【証券アナリスト2次】コーポレート・ファイナンスとは?要するに何を学ぶのかを学習ポイントに沿って解説
証券アナリスト(CMA)2次試験で問われる「コーポレート・ファイナンス」。1次でNPVや資本コストを学んだ方も、2次のテキストではAPV法、リアルオプション、M&A、ペイアウト政策と話題が一気に広がり、「結局2次では何ができるようになればいいの?」と感じる方も多いはずです。
この記事では、日本証券アナリスト協会が公表している「主要学習事項と学習ポイント」に沿って、2次のコーポレート・ファイナンスで要するに何を学ぶのかを、学習ポイントを1つずつかみくだいて解説します。
コーポレート・ファイナンスで学ぶこと
- お金の集め方・使い方・返し方:投資の意思決定、資本構成、ペイアウト政策を企業価値の観点から考える
- 企業価値の測り方:DCF法(WACC法・APV法)やマルチプル法で企業価値を評価し、価値が生まれる条件を理解する
- 企業の大きな意思決定:M&A・事業再編、ガバナンスとサステナビリティ、リスク管理が企業価値にどう影響するか
コーポレート・ファイナンスの基本情報
| 試験科目 | 2次「コーポレート・ファイナンスと企業分析」(財務分析・コーポレート・ファイナンス) |
|---|---|
| 試験での出題 | 午前・午後の総合試験の中で出題(記述式) |
| 学習ポイント数 | 48項目(大分類7つ) |
| 1次とのつながり | 1次では「株式会社のしくみ」「企業の事業・競争戦略」「コーポレートガバナンス」「投資の意思決定」「資本コストと資本構成」「企業価値評価」「企業のリスク管理と運転資本管理」の基本を学びます。2次ではこのうち(3)以降を深掘りし、新たに(6)「ペイアウト政策」と(7)「M&Aと企業再編」が加わります |
全体像:7つの大分類
| 大分類 | ひとことで言うと |
|---|---|
| (3) コーポレートガバナンス | サステナビリティ要素や投資家と企業の対話が、企業価値にどうつながるかを考える |
| (4) 投資の意思決定 | FCFの予測、EVA・NPV、リアルオプションなどで「この投資をすべきか」を判断する |
| (5) 資本コストと資本構成 | MM命題を出発点に、負債と株主資本の最適な組み合わせを考える |
| (6) ペイアウト政策 | 配当や自社株買いで株主にどう還元するのが良いのかを考える |
| (7) M&Aと企業再編 | M&Aの目的・シナジー・買収価格・防衛策・事業再編の仕組みを理解する |
| (8) 企業価値評価 | DCF法とマルチプル法で企業価値を評価し、価値創造の条件を理解する |
| (9) 企業のリスク管理と運転資本管理 | 短期の資金繰りやデリバティブ、ERMによるリスク管理と企業価値の関係を理解する |
各大分類の表にある学習ポイント名をクリックすると、用語解説の記事で意味と試験で問われやすいポイントを確認できます。
参考:1次も含めた大分類の全体像
協会の「主要学習事項と学習ポイント」では、1次と2次で大分類に同じ通し番号を使っています。2次のコーポレート・ファイナンスに(1)と(2)が出てこないのは、これらを1次で学ぶためです。2次は1次の内容を前提に出題されるので、全体の流れを参考に確認しておきましょう。
| 大分類 | 扱う試験 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| (1) 株式会社のしくみ | 1次のみ | 株式会社という制度の成り立ち、資金調達、所有と経営の分離、経営者報酬などの基本を知る |
| (2) 企業の事業・競争戦略 | 1次のみ | 企業がどうやって競争に勝ち、価値を生むのかという経営戦略の考え方を学ぶ |
| (3) コーポレートガバナンス | 1次・2次 | サステナビリティ要素や投資家と企業の対話が、企業価値にどうつながるかを考える |
| (4) 投資の意思決定 | 1次・2次 | FCFの予測、EVA・NPV、リアルオプションなどで「この投資をすべきか」を判断する |
| (5) 資本コストと資本構成 | 1次・2次 | MM命題を出発点に、負債と株主資本の最適な組み合わせを考える |
| (6) ペイアウト政策 | 2次のみ | 配当や自社株買いで株主にどう還元するのが良いのかを考える |
| (7) M&Aと企業再編 | 2次のみ | M&Aの目的・シナジー・買収価格・防衛策・事業再編の仕組みを理解する |
