Learning Module 2「Discounted Dividend Valuation(配当割引モデル)」は、DCFモデルのキャッシュフローの選び方、ゴードン成長モデルと優先株の評価、PVGOと正当化P/E、要求収益率の推定、多段階配当割引モデル(2段階・Hモデル・3段階)、サステナブル成長率とデュポン分析を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM2のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM2には16個のLOSがあります。

  1. LOS 1:割引キャッシュフロー・モデルの入力としての配当、フリー・キャッシュフロー、残余利益を比較し、それぞれが適する投資状況を識別するcompare dividends, free cash flow, and residual income as inputs to discounted cash flow models and identify investment situations for which each measure is suitable
  2. LOS 2:単一期間および複数期間の配当割引モデル(DDM)を用いて普通株の価値を計算・解釈するcalculate and interpret the value of a common stock using the dividend discount model (DDM) for single and multiple holding periods
  3. LOS 3:ゴードン成長モデルを用いて普通株の価値を計算し、モデルの前提を説明するcalculate the value of a common stock using the Gordon growth model and explain the model’s underlying assumptions
  4. LOS 4:非償還・固定配当の永久優先株の価値を計算するcalculate the value of non-callable fixed-rate perpetual preferred stock
  5. LOS 5:ゴードン成長モデルの長所と限界を記述し、企業の普通株の評価にこのモデルを選ぶことを正当化するdescribe strengths and limitations of the Gordon growth model and justify its selection to value a company’s common shares
  6. LOS 6:ゴードン成長モデルと現在の株価を用いて配当の暗黙の成長率を計算・解釈するcalculate and interpret the implied growth rate of dividends using the Gordon growth model and current stock price
  7. LOS 7:成長機会の現在価値(PVGO)と、予想株価収益率(P/E)のうちPVGOに関連する部分を計算・解釈するcalculate and interpret the present value of growth opportunities (PVGO) and the component of the leading price-to-earnings ratio (P/E) related to PVGO
  8. LOS 8:ゴードン成長モデルを用いて正当化される予想P/Eと実績P/Eを計算・解釈するcalculate and interpret the justified leading and trailing P/Es using the Gordon growth model
  9. LOS 9:ゴードン成長モデルやHモデルを含む任意のDDMに基づいて要求収益率を推定するestimate a required return based on any DDM, including the Gordon growth model and the H-model
  10. LOS 10:DDMによる評価額に基づいて、株式が市場で過大評価・適正評価・過小評価されているかを評価するevaluate whether a stock is overvalued, fairly valued, or undervalued by the market based on a DDM estimate of value
  11. LOS 11:事業の成長期、移行期、成熟期を説明するexplain the growth phase, transition phase, and maturity phase of a business
  12. LOS 12:2段階DDM、Hモデル、3段階DDMの前提を説明し、普通株の評価にそれらを選択することを正当化するexplain the assumptions and justify the selection of the two-stage DDM, the H-model, the three-stage DDM, or spreadsheet modeling to value a company’s common shares
  13. LOS 13:ターミナル・バリューを記述し、DDMにおけるターミナル・バリューの代替的な決定方法を説明するdescribe terminal value and explain alternative approaches to determining the terminal value in a DDM
  14. LOS 14:2段階DDM、Hモデル、3段階DDMを用いて普通株の価値を計算・解釈するcalculate and interpret the value of common shares using the two-stage DDM, the H-model, and the three-stage DDM
  15. LOS 15:配当の予測と普通株の評価におけるスプレッドシート・モデリングの利用を説明するexplain the use of spreadsheet modeling to forecast dividends and to value common shares
  16. LOS 16:企業のサステナブル成長率を計算・解釈し、デュポン分析を用いたサステナブル成長率の推定方法を示すcalculate and interpret the sustainable growth rate of a company and demonstrate the use of DuPont analysis to estimate a company’s sustainable growth rate

