Learning Module 8「Case Study in Portfolio Management: Institutional (Endowment)(機関投資家の運用事例(エンダウメント))」は、エンダウメントを題材にした機関投資家のポートフォリオ運用について、ポートフォリオの流動性リスクを管理するツール、長期戦略としての非流動性プレミアムの獲得、流動性ニーズとリスク・リターン要件に照らした資産配分、倫理規範と職業行為基準の適用、デリバティブと現物の比較、デリバティブ・オーバーレイの活用、ESGの考慮を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM8のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM8には7つのLOSがあります。

  1. LOS 1:ポートフォリオの流動性リスクを管理するためのツールを論じるdiscuss tools for managing portfolio liquidity risk
  2. LOS 2:長期の投資戦略として非流動性プレミアムを獲得することを論じるdiscuss capture of the illiquidity premium as a long-term investment strategy
  3. LOS 3:流動性ニーズおよびリスク・リターン要件に関連して資産配分とポートフォリオ構築を分析し、明らかになったニーズに対応する行動を推奨するanalyze asset allocation and portfolio construction in relation to liquidity needs and risk and return requirements and recommend actions to address identified needs
  4. LOS 4:倫理規範および職業行為基準の適用を示すdemonstrate the application of the Code of Ethics and Standards of Professional Conduct regarding the actions of individuals involved in manager selection
  5. LOS 5:資産クラスやリスク・エクスポージャーを確立・変更する手段として、デリバティブと現物市場の手法のコストとベネフィットを分析するanalyze the costs and benefits of derivatives versus cash market techniques for establishing or modifying asset class or risk exposures
  6. LOS 6:戦術的資産配分とリバランスにおけるデリバティブ・オーバーレイの利用を示すdemonstrate the use of derivatives overlays in tactical asset allocation and rebalancing
  7. LOS 7:長期の機関投資家ポートフォリオの運用におけるESGの考慮事項を論じるdiscuss ESG considerations in managing long-term institutional portfolios

LM8のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • 機関投資家のポートフォリオ運用の重要な側面として、非流動性プレミアムの獲得、流動性管理、資産配分、戦術的資産配分とリバランスにおけるデリバティブと現物の使い分けを扱う
  • プライベート・エクイティやプライベート不動産などで非流動性リスクへのエクスポージャーを高めると、長期的には高いリターンと効率的なポートフォリオが期待できる
  • ただし、非流動性資産の拡大には、モデル化と実行の両面で大きな不確実性が伴う
  • 流動性ニーズ(支出、キャピタル・コール、リバランス、担保)を踏まえ、資産配分と流動性の水準を一体で管理する必要がある
  • デリバティブは、現物を売買せずに資産クラスのエクスポージャーを迅速・低コストで調整でき、戦術的資産配分やリバランスに活用できる
  • 運用会社の選定の過程では、倫理上の問題が生じうる
  • 長期の機関投資家の運用では、社会的な考慮事項(ESG)への対応も求められる

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:ポートフォリオの流動性リスク管理のツール

流動性リスクの管理では、資産を流動性の階層(ティア)に分けて把握し、支出・キャピタル・コール・リバランス・担保などの流動性ニーズと比べます。コミットメント・ペーシング・モデルで将来のキャピタル・コールと分配を予測し、ストレス・テストで厳しい局面での資金繰りを確認します。

  • 流動性の分類:すぐ現金化できる資産から、長期ロックアップの資産まで
  • 流動性ニーズ:支出、未払込コミットメントのキャピタル・コール、リバランス、デリバティブの証拠金・担保
  • コミットメント・ペーシング:コール・分配・NAVの推移を予測して新規コミットメント額を決める
  • ストレス・テスト:市場下落時に分配が止まりコールが続く状況などを確認
  • 対応手段:流動性の高い資産の確保、信用枠、セカンダリー市場での売却

LOS 2:長期戦略としての非流動性プレミアムの獲得

長期の投資期間を持つ機関投資家は、流動性の低い資産に投資することで非流動性プレミアムを得られる立場にあります。ただし、プライベート資産は運用者間のリターン格差が大きく、手数料が高く、流動性の制約やモデル化の難しさがあるため、プレミアムの実現は確実ではありません。