| (8) 企業価値評価 | 1次・2次 | DCF法とマルチプル法で企業価値を評価し、価値創造の条件を理解する |
| (9) 企業のリスク管理と運転資本管理 | 1次・2次 | 短期の資金繰りやデリバティブ、ERMによるリスク管理と企業価値の関係を理解する |
1次で学ぶ内容は【証券アナリスト1次】コーポレート・ファイナンスの記事で学習ポイントごとに解説しています。
(3) コーポレートガバナンス
ポイント:「企業は誰のために、どう規律づけられるべきか」を、企業価値とのつながりで考える大分類です。ESGなどのサステナビリティ要素の評価と、機関投資家と企業の対話、2つのコードの役割を学びます。
| 学習ポイント | 学ぶ内容 |
|---|---|
| サステナビリティと企業価値 | 気候変動や人的資本などの環境・社会の課題が、将来のキャッシュフローやリスクを通じて企業価値にどう影響するかを理解する |
| サステナビリティ要素の評価・利用 | ESG情報を投資分析に取り入れる方法(銘柄の除外、評価への統合など)と、その使い方の注意点を理解する |
| 機関投資家と企業の対話 | エンゲージメントの実際として、投資家が企業とどんなテーマで対話し、企業価値の向上を促すのかを知る |
| 2つのコードと企業価値 | 企業側のルールであるコーポレートガバナンス・コードと、投資家側のルールであるスチュワードシップ・コードが企業価値に与える影響を理解する |
(4) 投資の意思決定
ポイント:「この投資をすべきか」を判断する力を、1次より実践的に身につけます。FCFの予測と事業価値の評価を中心に、インフレの扱い、EVAとNPVの関係、複数案件の比較、リアルオプションまで学びます。
| 学習ポイント | 学ぶ内容 |
|---|---|
| インフレーションの影響 | 名目のキャッシュフローは名目の割引率、実質のキャッシュフローは実質の割引率で割り引くという整合性を理解する |
| FCFの予測と事業価値の評価 | 税引後営業利益+減価償却費−設備投資−運転資本の増加でFCFを予測し、それを割り引いて事業価値を求める |
| FCFに影響する外生的要因の分析 | 景気・為替・原材料価格など企業の外の要因がFCFに与える影響を、感応度分析やシナリオ分析で確かめる |
| EVA・MVA・NPVの関係 | EVA=税引後営業利益−資本コスト額。将来のEVAの現在価値の合計がMVAにあたり、NPVとも整合するという関係を理解する |
| 複数の投資事業の意思決定 | 資金に制約がある場合や、どちらか一方しか選べない案件、耐用年数が異なる案件をどう比べて選ぶかを理解する |
| リアルオプション | 延期・拡張・縮小・撤退などの「経営の柔軟性」を価値として捉え、通常のNPVでは見落とされる価値を評価する |
(5) 資本コストと資本構成
ポイント:「借入と株主資本をどう組み合わせると企業価値が高まるか」を考えます。MM命題を出発点に、節税効果・倒産コスト・情報の非対称性・エージェンシー・コストを加えて、現実の資本構成を理解します。
| 学習ポイント | 学ぶ内容 |
|---|---|
| 負債コストの計算方法 | 社債の利回りや格付けに応じたスプレッドなどから負債コストを求め、節税効果を反映した税引後の値を使うことを理解する |
| MM命題 | 税などのない完全市場では企業価値は資本構成に左右されない(第1命題)、借入を増やすと株主資本コストが上がる(第2命題)という基本と、法人税を考慮した修正を理解する |
| 資本コストと最適資本構成 | 負債の節税効果と財務困難のコストのバランスで、WACCが最も低く企業価値が最大になる資本構成を考える |
| 情報の非対称性とエージェンシー・コスト | 経営者と投資家の情報の差や利害の対立が、資金調達手段の選び方(ペッキング・オーダー理論など)に影響することを理解する |
| 目標資本構成と変動要因 | 業種・収益の安定性・成長機会・資産の性質などによって、企業が目指す負債比率が変わることを理解する |
| 資本構成の評価と留意事項 | 負債比率やインタレスト・カバレッジ・レシオ、格付けなどで資本構成を評価するときの見方と注意点を理解する |
| 財務レバレッジ・資本コストの国際的要因 | 税制や金融システム、カントリーリスクなど国ごとの違いが、負債の使い方や資本コストに与える影響を理解する |
(6) ペイアウト政策
