Learning Module 4「Market-Based Valuation: Price and Enterprise Value Multiples(マルチプル評価:株価倍率とEV倍率)」は、類似会社比較法とファンダメンタルズ予想に基づく方法、各種株価倍率と配当利回り、利益の正規化、クロスセクション回帰、正当化倍率、PEGレシオ、EV倍率、国際比較、モメンタム指標、倍率の平均の取り方を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM4のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM4には18個のLOSがあります。

  1. LOS 1:株価倍率を用いた評価の2つのアプローチとして、類似会社比較法と予想ファンダメンタルズに基づく方法を対比し、それぞれの経済的根拠を説明するcontrast the method of comparables and the method based on forecasted fundamentals as approaches to using price multiples in valuation and explain economic rationales for each approach
  2. LOS 2:正当化される株価倍率を計算・解釈するcalculate and interpret a justified price multiple
  3. LOS 3:評価において代替的な株価倍率と配当利回りを用いる根拠と、考えられる欠点を記述するdescribe rationales for and possible drawbacks to using alternative price multiples and dividend yield in valuation
  4. LOS 4:代替的な株価倍率と配当利回りを計算・解釈するcalculate and interpret alternative price multiples and dividend yield
  5. LOS 5:基礎的利益(underlying earnings)を計算・解釈し、1株当たり利益(EPS)の正規化の方法を説明し、正規化EPSを計算するcalculate and interpret underlying earnings, explain methods of normalizing earnings per share (EPS), and calculate normalized EPS
  6. LOS 6:益回り(E/P)の利用を説明し、正当化するexplain and justify the use of earnings yield (E/P)
  7. LOS 7:代替的な株価倍率と配当利回りに影響するファンダメンタル要因を記述するdescribe fundamental factors that influence alternative price multiples and dividend yield
  8. LOS 8:ファンダメンタルズに対するクロスセクション回帰から予測P/Eを計算・解釈し、クロスセクション回帰手法の限界を説明するcalculate and interpret a predicted P/E, given a cross-sectional regression on fundamentals, and explain limitations to the cross-sectional regression methodology
  9. LOS 9:予想ファンダメンタルズに基づいて、株式の正当化P/E、P/B、P/Sを計算・解釈するcalculate and interpret the justified price-to-earnings ratio (P/E), price-to-book ratio (P/B), and price-to-sales ratio (P/S) for a stock, based on forecasted fundamentals
  10. LOS 10:P/E対成長率(PEG)レシオを計算・解釈し、相対評価におけるその利用を説明するcalculate and interpret the P/E-to-growth (PEG) ratio and explain its use in relative valuation
  11. LOS 11:多段階割引キャッシュフロー(DCF)モデルのターミナル・バリューの決定における株価倍率の利用を計算・説明するcalculate and explain the use of price multiples in determining terminal value in a multistage discounted cash flow (DCF) model
  12. LOS 12:倍率の比較に基づいて、株式が過大評価・適正評価・過小評価されているかを評価するevaluate whether a stock is overvalued, fairly valued, or undervalued based on comparisons of multiples
  13. LOS 13:類似会社比較法によって株式を評価し、類似会社比較法を用いる際のファンダメンタルズの重要性を説明するevaluate a stock by the method of comparables and explain the importance of fundamentals in using the method of comparables
  14. LOS 14:株価倍率およびEV倍率で用いられるキャッシュフローの代替的な定義を説明し、各定義の限界を記述するexplain alternative definitions of cash flow used in price and enterprise value (EV) multiples and describe limitations of each definition
  15. LOS 15:EV倍率を計算・解釈し、EV/EBITDAの利用を評価するcalculate and interpret EV multiples and evaluate the use of EV/EBITDA
  16. LOS 16:国境を越えた評価比較における差異の源泉を説明するexplain sources of differences in cross-border valuation comparisons
  17. LOS 17:モメンタム指標と評価におけるその利用を記述するdescribe momentum indicators and their use in valuation
  18. LOS 18:一群の倍率の中心傾向を表すための算術平均、調和平均、加重調和平均、中央値の利用を説明するexplain the use of the arithmetic mean, the harmonic mean, the weighted harmonic mean, and the median to describe the central tendency of a group of multiples

LM4のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • 株価倍率の利用には、類似資産の倍率と比べる類似会社比較法と、ファンダメンタルズ予想から正当化倍率を導く方法の2つがある
  • 類似会社比較法は一物一価の考え方に基づき、相対的な割高・割安を判断するが、比較対象全体の誤評価の影響を受ける
  • P/E、P/B、P/S、P/CF、配当利回りにはそれぞれ根拠と欠点があり、利益の変動や会計方針の違いへの調整が必要
  • 循環的な企業では、過去平均EPS法や平均ROE法で利益を正規化する
  • 正当化倍率はDDMなどから導かれ、要求収益率・成長率・配当性向・ROEなどのファンダメンタルズで決まる
  • EV倍率は資本構成の異なる企業の比較に有用で、EV/EBITDAが代表的
  • 国際比較では会計基準・文化・リスク・成長見通しの違いが倍率の差の要因となる
  • 倍率群の代表値として、外れ値の影響を考慮して算術平均、調和平均、加重調和平均、中央値を使い分ける

