ひとことで言うと

  • 構造型モデルは、企業の資産価値が負債の額を下回ったときにデフォルトが起こると考える信用リスク・モデルです(代表例はマートン・モデル)。
  • 株式は「企業資産を原資産、負債額を行使価格とするコール・オプション」、社債は「安全資産 − プット・オプション」とみなせます。
  • 株価や財務データからデフォルト確率や理論的な信用スプレッドを導けるのが特徴です。

この記事では、証券アナリスト2次「債券分析」の学習ポイントのひとつ「構造型モデル」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 証券分析とポートフォリオ・マネジメント/債券分析
大分類 (7) 社債投資と信用リスクの分析
協会の学習ポイント 信用リスクの構造型モデルの仕組み、特徴と利用方法を理解する。

構造型モデルとは

構造型モデルは、デフォルトが起こる「理由(構造)」を企業の資産と負債のバランスで説明するモデルです。最も基本的なマートン・モデルでは、企業は満期Tに額面Dを返済する割引債だけを負債として持ち、企業の資産価値Vは株価のように確率的に変動すると仮定します。

満期に資産価値VがDを上回っていれば、企業は負債を全額返済し、残りV − Dが株主のものになります。VがDを下回っていれば、株主は有限責任なので会社を債権者に明け渡し(デフォルト)、債権者はVだけを受け取ります。

オプションとしての株式と社債

この構造から、株主の受取額はmax(V − D, 0)となり、資産Vを原資産、負債Dを行使価格とするコール・オプションと同じ形になります。債権者の受取額はmin(V, D) = D − max(D − V, 0)なので、社債は安全な債券(額面D)からプット・オプションを差し引いたものです。このプットの価値が、信用リスクに対する対価(信用スプレッドの源)になります。

特徴と利用方法

構造型モデルは、資産価値のボラティリティや負債比率(レバレッジ)がデフォルト確率にどう影響するかを経済的に説明できる点が長所です。実務では、観測できる株価と株価ボラティリティから資産価値と資産ボラティリティを逆算し、デフォルトまでの距離(ディスタンス・トゥ・デフォルト)を求めて信用力を評価する、といった使い方がされます。

一方、資産価値は直接観測できない、負債構造を単純化しすぎている、満期直前までデフォルトが起こりにくく短期の信用スプレッドが実際より小さく出やすい、といった限界があります。

押さえておきたい公式

株式価値 E = V × N(d1) − D × e−rT × N(d2)ブラック・ショールズ式のコールと同じ形
d1 = {ln(V ÷ D) + (r + σ2 ÷ 2) × T} ÷ (σ√T)  d2 = d1 − σ√T
社債価値 B = V − E = D × e−rT − プットの価値リスク中立デフォルト確率は N(−d2)
記号 意味
V 企業の資産価値
D 負債の額面(満期Tに返済)
σ 資産価値のボラティリティ
r 無リスク金利(連続複利)
N( ) 標準正規分布の累積分布関数

具体例で確認

資産価値V=100、負債の額面D=80(1年後に返済)、無リスク金利r=2%、資産ボラティリティσ=25%とします。

  1. d1 = {ln(100 ÷ 80) + (0.02 + 0.03125) × 1} ÷ 0.25 ≒ (0.2231 + 0.0513) ÷ 0.25 ≒ 1.098、d2 ≒ 0.848
  2. N(d1) ≒ 0.8638、N(d2) ≒ 0.8017
  3. 株式価値 E ≒ 100 × 0.8638 − 80 × e−0.02 × 0.8017 ≒ 23.52
  4. 社債価値 B = 100 − 23.52 ≒ 76.48(無リスクなら80 × e−0.02 ≒ 78.42なので、プットの価値は約1.93)
  5. リスク中立デフォルト確率 N(−d2) ≒ 19.8%
  6. 社債の利回り −ln(76.48 ÷ 80) ≒ 4.50% から、信用スプレッド ≒ 4.50% − 2% = 約2.50%

資産ボラティリティσが上がるとプットの価値が増え、社債価値は下がり(スプレッドは拡大)、株式価値は上がります。株主と債権者の利害が対立する場面をうまく説明できます。

試験で問われやすいポイント

  • 株式=資産を原資産とするコール、社債=安全債券 − プットというオプションとしての見方が問われやすいです。
  • 資産ボラティリティやレバレッジが上がるとデフォルト確率・信用スプレッドが上がり、株式価値は上がるという方向に注意しましょう。
  • リスク中立デフォルト確率はN(−d2)で、N(−d1)と混同しないようにしましょう。
  • 誘導型モデルとの比較で、構造型はデフォルトの経済的な原因を説明できるが、資産価値が観測できず短期スプレッドを過小評価しやすい点が狙われやすいです。
  • 2次の記述式では、株式・社債価値やスプレッドの計算過程を示させたり、モデルの利点と限界を説明させたりする形が考えられます。

要点まとめ

  • 構造型モデル=資産価値が負債を下回るとデフォルトすると考えるモデル
  • 株式はコール・オプション、社債は安全債券−プット・オプション
  • リスク中立デフォルト確率はN(−d2)
  • 経済的に解釈しやすい一方、資産価値が観測できない等の限界がある

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