ポイント:稼いだお金を配当や自社株買いでどう株主に返すかを考える、2次から加わる大分類です。MMの配当無関連命題を出発点に、現実にはシグナリングやエージェンシー・コストなどを通じて還元方法が意味を持つことを学びます。
| 学習ポイント | 学ぶ内容 |
|---|---|
| 還元方法の種類と影響 | 現金配当・自社株買いなどの還元方法が、株価やEPS・ROEなどの財務指標にどう影響するかを理解する |
| 配当無関連命題と影響要因 | 完全市場では配当政策は企業価値に影響しないというMMの命題と、税や取引コストなど現実に影響を与える要因を理解する |
| シグナリング効果 | 増配や自社株買いが「経営者は将来の業績に自信がある」というメッセージとして市場に受け取られ、株価に影響する仕組み |
| ペイアウトとエージェンシー・コスト | 余ったお金を株主に返すことで、経営者による無駄な投資を抑えられるという考え方を理解する |
| 代表的な配当政策 | 安定配当、配当性向を目安にする方針、投資に使った残りを配当する残余配当などの特徴を比べる |
(7) M&Aと企業再編
ポイント:企業を買う・合わせる・切り分けるという大きな意思決定を学ぶ、2次から加わる大分類です。M&Aの目的とシナジー、統合の形態、買収防衛や法令、買収価格の評価、そして株主にとって得か損かまでを整理します。
| 学習ポイント | 学ぶ内容 |
|---|---|
| M&Aの背景・動機と分類 | 成長・効率化などM&Aを行う理由と、水平型・垂直型・多角化型などの分類を理解する |
| シナジー効果 | 統合後の価値が2社の単独の価値の合計を上回る部分(売上増・コスト削減など)をシナジーとして捉える |
| 株価・財務指標への影響 | M&AによってEPSが増えるか薄まるか、のれんや負債の増加が財務指標にどう表れるかを理解する |
| 統合形態による特色 | 合併・株式取得・株式交換など統合の形や、現金か株式かという対価の違いによる特徴を理解する |
| 買収防衛の論点と対策 | 買収防衛策の代表例と、それが企業価値を守るのか経営陣の保身になるのかという論点を理解する |
| M&Aの関連法令 | 会社法・金融商品取引法(公開買付けのルールなど)・独占禁止法など、M&Aに関わる法令の全体像を知る |
| 被買収企業の価値評価 | DCF法・マルチプル法・市場株価などで買収対象の価値を評価し、支払ってよい価格を考える |
| 両社の株主価値への影響 | 買収プレミアムを受け取る被買収企業の株主と、払いすぎのリスクを負う買収企業の株主で、得失がどう分かれるかを理解する |
| 事業再編の仕組みと特性 | 会社分割・事業譲渡・持株会社化など、事業の組み替えの仕組みと特徴を理解する |
| 再編にかかるM&A取引 | スピンオフ・カーブアウト・MBOなど、事業再編で使われる取引の概要と特色を知る |
(8) 企業価値評価
ポイント:2次コーポレート・ファイナンスの中心です。DCF法で企業価値を計算する手順(FCF・ターミナル・バリュー・WACC法とAPV法・ベータの調整)と、マルチプル法との関係、そして「ROICが資本コストを上回ると価値が生まれる」という価値創造の条件を学びます。
| 学習ポイント | 学ぶ内容 |
|---|---|
| DCF法による企業価値評価 | 将来のFCFを資本コストで割り引いて企業価値を求め、そこから負債を差し引いて株主価値を求める流れを理解する |
| ターミナル・バリューと永久成長率 | 予測期間より先の価値を、翌年のFCF÷(資本コスト−永久成長率)でまとめて計算する方法と、成長率の置き方の注意点 |
| WACC法とAPV法 | 負債の節税効果を割引率(WACC)に織り込むWACC法と、負債がない場合の価値に節税効果の現在価値を足すAPV法の違いを理解する |
| アンレバード・ベータとレバード・ベータ | 借入の影響を取り除いたベータと、借入を含んだベータを行き来する計算で、他社のベータを評価対象に合わせて使う |
| マルチプル法とDCFファクター | EV/EBITDAやPERといった倍率が、資本コストが低いほど・成長率が高いほど大きくなるという理論的な関係を理解する |
| DCF法とマルチプル法の関係 | マルチプルはDCFの前提を1つの倍率に凝縮したものと捉え、2つの方法を相互にチェックに使う考え方 |
