:特定の商品や銘柄に偏らないよう、ポートフォリオ全体で考える
- 手数料目当ての回転売買をしない:短期間の乗換え勧誘は、顧客の利益にならないことが多い
- アフターフォロー:購入後も値動きや運用状況、市場環境の変化を伝え、必要に応じて見直しを提案する。損失が出ているときこそ丁寧に連絡する
投資信託の乗換えの勧誘では、乗換えに伴う手数料などの重要事項の説明が求められています。
試験に出るひっかけ(○×問題)
問1. 法令に違反していない行為であれば、外務員の行為として問題となることはない。
答え:× 法令は最低限のルールです。社会規範や市場のルールに反する行為、顧客の利益を損なう行為も許されません。
問2. IOSCOの行為規範原則のうち「顧客に関する情報」とは、取引に関する具体的な情報を顧客に十分に開示することをいう。
答え:× それは「顧客に対する情報開示」です。「顧客に関する情報」は、顧客の資産状況・投資経験・投資目的を把握することです。
問3. IOSCOの行為規範原則では、利益相反が生じた場合には、自社の利益を優先してよいとされている。
答え:× 利益相反はまず回避に努め、回避できない場合でも顧客を公正に取り扱う必要があります。
問4. 2024年の改訂で、顧客本位の業務運営に関する原則は原則1〜12に拡充された。
答え:× 原則は7つのままです。組成会社向けの補充原則1〜5が新たに加わりました。
問5. 顧客本位の業務運営に関する原則は、すべての金融事業者に法的な強制力をもって適用される規則である。
答え:× プリンシプルベースの原則で、採択した事業者が実施しない場合は理由を説明する(コンプライ・オア・エクスプレイン)方式です。
問6. 適合性の原則は、顧客の知識、経験、財産の状況および金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当な勧誘を行ってはならないとするものである。
答え:○ 金融商品取引法第40条第1号の内容です。
問7. 自己責任の原則があるので、外務員が十分な説明をしなかった場合でも、投資の損失はすべて顧客が負う。
答え:× 自己責任の原則は、適切な情報提供と適合性の原則の遵守が前提です。
この章の論点は外務員試験の模擬試験(一種・二種 各3回分・全問解答解説つき)でも出題しています。要点を読んだら、本番形式の問題で理解を確かめてください。
外務員の次に取る資格
IOSCOの原則や顧客本位の考え方は、世界の運用・証券業界に共通する職業倫理の土台です。倫理規範を試験の柱に据えている資格として、CFA®があります。倫理と職業行為基準は全レベルで出題されるので、この章の内容はそのまま次の学習につながります。
金融機関で働く人が、外務員の次にCFA®を目指す理由はこちらでまとめています。
【金融機関×CFA】銀行・証券・保険・アセマネ勤務の方がCFA®試験に挑む理由
よくある質問
Q. IOSCOの行為規範原則はいくつありますか?
A. 7つです。誠実・公正、注意義務、能力、顧客に関する情報、顧客に対する情報開示、利益相反、コンプライアンスで、1990年に採択されました。
Q. 顧客本位の業務運営に関する原則は、2024年の改訂で何が変わりましたか?
A. 原則1〜7はそのままで、投資信託の運用会社など金融商品を組成する事業者向けに、プロダクトガバナンスに関する補充原則1〜5が新設されました。
Q. 最善利益勘案義務はいつから法律上の義務になりましたか?
A. 2024年11月1日です。金融サービス提供法第2条で、金融サービスの提供等に係る業務を行う者は、顧客等の最善の利益を勘案しつつ、誠実かつ公正に業務を遂行しなければならないとされました。
Q. 適合性の原則で考慮する要素は何ですか?
A. 顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的の4つです(金融商品取引法第40条第1号)。
参考(2026年9月確認):IOSCO「International Conduct of Business Principles」(1990年11月)、金融庁「顧客本位の業務運営に関する原則」(2024年9月26日改訂)「顧客本位の業務運営について」「金融サービス業におけるプリンシプル」(2008年4月)、日本証券業協会「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則第5条の3の考え方(高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン)」、e-Gov法令検索「金融商品取引法」第40条・第64条の3、「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」第2条。制度は改正されることがあるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