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:類似会社比較法と予想ファンダメンタルズに基づく方法

類似会社比較法は類似企業の倍率と比べて相対的な割高・割安を判断する方法で、一物一価の法則が根拠です。予想ファンダメンタルズに基づく方法はDCFモデルから正当化倍率を導き、本源的価値の考え方と結びつきます。

  • 類似会社比較法:相対評価、一物一価
  • ファンダメンタルズ法:DCFモデルと整合的な正当化倍率
  • 類似会社比較法は比較対象群全体の誤評価の影響を受ける
  • 正当化倍率は倍率の水準を説明する

LOS 2:正当化される株価倍率

正当化倍率は、株式の本源的価値を利益や純資産などで割った、ファンダメンタルズと整合的な倍率です。実際の倍率と比べて割高・割安を判断します。

  • 正当化P/E、P/B、P/S、P/CFなど
  • DDMやRIモデルなどから導出
  • 実際の倍率>正当化倍率:過大評価
  • 要求収益率・成長率の仮定に依存
正当化予想P/E =(1 − b)÷(r − g)

LOS 3:各種株価倍率と配当利回りの根拠と欠点

P/Eは収益力が価値の主因という考えに基づきますが、利益がマイナスや一時的な場合に問題となります。P/Bは純資産が安定的でマイナスになりにくい一方、無形資産を反映しにくく、P/Sは売上が操作されにくい一方、費用構造の違いを反映しません。

  • P/E:利益の変動・マイナス・会計の裁量が欠点
  • P/B:金融機関に有用、無形資産・インフレ・会計の違いが欠点
  • P/S:マイナスになりにくい、収益性を反映しない
  • P/CF:操作されにくい、CFの定義が問題
  • 配当利回り:リターンの一部のみ、現在の配当と将来の成長のトレードオフ

LOS 4:代替的な株価倍率と配当利回りの計算

倍率の分母には実績値(トレーリング)と予想値(リーディング)があります。P/Bではのれんなどを除いた有形純資産を用いるなどの調整をすることがあります。

  • 実績P/E:株価 ÷ 過去4四半期のEPS
  • 予想P/E:株価 ÷ 次期の予想EPS
  • P/B:株価 ÷ BVPS(優先株を除く普通株主資本)
  • P/S:株価 ÷ 1株当たり売上高
  • 配当利回り:年間配当 ÷ 株価
配当利回り = 1株当たり年間配当 ÷ 株価

LOS 5:基礎的利益とEPSの正規化

基礎的利益は一時的・非経常的な項目を除いた利益です。景気循環の影響を受ける企業では、過去平均EPS法平均ROE法で景気サイクル中立的な正規化EPSを求めます。

  • 非経常項目(リストラ費用、資産売却益など)の除外
  • 過去平均EPS法:直近サイクルのEPS平均
  • 平均ROE法:サイクル平均ROE × 現在のBVPS
  • 平均ROE法は企業規模の変化を反映できる
正規化EPS(平均ROE法)= 平均ROE × 現在のBVPS

LOS 6:益回り(E/P)の利用

利益がマイナスの場合、P/Eは意味を持ちませんが、益回り(E/P)は利益が負でも計算でき、順位づけに使えます。

  • E/Pは利益がマイナスでも順序づけが可能
  • 利益ゼロ付近でP/Eが不安定になる問題を回避
  • 債券利回りとの比較にも用いられる
益回り = EPS ÷ 株価

LOS 7:倍率に影響するファンダメンタル要因

株価倍率は、要求収益率が低いほど、成長率が高いほど高くなります。P/BはROE、P/Sは利益率、配当利回りは成長率と要求収益率の差に左右されます。

  • P/E:配当性向、成長率、要求収益率
  • P/B:ROEと要求収益率の差
  • P/S:売上高純利益率
  • 配当利回り:r − g
  • リスクの高い企業ほど倍率は低い

LOS 8:クロスセクション回帰による予測P/E

複数企業のP/Eを配当性向・成長率・ベータなどのファンダメンタルズに回帰し、推定した係数から対象企業の予測P/Eを求めます。

  • 説明変数:成長率、配当性向、リスク(ベータ)など
  • 予測P/Eと実際のP/Eを比較
  • 限界:サンプル・期間に固有の関係
  • 限界:説明変数間の多重共線性
  • 限界:関係が時間とともに変化

LOS 9:正当化P/E・P/B・P/S

ゴードン成長モデルや残余利益モデルから、ファンダメンタルズに基づく正当化倍率を導きます。P/BはROEが要求収益率を上回るほど高く、P/Sは利益率が高いほど高くなります。

