マルチプル法(EV/EBITDA・PER)とは?意味と試験で問われるポイント|証券アナリスト2次・コーポレート・ファイナンス
ひとことで言うと
- マルチプル法は、類似企業のEV/EBITDA倍率やPERなどの「倍率(マルチプル)」を使って、評価対象の企業価値や株式価値を求める方法です。
- 倍率の大きさは、DCFの考え方から資本コストが低いほど、成長率が高いほど大きくなることが説明できます。
- ただし成長が価値を生むのは、資本利益率が資本コストを上回る場合に限られます。
この記事では、証券アナリスト2次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「マルチプル法とDCFファクター」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。
| 分野 | 2次 コーポレート・ファイナンスと企業分析/コーポレート・ファイナンス |
|---|---|
| 大分類 | (8) 企業価値評価 |
| 協会の学習ポイント | 企業価値評価におけるマルチプル法について理解する。代表的なマルチプルであるEV/EBITDAやPERとDCFファクター(資本コストと成長率)の関係について理解する。 |
マルチプル法(EV/EBITDA・PER)とは
マルチプル法は、事業内容や規模が似ている上場企業(類似企業)の市場評価を「倍率」の形で取り出し、評価対象の利益やキャッシュフローに掛けて価値を求める方法です。類似会社比較法とも呼ばれ、実務ではDCF法と並んで広く使われています。
代表的なマルチプル
EV/EBITDA倍率は、事業価値(EV:株式時価総額+純有利子負債など)を、利払前・税引前・償却前利益(EBITDA)で割ったものです。分子が株主と債権者の両方に帰属する価値なので、分母も両者に帰属する利益を使います。資本構成や減価償却の方法の違いの影響を受けにくいのが長所です。
PER(株価収益率)は、株価を1株当たり純利益(EPS)で割ったものです。分子が株主価値なので、分母も株主に帰属する純利益を使います。わかりやすい一方、負債の多さや特別損益の影響を受けやすい点に注意が必要です。
DCFファクターとの関係
マルチプルは「市場がつけた値段」ですが、その水準は理論的にはDCFの前提、つまり資本コスト(割引率)と成長率で説明できます。一定成長の割引モデルを倍率の形に書き直すと、資本コストが下がるほど、また成長率が上がるほど倍率は大きくなります。さらに、成長のために必要な再投資の大きさ(資本利益率)も倍率に影響します。
押さえておきたい公式
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| k | 株主資本コスト |
| WACC | 加重平均資本コスト |
| g | 永久成長率 |
| ROE・ROIC | 新規投資の資本利益率(株主資本・投下資本ベース) |
| NOPAT | 税引後営業利益 |
具体例で確認
例1:PERと資本コスト・成長率
株主資本コストk=8%、成長率g=3%、新規投資のROE=10%の企業を考えます。成長に必要な内部留保率はg÷ROE=30%なので、配当性向は70%です。
- 予想PER=0.70 ÷ (0.08 − 0.03)=14倍
- もし配当性向が40%しかない(再投資が多いのに成長が同じ3%)なら、0.40 ÷ 0.05=8倍にとどまります。
同じ成長率でも、少ない再投資で成長できる(資本利益率が高い)企業ほど倍率は高くなることがわかります。
例2:EV/EBITDA倍率
EBITDA=100、減価償却費=30、税率30%、WACC=7%、g=3%、ROIC=12%とします(数値は来期ベース)。
- EBIT=100 − 30=70、NOPAT=70 × (1 − 0.3)=49
- 再投資率=g ÷ ROIC=3% ÷ 12%=25% → FCF=49 × 0.75=36.75
- EV=36.75 ÷ (0.07 − 0.03)=918.75 → EV/EBITDA=約9.2倍
試験で問われやすいポイント
- 資本コストが下がると倍率は上がり、成長率が上がると倍率は上がる、という方向性が基本です(ただしROICが資本コストを上回る前提)。
- EV/EBITDAは分子・分母とも企業全体、PERは分子・分母とも株主に帰属する値、という対応関係の整合性が問われやすいです。
- 実績PERと予想PERで(1+g)の有無が変わる点は計算問題のひっかけになりやすいです。
- 記述式では、「なぜA社の倍率がB社より高いのか」を資本コスト・成長率・資本利益率で説明させる形が考えられます。
- 類似企業の選び方や、会計方針・一時的損益の調整といったマルチプル法の留意点も押さえておきましょう。
要点まとめ
- マルチプル法=類似企業の倍率を評価対象の指標に掛けて価値を求める方法
- 予想PER=配当性向÷(k−g)、EV/EBITDA=(FCF÷EBITDA)÷(WACC−g)
- 資本コストが低く、成長率が高いほど倍率は大きくなる
- 成長の質(再投資効率=資本利益率)も倍率を左右する
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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。
