ひとことで言うと

  • WACC(加重平均資本コスト)は、税引後の負債コスト株主資本コストを、負債と株主資本の時価ベースの構成比で加重平均したものです。
  • 企業が資金の出し手(債権者と株主)全体に対して求められている平均的な要求収益率を表します。
  • 企業と同程度のリスクの投資判断(NPV)や、DCF法による企業価値評価で割引率として使われます。

この記事では、証券アナリスト1次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「WACCの計算と意義」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 1次 科目Ⅱ/コーポレート・ファイナンス
大分類 (5) 資本コストと資本構成
協会の学習ポイント 加重平均資本コスト(WACC)の計算方法と意義について理解する。

WACCとは

企業は、銀行借入や社債などの負債と、株主からの出資である株主資本の2つの方法で資金を調達しています。債権者は利息を、株主は配当や株価の値上がりを期待して資金を提供しており、それぞれが求めるリターンが企業にとっての資本コストです。WACCは、この2つのコストを調達額の比率で平均したもので、企業全体として最低限稼がなければならない収益率を表します。

負債コストは「税引後」にする

支払利息は税務上の損金になるため、利息を払うと税金が減ります。この節税効果があるので、企業にとっての実質的な負債コストは「負債コスト×(1-税率)」になります。一方、配当は損金にならないため、株主資本コストには税率の調整をしません。

ウエイトは「時価」で計算する

加重平均のウエイトには、帳簿上の金額(簿価)ではなく、時価を使うのが原則です。資本コストは投資家が現在の価格で投資したときに求めるリターンであり、それに対応するのは現在の市場価値だからです。株主資本は株式時価総額を使い、負債は時価が得にくい場合に簿価で代用することもあります。また、将来にわたって維持しようとする目標資本構成のウエイトを使う考え方もあります。

WACCの意義と使い方

WACCは、企業の既存事業と同程度のリスクを持つ投資のハードルレートとして使われます。投資のリターンがWACCを上回れば企業価値が増え、下回れば減ります。また、DCF法では、債権者と株主の両方に帰属するフリー・キャッシュフロー(FCF)をWACCで割り引いて事業価値を求めます。ただし、既存事業とリスクが大きく異なる新規事業の評価に全社のWACCをそのまま使うと、判断を誤るおそれがあるため、事業のリスクに合わせた割引率を使う必要があります。

押さえておきたい公式

WACC = D ÷ (D + E) × rD × (1 − t) + E ÷ (D + E) × rEウエイトは時価ベース(または目標資本構成)
rE = rf + β × (E[rM] − rf)株主資本コストはCAPMで推定することが多い
記号 意味
D 負債の時価
E 株主資本の時価(株式時価総額)
rD 負債コスト(税引前)
rE 株主資本コスト
t 法人税率
rf、β、E[rM] − rf 安全利子率、ベータ、市場リスクプレミアム

具体例で確認

S社の株式時価総額は600億円、負債は400億円(時価)です。負債コストは3%、株主資本コストは9%、税率は30%とします。

  1. ウエイト:負債 400 ÷ 1,000 = 40%、株主資本 600 ÷ 1,000 = 60%
  2. 税引後負債コスト:3% × (1 − 0.3) = 2.1%
  3. WACC:0.4 × 2.1% + 0.6 × 9% = 0.84% + 5.4% = 6.24%

仮にS社の株主資本の簿価が300億円しかなく、誤って簿価のウエイト(負債400、株主資本300)で計算すると、WACCは約5.06%となり、資本コストを過小に見積もってしまいます。その結果、本来は見送るべき投資を実行してしまうおそれがあります。

なお、株主資本コスト9%は、たとえば安全利子率1%、ベータ1.25、市場リスクプレミアム6.4%とすれば、CAPMで 1% + 1.25 × 6.4% = 9% と推定できます。

試験で問われやすいポイント

  • WACCの計算式そのものと、負債コストにだけ(1-税率)を掛ける点が最もよく問われます。株主資本コストに税調整をしないよう注意しましょう。
  • ウエイトは簿価ではなく時価(または目標資本構成)を使う点が狙われやすいです。
  • WACCはFCF(債権者と株主に帰属するCF)の割引率であり、株主に帰属するCF(配当やFCFE)の割引率は株主資本コストである、という対応関係が混同しやすいポイントです。
  • リスクの異なる新規事業に全社WACCをそのまま使うのは不適切というひっかけに注意しましょう。
  • 税率が上がると税引後負債コストが下がり、他の条件が同じならWACCも下がるという方向も押さえておきましょう。

要点まとめ

  • WACC=税引後負債コストと株主資本コストの時価加重平均
  • 支払利息の節税効果により、負債コストは「rD×(1-t)」で計算する
  • ウエイトは簿価ではなく時価(または目標資本構成)を使う
  • FCFを割り引いて企業価値を求める際や、同程度のリスクの投資判断の割引率になる

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