Learning Module 3「Free Cash Flow Valuation(フリーキャッシュフロー評価)」は、FCFFとFCFEによる評価の違い、純利益・EBIT・EBITDA・CFOからのFCFの計算、FCFの予測と財務政策の影響、単一・2段階・3段階のFCFモデル、ターミナル・バリュー、感応度分析を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM3のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM3には13個のLOSがあります。

  1. LOS 1:企業へのフリー・キャッシュフロー(FCFF)と株主へのフリー・キャッシュフロー(FCFE)による評価アプローチを比較するcompare the free cash flow to the firm (FCFF) and free cash flow to equity (FCFE) approaches to valuation
  2. LOS 2:FCFEアプローチに内在する所有者の視点を説明するexplain the ownership perspective implicit in the FCFE approach
  3. LOS 3:FCFFとFCFEを計算するために、純利益、EBIT、EBITDA、営業活動によるキャッシュフロー(CFO)に対して行う適切な調整を説明するexplain the appropriate adjustments to net income, earnings before interest and taxes (EBIT), earnings before interest, taxes, depreciation, and amortization (EBITDA), and cash flow from operations (CFO) to calculate FCFF and FCFE
  4. LOS 4:FCFFとFCFEを計算するcalculate FCFF and FCFE
  5. LOS 5:FCFFとFCFEを予測するアプローチを記述するdescribe approaches for forecasting FCFF and FCFE
  6. LOS 6:配当、自社株買い、株式発行、レバレッジの変更が将来のFCFFとFCFEにどのように影響し得るかを説明するexplain how dividends, share repurchases, share issues, and changes in leverage may affect future FCFF and FCFE
  7. LOS 7:FCFEモデルと配当割引モデルを比較するcompare the FCFE model and dividend discount models
  8. LOS 8:評価においてキャッシュフローの代理変数として純利益とEBITDAを用いることを評価するevaluate the use of net income and EBITDA as proxies for cash flow in valuation
  9. LOS 9:FCFFおよびFCFEによる評価における感応度分析の利用を説明するexplain the use of sensitivity analysis in FCFF and FCFE valuations
  10. LOS 10:単一段階(安定成長)、2段階、3段階のFCFFおよびFCFEモデルを説明し、企業の特徴に照らして適切なモデルの選択を正当化するexplain the single-stage (stable-growth), two-stage, and three-stage FCFF and FCFE models and justify the selection of the appropriate model given a company’s characteristics
  11. LOS 11:適切なフリー・キャッシュフロー・モデルを用いて企業価値を推定するestimate a company’s value using the appropriate free cash flow model(s)
  12. LOS 12:多段階評価モデルにおけるターミナル・バリューの計算方法を記述するdescribe approaches for calculating the terminal value in a multistage valuation model; and
  13. LOS 13:フリー・キャッシュフロー評価モデルに基づいて、株式が過大評価・適正評価・過小評価されているかを評価するevaluate whether a stock is overvalued, fairly valued, or undervalued based on a free cash flow valuation model

LM3のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • FCFFは企業のすべての資本提供者が利用できるキャッシュフロー、FCFEは普通株主が利用できるキャッシュフロー
  • FCFは、無配企業、配当が支払能力と大きく乖離する企業、FCFが予測期間内に収益性と整合する企業、支配株主の視点での評価に適する
  • FCFFアプローチでは企業価値をFCFFのWACCによる現在価値として求め、負債の価値を差し引いて株主価値を得る
  • FCFEアプローチでは株主価値をFCFEの株主資本コストによる現在価値として直接求める
  • FCFFとFCFEは純利益、EBIT、EBITDA、CFOのいずれからも、非現金費用・設備投資・運転資本投資・支払利息・純借入を調整して計算できる
  • 配当・自社株買い・株式発行はFCFFやFCFEに影響しないが、レバレッジの変更はFCFEに影響を与える
  • 純利益やEBITDAはキャッシュフローの代理として不十分で、FCFの方が評価に適する
  • 成長パターンに応じて単一段階・2段階・3段階のモデルを選び、非営業資産は別途加算する

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:FCFFアプローチとFCFEアプローチ

FCFFは営業費用・税金・設備投資・運転資本投資を払った後に全資本提供者が使えるキャッシュフローで、WACCで割り引いて企業価値を求めます。FCFEは債権者への支払と純借入を反映した後の株主の取り分で、株主資本コストで割り引きます。

  • FCFF→WACCで割引→企業価値→負債価値を控除→株主価値
  • FCFE→株主資本コストで割引→株主価値
  • レバレッジが高い・変動する企業はFCFFが扱いやすい
  • FCFEがマイナスの場合もFCFFが有用
株主価値 = Σ FCFFₜ ÷(1 + WACC)ᵗ − 負債の市場価値

LOS 2:FCFEアプローチの所有者の視点

FCFEは企業が株主に分配可能なキャッシュフローであり、配当として実際に支払われるかどうかにかかわらず、その使途を決められる支配株主(コントロール)の視点を前提としています。

  • 支払能力ベースのキャッシュフロー
  • 支配権を持つ投資家の視点
  • 配当は少数株主が実際に受け取る額
  • 買収評価などに適する

LOS 3:純利益・EBIT・EBITDA・CFOからの調整

純利益からは非現金費用を足し戻し、税引後支払利息を加え、設備投資と運転資本投資を差し引いてFCFFを求めます。CFOからは税引後支払利息を加え設備投資を差し引き、EBIT・EBITDAからは税金と投資を調整します。

