ひとことで言うと

  • 企業戦略は「どの事業に、どれだけ資金と経営資源を投じるか」を決めることで、その良し悪しは最終的に企業価値に表れます。
  • 価値が生まれるのは、投下資本のリターン(ROIC)が資金提供者の要求するリターン(資本コスト、WACC)を上回るときです。
  • 競争優位を生む戦略が高いリターンの源泉となり、ファイナンスはその戦略を数字で評価し、資金配分を規律づける役割を担います。

この記事では、証券アナリスト1次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「企業戦略とファイナンス」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 1次 科目Ⅱ/コーポレート・ファイナンス
大分類 (2) 企業の事業・競争戦略
協会の学習ポイント 企業戦略とコーポレート・ファイナンスの関係について理解する。

企業戦略とコーポレート・ファイナンスとは

コーポレート・ファイナンスは、企業価値を高めるために「どの投資を行い(投資決定)、どう資金を集め(資金調達)、どう還元するか(配当・還元)」を考える学問です。一方、企業戦略は、どの市場で、どのような強みを武器に戦うかを決めるものです。一見別の話に見えますが、両者は表裏一体の関係にあります。

価値創造の条件:ROIC>WACC

企業は株主や債権者から集めた資金を事業に投下し、そこからリターンを得ます。資金提供者は、同じリスクの他の投資で得られるリターン(機会費用)を要求しており、それが資本コストです。事業のリターンが資本コストを上回ってはじめて、企業は資金提供者の期待以上の価値を生み出したことになります。逆に、売上や利益が伸びていても、リターンが資本コストを下回る事業に投資を続ければ、企業価値は損なわれます

戦略は「超過リターン」の源泉

競争が激しく、誰でも参入できる市場では、超過利益は競争によってやがて消えていきます。資本コストを継続的に上回るリターンを得るには、他社がまねしにくい競争優位が必要です。業界構造の分析やポジショニング、経営資源の活用といった戦略論は、この競争優位をどう築くかを考えるものであり、ファイナンスの言葉でいえば「正のNPVを生む投資機会をどうつくるか」を考えていることになります。

ファイナンスは戦略を評価し規律づける

反対に、ファイナンスは戦略を評価する物差しを提供します。新規事業や買収の是非は、将来のキャッシュフローを資本コストで割り引いたNPVで判断できますし、既存事業もROICとWACCの比較で価値を生んでいるかを点検できます。資本コストを意識した事業ポートフォリオの見直しや、還元方針の決定も、戦略とファイナンスが交わる場面です。

押さえておきたい公式

ROIC = 税引後営業利益(NOPAT) ÷ 投下資本事業に投じた資金がどれだけのリターンを生んだか
EVA(経済的付加価値) = NOPAT − WACC × 投下資本 = (ROIC − WACC) × 投下資本プラスなら価値創造、マイナスなら価値破壊
記号 意味
NOPAT 税引後営業利益(営業利益 ×(1 − 税率))
投下資本 事業に投じられた資金(有利子負債+株主資本など)
WACC 負債コストと株主資本コストの加重平均(資本コスト)

具体例で確認

I社には2つの事業があり、WACCは8%とします。

  1. X事業:投下資本1,000億円、NOPAT120億円 → ROIC=120 ÷ 1,000=12%、EVA=120 − 0.08 × 1,000=+40億円
  2. Y事業:投下資本800億円、NOPAT48億円 → ROIC=48 ÷ 800=6%、EVA=48 − 0.08 × 800=−16億円

Y事業は黒字ですが、資本コストを下回っているため価値を壊しています。仮にY事業に同じ効率のまま800億円を追加投資して規模を倍にすると、NOPATは96億円に増えますが、EVAは96 − 0.08 × 1,600=−32億円と、価値の毀損が拡大します。I社がとるべき戦略は、Y事業の収益性を改善するか、撤退・売却を検討し、資金をX事業のようにROICがWACCを上回る事業に振り向けることです。

試験で問われやすいポイント

  • 企業価値が高まる条件はROIC(投資収益率)>資本コストであり、利益や売上の成長そのものではない点が問われやすいです。
  • 「黒字なら価値を生んでいる」「成長すれば必ず価値が高まる」という言い切りはひっかけになりやすいので注意しましょう。
  • 資本コストは資金提供者にとっての機会費用であることを押さえましょう。
  • 競争優位がないと超過リターンは競争で消える、という戦略論とNPVのつながりを説明できるようにしましょう。
  • EVA=(ROIC−WACC)×投下資本の計算と符号の意味も確認しておきましょう。

要点まとめ

  • 企業戦略とファイナンスは「どこに資金を投じるか」をめぐって表裏一体
  • ROICがWACCを上回るときに企業価値が生まれる
  • 持続的な超過リターンには、他社がまねしにくい競争優位が必要
  • ファイナンスはNPVやEVAで戦略を評価し、資金配分を規律づける

証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、学習ポイントに沿って論点を1つずつ解説しています。

▶ 証券アナリストコミュニティーに参加する

※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。