LM2のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • DCFモデルでは、資産の価値は将来の期待キャッシュフローの現在価値であり、株式のように期限のない資産では無限期間の和となる
  • 配当割引アプローチは、配当方針が明確で収益性と関係づけられる配当支払企業を、支配権を持たない少数株主の視点から評価するのに適する
  • フリー・キャッシュフロー・アプローチは無配企業、配当がFCFEと大きく乖離する企業、支配株主の視点に適し、残余利益アプローチは無配企業やFCFがマイナスの企業に有用
  • 配当の予測は、全期間を定型的な成長パターンに当てはめる方法と、有限期間を個別に予測して残りをターミナル・バリューで扱う方法がある
  • ゴードン成長モデルは配当が一定率で永久に成長すると仮定し、要求収益率が成長率を上回ることが前提
  • 株価は、成長のない場合の価値(E₁/r)と成長機会の現在価値(PVGO)に分解できる
  • 企業は成長期・移行期・成熟期をたどると考えられ、それに応じて2段階、Hモデル、3段階などの多段階モデルを使い分ける
  • サステナブル成長率は内部留保率とROEの積で、デュポン分析によりROEの要因に分解して推定できる

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:DCFモデルの入力:配当・FCF・残余利益

配当は配当方針が明確で収益性と関連する企業を少数株主の視点で評価するのに適します。FCFは無配企業や支配株主の視点、残余利益は無配企業やFCFがマイナスの企業に適します。

  • 配当:明確な配当方針、少数株主の視点
  • FCFF/FCFE:無配・配当と支払能力の乖離・支配株主の視点
  • 残余利益:無配やFCFマイナスでも適用可、会計データに依存
  • 各アプローチの長所と短所

LOS 2:単一期間・複数期間のDDM

DDMでは、株式価値を保有期間中の配当と期末株価の現在価値の合計として求めます。期間を無限に延ばすと、将来の配当すべての現在価値が株式価値になります。

  • 単一期間:V₀ =(D₁ + P₁)÷(1 + r)
  • n期間:各期配当の現在価値+期末株価の現在価値
  • 一般形:無限期間の配当の現在価値
  • 市場価格=価値と仮定すると期待保有期間リターンが求まる
V₀ = Σ Dₜ ÷(1 + r)ᵗ + Pₙ ÷(1 + r)ⁿ

LOS 3:ゴードン成長モデルと前提

ゴードン成長モデルは配当が一定率gで永久に成長すると仮定し、株式価値を翌期配当÷(r − g)で求めます。要求収益率rが成長率gを上回ることが前提です。

  • 配当が一定率で永久に成長
  • r > g が必要
  • D₁ = D₀ ×(1 + g)
  • 成長率は長期的に名目経済成長率を大きく超えにくい
  • 価値はr−gの差に非常に敏感
V₀ = D₀ ×(1 + g)÷(r − g)= D₁ ÷(r − g)

LOS 4:永久優先株の価値

非償還で固定配当の永久優先株は、配当が一定で永久に続くため、ゴードン成長モデルでg=0とした形で評価できます。

  • 配当が一定の永久債と同じ構造
  • 成長率ゼロのゴードン成長モデル
  • 要求収益率上昇で価値は低下
V₀ = D ÷ r_p

LOS 5:ゴードン成長モデルの長所と限界

ゴードン成長モデルは、配当が経済成長率程度の安定した率で伸びる成熟企業に適します。一方、無配企業や成長率が不安定な企業には適さず、入力値の小さな変化に評価額が大きく反応します。

  • 長所:単純で分かりやすい、市場全体や成熟企業の評価に有用
  • 長所:多段階モデルのターミナル・バリューに使える
  • 限界:r − g への高い感応度
  • 限界:無配・高成長・不安定な企業には不向き

LOS 6:暗黙の配当成長率

現在の株価が本源的価値に等しいと仮定し、ゴードン成長モデルを成長率について解くと、市場が織り込んでいる暗黙の成長率が求まります。

  • 市場価格を所与として成長率を逆算
  • アナリストの予想成長率と比較して割高・割安を判断
  • 要求収益率の推定値に依存
g = r − D₁ ÷ P₀ =(r × P₀ − D₀)÷(P₀ + D₀)

LOS 7:PVGOとP/Eの分解

株価は、現在の利益水準が永久に続く場合の価値(E₁/r)と、成長機会の現在価値(PVGO)の和に分解できます。予想P/Eも同様に1/rとPVGO/E₁に分けられます。

  • 無成長価値:E₁ ÷ r
  • PVGO:ROEが要求収益率を上回る投資機会の価値
  • 予想P/E = 1/r + PVGO/E₁
  • PVGOの比率が大きいほど成長期待に依存
V₀ = E₁ ÷ r + PVGO

LOS 8:正当化される予想P/Eと実績P/E

ゴードン成長モデルから、ファンダメンタルズに基づく正当化P/Eを求めることができます。予想P/Eは配当性向÷(r − g)、実績P/Eはそれに(1 + g)を掛けたものです。

