情報の非対称性とエージェンシー・コストとは?意味と試験で問われるポイント|証券アナリスト2次・コーポレート・ファイナンス
ひとことで言うと
- 経営者と投資家の情報の非対称性があると、増資は「株価が割高」というシグナルになり、企業は内部資金→負債→新株の順に資金を使う(ペッキング・オーダー理論)と考えます。
- エージェンシー・コストは、経営者・株主・債権者の利害の対立から生じるコストで、負債には経営者を規律づける効果と、株主と債権者の対立を生むという両面があります。
この記事では、証券アナリスト2次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「情報の非対称性とエージェンシー・コスト」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。
| 分野 | 2次 コーポレート・ファイナンスと企業分析/コーポレート・ファイナンス |
|---|---|
| 大分類 | (5) 資本コストと資本構成 |
| 協会の学習ポイント | 情報の非対称性とエージェンシー・コストについて理解する。 |
情報の非対称性とエージェンシー・コストとは
MM命題やトレードオフ理論は、経営者と投資家が同じ情報を持ち、同じ目的で行動することを前提にしています。しかし現実には、経営者は自社の見通しを投資家よりよく知っており(情報の非対称性)、経営者・株主・債権者の利害は必ずしも一致しません(エージェンシー問題)。この2つは、企業がどの資金調達手段を選ぶか、どの程度の負債を持つかに影響します。
情報の非対称性とペッキング・オーダー理論
経営者が「自社株は割高だ」と考えるときほど新株を発行したがる、と投資家が予想すると、増資の発表は「株価が割高である」というシグナルとして受け止められ、株価が下がりやすくなります(増資のネガティブなアナウンスメント効果)。その結果、企業は情報の非対称性の影響を受けにくい資金から順に使おうとします。これがペッキング・オーダー理論(資金調達の優先順位理論)で、順番は次のとおりです。
- 内部資金(内部留保・減価償却などの手元資金)
- 負債(銀行借入・社債。まずは安全性の高いもの)
- 新株発行(最後の手段)
この理論では、利益率が高く内部資金が豊富な企業ほど負債比率が低くなると説明され、トレードオフ理論が示す「目標負債比率」は必ずしも存在しないと考えます。また、将来の投資に備えて手元資金や借入余力(財務スラック)を残しておくことに価値があると説明できます。
エージェンシー・コスト
エージェンシー・コストとは、依頼人(プリンシパル)と代理人(エージェント)の利害の不一致から生じるコストです。監視コストや契約上の制約のコスト、そして利害の不一致による価値の損失(残余損失)を含みます。資本構成では主に2つの関係が問題になります。
- 株主と経営者(株主資本のエージェンシー・コスト):経営者が余剰資金で規模拡大や私的便益を追い、価値を生まない投資をする問題です。負債の元利払いは経営者に規律を与え、フリー・キャッシュフローの浪費を抑えるため、負債にはこのコストを下げる効果があるとされます。
- 株主と債権者(負債のエージェンシー・コスト):負債比率が高く経営が苦しいとき、株主は、成功すれば利益を得て失敗の損失は債権者に押し付けられるリスクの高い投資に走りやすくなります(資産代替・リスクシフティング)。逆に、成果の多くが債権者に回る場合は、NPVが正の投資でも見送る過少投資が起こります。債権者はこれを見越して高い金利や財務制限条項(コベナンツ)を求めます。
負債を増やすと前者は減り、後者は増えるため、両者の合計を最小にする資本構成があるという考え方もあります。
整理しておきたいポイント
| 論点 | 主な内容 | 資本構成への示唆 |
|---|---|---|
| 情報の非対称性 | 経営者の方が企業の実態をよく知っている | 増資は割高シグナルとなり株価が下がりやすい |
| ペッキング・オーダー理論 | 内部資金→負債→新株の順に調達 | 高収益企業ほど負債比率が低い傾向を説明 |
| 株主と経営者のエージェンシー | 余剰資金の浪費、過大投資 | 負債の規律づけ効果で抑制できる |
| 株主と債権者のエージェンシー | リスクシフティング、過少投資 | 負債が多すぎるとコストが増える |
具体例で確認
ある企業の株式は100株で、経営者が知る本当の価値は1株10(合計1,000)ですが、市場では1株8と過小評価されています。400を投資すればNPVが50のプロジェクトがあり、資金は新株発行で調達するしかないとします。
- 1株8で400を調達するには、新株を400÷8=50株発行する必要があります。
- 投資後の本当の企業価値は1,000+400+50=1,450、株数は150株なので、1株の本当の価値は1,450÷150≒9.67です。
- 投資をしなければ既存株主の1株の価値は10のままなので、増資して投資すると既存株主はかえって損をします。
このように、株価が過小評価されている企業はNPVが正の投資でも見送ってしまう可能性があります。もし内部資金や負債で調達できれば、この問題は起こりにくくなります。これがペッキング・オーダー理論の出発点です。
試験で問われやすいポイント
- ペッキング・オーダーの順番(内部資金→負債→新株)と、その理由が情報の非対称性にあることが問われやすいです。
- 増資の発表で株価が下がりやすい理由(割高シグナル)を説明できるようにしましょう。
- トレードオフ理論との違い:ペッキング・オーダー理論では「高収益企業ほど負債比率が低い」ことを説明でき、明確な目標負債比率を前提としません。
- 負債のエージェンシー・コスト(リスクシフティング、過少投資)と、負債による経営者の規律づけ効果を取り違えないよう注意します。
- 記述式では、具体的な数値例で既存株主の価値が薄まることを示したり、資金調達手段の選択理由を説明させたりする形が考えられます。
要点まとめ
- 情報の非対称性があると、増資は割高シグナルと受け取られやすい。
- ペッキング・オーダー理論:内部資金→負債→新株の順に調達する。
- 負債は経営者の浪費を抑える一方、株主と債権者の利害対立を生む。
- 過少評価された企業はNPVが正の投資でも見送ることがある。
証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、学習ポイントに沿って論点を1つずつ解説しています。
※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。