  • 非現金費用(減価償却費など)の足し戻し
  • 支払利息×(1 − t)の加算(FCFF)
  • 固定資本投資(FCInv)と運転資本投資(WCInv)の控除
  • CFOには運転資本投資が既に反映
  • 運転資本からは現金と短期借入を除く
FCFF = NI + NCC + Int ×(1 − t)− FCInv − WCInv

LOS 4:FCFFとFCFEの計算

FCFFは複数の出発点から計算でき、FCFEはFCFFから税引後支払利息を差し引き純借入を加えて求めます。

  • FCFF = CFO + Int ×(1 − t)− FCInv
  • FCFF = EBIT ×(1 − t)+ Dep − FCInv − WCInv
  • FCFF = EBITDA ×(1 − t)+ Dep × t − FCInv − WCInv
  • FCFE = NI + NCC − FCInv − WCInv + 純借入
  • FCFE = CFO − FCInv + 純借入
FCFE = FCFF − Int ×(1 − t)+ 純借入

LOS 5:FCFFとFCFEの予測

FCFの予測は、過去のFCFを一定率で伸ばす方法と、売上成長率などから構成要素を個別に予測する方法があります。目標負債比率(DR)で純投資を賄う前提では、FCFEを純利益から簡潔に予測できます。

  • 過去FCFに成長率を適用する方法
  • 売上高から利益・投資を個別に予測する方法
  • 純投資(FCInv − Dep + WCInv)を売上増加に連動
  • 目標負債比率で投資の一部を借入で賄う前提
FCFE = NI −(1 − DR)×(FCInv − Dep)−(1 − DR)× WCInv

LOS 6:財務政策がFCFF・FCFEに与える影響

配当・自社株買い・株式発行はFCFの使い道・調達であり、FCFFやFCFEの大きさ自体には影響しません。一方、レバレッジの変更は支払利息と純借入を通じてFCFEに影響し、FCFFへの影響はほとんどありません。

  • 配当・自社株買い・株式発行:FCFF・FCFEに影響なし
  • レバレッジ増加:当期のFCFEは純借入で増加、将来は利息で減少
  • FCFFは資本構成の影響をほぼ受けない
  • レバレッジ変更は株主資本コスト・WACCに影響

LOS 7:FCFEモデルと配当割引モデル

DDMは株主が実際に受け取る配当を、FCFEモデルは株主に分配可能なキャッシュフローを割り引きます。配当がFCFEと大きく異なる企業では両者の評価額が乖離します。

  • DDM:少数株主の視点
  • FCFE:支配株主の視点
  • 配当≒FCFEなら評価額は近い
  • 無配企業にはFCFEモデルが適用可能

LOS 8:純利益とEBITDAをキャッシュフローの代理とする問題

純利益は非現金費用・非現金収益を含み、設備投資や運転資本投資を反映しません。EBITDAは減価償却費を足し戻しますが、税金・設備投資・運転資本投資を反映しないため、FCFの代理としては不十分です。

  • 純利益:非現金項目を含み投資を反映しない
  • EBITDA:税金・投資を反映しない
  • EBITDAは全資本提供者向けの指標で株主価値には不向き
  • FCFの方が価値との関係が直接的

LOS 9:感応度分析の利用

FCF評価は、成長率、要求収益率(WACC・株主資本コスト)、利益率、投資水準などの入力に大きく左右されます。感応度分析で各入力の変化が評価額に与える影響を確認します。

  • 成長率の仮定の影響
  • 割引率(ベータ、ERP、リスクフリー・レート)の影響
  • ターミナル・バリューの仮定の影響
  • 評価額のレンジの提示

LOS 10:単一段階・2段階・3段階FCFモデルの選択

単一段階モデルは安定成長の企業、2段階モデルは高成長から安定成長へ移る企業、3段階モデルは成長期・移行期・成熟期のある企業に適します。成長率はFCF自体や売上・利益率の成長として設定できます。

  • 安定成長:FCFF₁ ÷(WACC − g)
  • 2段階:高成長期のPV+ターミナル・バリューのPV
  • 3段階:成長率が段階的に低下
  • 企業のライフサイクルに合わせて選択
企業価値 = FCFF₁ ÷(WACC − g)、株主価値 = FCFE₁ ÷(r − g)

LOS 11:FCFモデルによる企業価値の推定

予測したFCFFまたはFCFEを適切な割引率で割り引いて価値を求め、営業に使われていない非営業資産(余剰現金・有価証券・遊休地など)は別途加算します。

  • FCFF:WACCで割引、FCFE:株主資本コストで割引
  • 企業価値=営業資産の価値+非営業資産の価値
  • 株主価値=企業価値−負債の市場価値
  • 1株当たり価値=株主価値÷発行済株式数

LOS 12:多段階モデルのターミナル・バリュー

ターミナル・バリューは、ゴードン成長モデルで求める方法と、P/Eなどのマルチプルを掛けて求める方法があります。成熟期の成長率と割引率の仮定に敏感です。

  • ゴードン成長モデル:TVₙ = FCFₙ₊₁ ÷(r − g)
  • マルチプル:P/E、EV/EBITDAなど
  • 成熟期の設備投資は減価償却費に近づく
  • 評価額に占める割合が大きい
TVₙ = FCFFₙ₊₁ ÷(WACC − g)

LOS 13:FCFモデルによる割高・割安の判定

FCFモデルで求めた1株当たり本源的価値と市場価格を比較し、価値が価格を上回れば過小評価、下回れば過大評価と判断します。

  • 価値>価格:過小評価
  • 価値<価格:過大評価
  • 感応度分析で結論の頑健性を確認
  • FCFFとFCFEの結果の整合性を確認

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