  • 予想P/E =(1 − b)÷(r − g)
  • 実績P/E =(1 − b)×(1 + g)÷(r − g)
  • b:内部留保率
  • 配当性向・成長率↑、要求収益率↓でP/E上昇
予想P/E = P₀ ÷ E₁ =(1 − b)÷(r − g)

LOS 9:DDMに基づく要求収益率の推定

価格を本源的価値と見なして、DDMを要求収益率について解きます。ゴードン成長モデルでは配当利回り+成長率、Hモデルでは超過成長部分を加えた式になります。

  • ゴードン:r = D₁/P₀ + g
  • Hモデル:r =(D₀/P₀)×[(1 + g_L)+ H ×(g_S − g_L)]+ g_L
  • 一般の多段階DDMでは試行錯誤(IRR)で求める
  • 得られる r は期待リターン(IRR)
r = D₁ ÷ P₀ + g

LOS 10:DDMによる割高・割安の判定

DDMで求めた本源的価値と市場価格を比較し、価値が価格を上回れば過小評価、下回れば過大評価と判断します。要求収益率と期待リターンを比べても同じ判断ができます。

  • 価値>価格:過小評価(買い)
  • 価値<価格:過大評価(売り)
  • 価値≒価格:適正評価
  • 期待リターン>要求収益率なら過小評価

LOS 11:成長期・移行期・成熟期

企業は、高成長で配当が少ない成長期、成長率が低下し配当が増える移行期、ROEが要求収益率に近づき安定成長する成熟期をたどると考えます。

  • 成長期:高いROE、低い配当性向、FCFはマイナスも
  • 移行期:成長率低下、配当性向上昇
  • 成熟期:ROE≒要求収益率、安定した成長と配当
  • 段階に応じたモデル選択の根拠

LOS 12:多段階DDMの前提と選択

2段階DDMは高成長から安定成長へ急に移る企業、Hモデルは成長率が直線的に低下する企業、3段階DDMは成長期・移行期・成熟期が明確な企業に適します。

  • 2段階:成長率が一段階で切り替わる
  • Hモデル:初期成長率から長期成長率へ直線的に低下
  • 3段階:成長・移行・成熟の3局面
  • 企業の成長段階に合わせて選択

LOS 13:ターミナル・バリューの決定方法

ターミナル・バリューは予測期間の末時点における株式価値です。ゴードン成長モデルで求める方法と、P/Eなどのマルチプルを掛けて求める方法があります。

  • ゴードン成長モデル:Vₙ = Dₙ₊₁ ÷(r − g_L)
  • マルチプル:正当化P/Eや比較P/E × 予想利益
  • 評価額全体に占める割合が大きい
  • 長期成長率と要求収益率の仮定に敏感
Vₙ = Dₙ ×(1 + g_L)÷(r − g_L)

LOS 14:2段階DDM・Hモデル・3段階DDMの計算

多段階DDMでは、高成長期の各配当の現在価値と、ターミナル・バリューの現在価値を合計します。Hモデルは近似式で、長期成長率での価値に超過成長分を加えます(Hは高成長期間の半分)。

  • 2段階:高成長期配当のPV+ターミナル・バリューのPV
  • Hモデル:H = 高成長期間 ÷ 2
  • 3段階:成長・移行・成熟の各段階の配当を割り引く
  • 成長率が直線的に低下する期間の扱い
Hモデル:V₀ = D₀ ×(1 + g_L)÷(r − g_L)+ D₀ × H ×(g_S − g_L)÷(r − g_L)

LOS 15:スプレッドシート・モデリング

スプレッドシートを使うと、配当の成長率・配当性向を年ごとに柔軟に設定し、複雑な多段階モデルや感応度分析を容易に行えます。

  • 年ごとに異なる成長率・配当性向を設定
  • 売上・利益からの配当の予測
  • 入力値を変えた感応度分析
  • 定型モデルでは扱いにくいパターンに対応

LOS 16:サステナブル成長率とデュポン分析

サステナブル成長率は、新株発行をせず資本構成を維持したまま達成できる配当(利益)の成長率で、内部留保率×ROEで表されます。ROEはデュポン分析で利益率・資産回転率・財務レバレッジに分解します。

  • g = b × ROE
  • b = 1 − 配当性向
  • ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
  • 成長率の源泉(収益性・効率性・レバレッジ)を特定
g = b × ROE = b ×(純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)

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