| 価値創造の条件 | 投下資本利益率(ROIC)が資本コストを上回るときにだけ、成長が企業価値を高めるという条件を理解する |
| 価値創造とMVA・EVA | 価値創造の条件を、EVA(毎年生み出す超過利益)とMVA(その現在価値の合計)で表す関係を理解する |
| 競争優位と価値創造 | 競争優位があるからこそ資本コストを上回る利益率を長く保てる、という戦略と財務指標のつながりを理解する |
| M&Aシナジーの算出 | 統合によって増えるキャッシュフローから統合コストを差し引き、現在価値にしてシナジーの価値を財務モデルで計算する |
| 海外企業の企業価値評価 | 現地通貨のキャッシュフローには現地通貨の資本コストを使うなど、通貨やインフレの前提をそろえる整合性に注意する |
| ネットワーク効果と高成長企業 | 利用者が増えるほど価値が高まるプラットフォーム企業の特徴を理解し、赤字が続く高成長企業の評価に応用する |
(9) 企業のリスク管理と運転資本管理
ポイント:企業がお金を切らさず、リスクをコントロールしながら価値を守る方法を学びます。短期の資金繰り、デリバティブによるヘッジ、全社的リスクマネジメント(ERM)、そしてリスク管理がなぜ企業価値を高めうるのかを押さえます。
| 学習ポイント | 学ぶ内容 |
|---|---|
| 短期の資金繰りと管理手法 | 銀行借入やCP(コマーシャル・ペーパー)などの短期資金調達と、手元資金や運転資本を管理する方法を理解する |
| リスク管理でのデリバティブ利用 | 為替予約や金利スワップなどを使って、為替・金利・商品価格の変動リスクを抑える方法を理解する |
| 全社的リスクマネジメント(ERM) | 部門ごとではなく会社全体でリスクを洗い出し、経営戦略と一体で管理する考え方を理解する |
| リスク管理と企業価値 | 完全市場ではヘッジは価値を生まないが、現実には財務困難のコストや税負担を減らすことなどを通じて企業価値を高めうることを理解する |
コーポレート・ファイナンスを学ぶときのコツ
1. 「企業価値が増えるか」という1本の軸で考える
投資判断・資本構成・ペイアウト・M&A・リスク管理は、どれも「その意思決定で企業価値が増えるのか」という同じ問いに答えるための論点です。個別の理論を覚えるときも、常にこの軸に戻って整理すると全体がつながります。
2. MM命題を出発点にして「現実の要因」を足していく
資本構成とペイアウト政策は、どちらも「完全市場なら企業価値に影響しない」というMMの命題から始まります。そこに税・倒産コスト・情報の非対称性・エージェンシー・コストを1つずつ加えると、なぜ現実には意味を持つのかが見えてきます。
3. DCFの計算は手順ごとに自分で組み立てる
(8)の企業価値評価は、FCFの予測、WACCやベータの調整、ターミナル・バリューと、手順を積み上げる計算が中心です。テキストの例題を電卓で最初から最後まで自分で組み立て、各数字の意味を記述式で説明できるようにしておきましょう。
証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、ここで紹介した学習ポイントを1つずつ動画で解説しています。テキストとあわせて活用してください。
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よくある質問
Q. 2次のコーポレート・ファイナンスは1次とどこが違いますか?
1次は株式会社のしくみやNPV、資本コストなどの基本が中心でした。2次ではそれらを深掘りしてAPV法やリアルオプション、最適資本構成などを学び、さらにペイアウト政策とM&A・企業再編という新しい大分類が加わります。
Q. どこから勉強すればいいですか?
(4)投資の意思決定と(5)資本コストと資本構成で、FCFと資本コストの考え方を固めてから、(8)企業価値評価に進むのがおすすめです。その土台があると、(6)ペイアウト政策や(7)M&Aの論点も企業価値の観点から理解しやすくなります。
Q. 計算問題はどのあたりから出ますか?
主に(4)のFCFやNPV・EVA、(5)の負債コストや資本構成、(8)のDCF法、ターミナル・バリュー、WACC法とAPV法、ベータの調整などです。テキストの例題を電卓で実際に解き、計算の手順と意味をあわせて説明できるよう練習しておきましょう。
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