  • 正当化予想P/E =(1 − b)÷(r − g)
  • 正当化P/B =(ROE − g)÷(r − g)
  • 正当化P/S =(E₀/S₀)×(1 − b)×(1 + g)÷(r − g)
  • ROE>r なら P/B>1
正当化P/B =(ROE − g)÷(r − g)

LOS 10:PEGレシオ

PEGレシオはP/Eを予想成長率(%表示)で割った指標で、成長率の違いを調整したP/Eの比較に使います。PEGが低いほど割安と判断されます。

  • PEG = P/E ÷ 予想成長率(%)
  • 成長率とP/Eの関係は線形と仮定
  • リスク(要求収益率)の違いを考慮しない
  • 成長の持続期間を考慮しない
PEG =(P/E)÷ g(%)

LOS 11:マルチプルによるターミナル・バリュー

多段階DCFモデルのターミナル・バリューは、予測期末の利益などに正当化倍率または比較倍率を掛けて求めることができます。

  • TVₙ = 正当化予想P/E × Eₙ₊₁
  • TVₙ = 実績P/E × Eₙ
  • 比較倍率を使うと市場の誤評価を取り込むおそれ
  • 正当化倍率は成長率・割引率の仮定に依存
TVₙ =(P/E)× 予測期末のEPS

LOS 12:倍率の比較による割高・割安の判定

対象企業の倍率をベンチマーク(類似企業、業界、市場、過去の自社)の倍率と比べ、ファンダメンタルズの差を考慮して割高・割安を判断します。

  • 倍率<ベンチマーク:相対的に過小評価
  • 倍率>ベンチマーク:相対的に過大評価
  • 成長率・リスクなどの差の調整
  • ベンチマーク自体の誤評価に注意

LOS 13:類似会社比較法とファンダメンタルズの重要性

類似会社比較法では、業種・規模・成長率・リスクなどが似た比較対象を選び、倍率の差がファンダメンタルズの差で説明できるかを確認することが重要です。

  • 比較対象の選定(業種、規模、事業構成)
  • ベンチマーク倍率の代表値の選択
  • ファンダメンタルズ(成長率、リスク、収益性)の差の調整
  • 相対的な評価にとどまる点

LOS 14:キャッシュフローの代替的な定義と限界

倍率で使うキャッシュフローには、利益+非現金費用(CF)調整後CFOFCFEEBITDAなどがあります。それぞれ運転資本や設備投資、資本構成の扱いが異なります。

  • CF(純利益+D&A):運転資本・非現金収益を無視
  • 調整後CFO:非経常項目を調整
  • FCFE:理論的に望ましいが変動が大きい・マイナスになりやすい
  • EBITDA:全資本提供者向け、設備投資を反映しない

LOS 15:EV倍率とEV/EBITDA

企業価値(EV)は普通株・優先株・負債の市場価値から現金・短期投資を差し引いたものです。EV/EBITDAは資本構成の異なる企業の比較に有用で、減価償却の多い資本集約的な企業の評価にも使われます。

  • EV = 株式時価総額+優先株+負債−現金・投資
  • 長所:レバレッジの異なる企業の比較、純利益がマイナスでもEBITDAはプラスのことが多い
  • 短所:設備投資・運転資本投資を反映しない
  • EV/売上高なども利用
EV = 普通株時価総額 + 優先株 + 負債の市場価値 − 現金・短期投資

LOS 16:国際比較における差異の源泉

国をまたいだ倍率比較では、会計基準の違い、文化・経済の違い、リスクや成長見通しの違いが倍率に影響します。

  • 会計基準(IFRSと米国基準など)の差
  • 企業統治・文化の違い
  • 国のリスク・インフレ・成長率の差
  • P/CFO・P/FCFEは会計差の影響を受けにくく、P/B・P/E・EBITDAベースの倍率は受けやすい

LOS 17:モメンタム指標と評価

モメンタム指標は価格や利益の動きと過去の値や予想値を比較するものです。アーニングス・サプライズ標準化予想外利益(SUE)相対力などがあります。

  • アーニングス・サプライズ = 報告EPS − 予想EPS
  • SUE = サプライズ ÷ 過去のサプライズの標準偏差
  • 相対力:株価の相対的なパフォーマンス
  • 行動ファイナンス的な根拠
SUE =(報告EPS − 予想EPS)÷ 予想誤差の標準偏差

LOS 18:倍率群の中心傾向の測り方

倍率の代表値には算術平均、調和平均、加重調和平均、中央値があります。調和平均は大きな外れ値の影響を抑え、中央値は外れ値に頑健です。

  • 算術平均:大きな外れ値に引っ張られる
  • 調和平均:n ÷ Σ(1/Xᵢ)、大きな外れ値の影響を抑える(小さな外れ値は強調)
  • 加重調和平均:ポートフォリオのウェイトで加重、ポートフォリオ全体の倍率と一致
  • 中央値:外れ値の影響を受けにくい
調和平均 = n ÷ Σ(1 ÷ Xᵢ)

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