  • 長期・安定した資金を持つ投資家ほど非流動性を負担しやすい
  • プライベート・エクイティ、プライベート不動産などが対象
  • 運用者の選定が重要(上位と下位のリターン差が大きい)
  • 評価の平滑化でリスクが過小に表れやすく、最適化の結果が偏る
  • 投資の実行に時間がかかり、目標配分の達成・維持が難しい

LOS 3:流動性ニーズとリスク・リターン要件に即した資産配分

資産配分は、リターン目標(支出率+インフレ+コストなど)とリスク許容度だけでなく、流動性ニーズにも照らして検討します。非流動性資産の比率を高める場合、市場下落時に比率が上がるデノミネーター効果や、リバランスの難しさを考慮して行動を決めます。

  • リターン要件:支出、インフレ、運用コストを賄う水準
  • 非流動性資産の上限を流動性ニーズから設定
  • デノミネーター効果:上場資産の下落で非流動性資産の比率が目標を超える
  • 対応:流動性の高い資産での調整、コミットメント・ペースの見直し、デリバティブの活用
  • 資産配分と流動性管理を一体で考える

LOS 4:倫理規範と職業行為基準の適用

運用会社の選定など機関投資家の実務では、独立性と客観性利益相反の開示顧客への忠実義務などの基準に照らして行動を判断する必要があります。贈答・接待や個人的な関係などが判断をゆがめないようにし、利益相反は適切に開示・管理します。

  • 独立性と客観性:判断に影響しうる贈答・便益を受けない
  • 利益相反の開示:独立性・客観性を損なうおそれのある事項を開示
  • 忠実義務・注意義務:受益者の利益を最優先
  • 勤勉さと合理的な根拠:運用会社の評価・選定を十分な分析にもとづいて行う
  • 記録の保持と、方針・手続きの整備

LOS 5:デリバティブと現物のコストとベネフィット

資産クラスやリスクのエクスポージャーを作る・変える手段として、デリバティブ取引コストが低く、迅速で、既存の運用者の運用を妨げないという利点があります。一方、ベーシス・リスク、ロール・コスト、証拠金・担保の流動性ニーズ、カウンターパーティ・リスクなどの欠点があります。

  • デリバティブの利点:低い取引コスト、迅速な執行、少ない資金負担、現物の運用者を入れ替えずに済む
  • デリバティブの欠点:ベーシス・リスク(指数と実際の保有資産のずれ)、ロール・コスト、証拠金・担保の管理
  • 店頭デリバティブはカウンターパーティ・リスク
  • 現物の利点:保有資産そのものを変えるため、ずれがない
  • 現物の欠点:売買コスト・時間がかかる、運用者の資産を動かす必要

LOS 6:戦術的資産配分とリバランスにおけるデリバティブ・オーバーレイ

デリバティブ・オーバーレイは、現物の保有を変えずに先物やスワップを重ねて、資産クラスのエクスポージャーを調整する手法です。戦術的資産配分では、たとえば株価指数先物を売り債券先物を買うことで配分を一時的に変え、リバランスでは目標配分からの乖離を先物で素早く埋めます。

  • 株式エクスポージャーの調整:株価指数先物の売買枚数をベータで計算
  • 債券エクスポージャーの調整:BPV(デュレーション)で先物枚数を計算
  • 現物のリバランスが完了するまでの一時的な調整にも使える
  • 非流動性資産の比率の上昇を、流動資産側のオーバーレイで調整
  • 証拠金の資金を確保する必要
株価指数先物の枚数 Nf = [(β_T − β_P) ÷ β_F] × [V_P ÷ (F × 乗数)]

LOS 7:長期の機関投資家ポートフォリオにおけるESGの考慮

エンダウメントなど長期の機関投資家は、運用の使命や関係者(学生、教職員、寄付者など)の意見から、ESGや社会的な考慮事項への対応を求められることがあります。ダイベストメント(投資撤退)エンゲージメントなどの方法と、リターン・リスク・受託者責任への影響を比較して判断します。

  • ESGの統合:リスク・リターン評価へのESG要因の組み込み
  • 除外(ネガティブ・スクリーニング)・ダイベストメント:分散の低下やトラッキング・エラーの増加
  • エンゲージメント:議決権行使や対話で企業に働きかける
  • インパクト投資・テーマ投資
  • 受託者責任と、関係者の価値観との調整

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