ひとことで言うと

  • 多角化とは、企業が既存の事業とは異なる製品・市場に事業を広げることで、全社戦略の中心テーマの一つです。
  • 事業間で経営資源を共有してシナジー(範囲の経済)を生めれば価値が高まりますが、単なるリスク分散目的の多角化は株主にとって価値を生みにくいとされます。
  • 事業の組み合わせを考える代表的な枠組みがPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)です。

この記事では、証券アナリスト1次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「多角化と全社戦略」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 1次 科目Ⅱ/コーポレート・ファイナンス
大分類 (2) 企業の事業・競争戦略
協会の学習ポイント 多角化と全社戦略の主要な議論について理解する。

多角化と全社戦略(PPM)とは

多角化は、アンゾフの成長ベクトルでいう「新しい製品で新しい市場に進出する」成長の方向です。既存事業との関係によって、技術・販路・ブランドなどを共有できる関連型多角化と、ほとんど関係のない事業に進出する非関連型多角化に分けられます。

多角化の利点

多角化の最大の利点はシナジーです。複数の事業で設備・技術・販売網・ブランドなどを共有すれば、別々の会社で行うよりも低いコストで事業を営めます。これを範囲の経済といいます。また、本業で生まれた余剰資金や人材を成長事業に回せる内部資本市場の働きや、本業の成熟に対する次の成長源の確保も、多角化の理由として挙げられます。実証研究では、一般に関連型多角化のほうが非関連型より業績が良い傾向があるとされています(ルメルトの研究などが知られています)。

多角化の問題点

一方、「事業を増やして業績の変動を小さくする」というリスク分散目的の多角化は、株主にとっては価値を生みにくいと考えられます。株主は自分で複数の会社の株式を持てば、より低いコストで同じ分散効果を得られるからです。さらに、多角化企業では採算の悪い事業を好調な事業の利益で支え続ける内部補助が起こりやすく、経営者の規模拡大志向というエージェンシー問題とも結びつきます。こうした理由から、多角化企業の市場価値が、各事業を独立企業として評価した合計を下回るコングロマリット・ディスカウントが生じることがあると指摘されています。

PPMによる事業の組み合わせ

PPMは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が提唱した枠組みで、各事業を市場成長率相対的市場シェアの2軸で4つに分類し、事業間のキャッシュフローの配分を考えます。背景には、シェアが高いほど累積生産量が多くコストが下がるという経験曲線効果があります。

整理しておきたいポイント

PPMの分類 市場成長率/相対シェア キャッシュフローと基本方針
花形(スター) 高成長/高シェア 収入も支出も大きい。シェアを維持して将来の金のなる木に育てる
金のなる木 低成長/高シェア 投資が少なく大きな資金を生む。他事業への資金源
問題児 高成長/低シェア 多額の投資が必要。選択して育成するか撤退するか
負け犬 低成長/低シェア 資金を生みにくい。縮小・撤退を検討

PPMの基本は、金のなる木で得た資金を、花形や有望な問題児に投じて将来の柱を育てることです。ただし、事業間のシナジーを考慮しない、市場の定義によって分類が変わる、といった限界もあります。

具体例で確認

M社は、食品・化学・不動産の3事業を営んでいます。各事業を同業の上場企業と同じ水準で評価すると、それぞれ500億円・400億円・300億円、合計1,200億円(有利子負債などは考えない単純化)になるとします。ところがM社の時価総額は1,000億円にとどまっています。

この場合、各事業の合計価値に対して (1,200 − 1,000) ÷ 1,200 ≒ 約17%のディスカウントがついていることになります。3事業の間に技術や販路の共有がほとんどなく(非関連型多角化)、赤字の事業を他の事業の利益で支えている状態が、投資家から「資金の使い方が非効率」とみられている可能性があります。M社が企業価値を高めるには、シナジーの乏しい事業の売却や分離(スピンオフ)を含めた事業ポートフォリオの見直しが選択肢になります。

試験で問われやすいポイント

  • 関連型と非関連型の多角化の違いと、一般に関連型のほうが業績が良い傾向があるという議論が問われやすいです。
  • 株主は自分で分散投資できるため、リスク分散だけを目的とした多角化は価値を生みにくいという点がよく問われます。
  • シナジー(範囲の経済)・内部資本市場・内部補助・コングロマリット・ディスカウントの意味を押さえましょう。
  • PPMの4分類(花形・金のなる木・問題児・負け犬)と2つの軸、資金の流れの方向がひっかけになりやすいです。

要点まとめ

  • 多角化には関連型と非関連型があり、シナジーの有無が鍵
  • リスク分散目的の多角化は株主にとって価値を生みにくい
  • 内部補助やエージェンシー問題がコングロマリット・ディスカウントの一因とされる
  • PPMは市場成長率と相対的市場シェアで事業を4分類し、資金配分を考える

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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。