ひとことで言うと

  • 被買収企業の価値は、DCF法・マルチプル法(類似会社・類似取引)・市場株価法などを組み合わせて評価します。
  • 買収企業が支払ってよい上限は、対象会社の単独価値+シナジーの価値−統合コストです。これを超えて払えば買収企業の株主価値は減ります。

この記事では、証券アナリスト2次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「被買収企業の価値評価」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 コーポレート・ファイナンスと企業分析/コーポレート・ファイナンス
大分類 (7) M&Aと企業再編
協会の学習ポイント 被買収企業の買収価値評価手法について理解する。

被買収企業の買収価値評価とは

M&Aでは、「対象会社はいくらの価値があり、いくらまでなら払ってよいか」を見極めることが最も重要です。評価の結果は、買収価格の交渉の出発点になり、買収後に払いすぎていなかったかを確かめる基準にもなります。

価値を3つの層に分けて考える

対象会社の価値は、①現在の市場価値(時価総額)、②現在の経営のまま続けた場合の単独価値(スタンドアローン価値)、③買収企業と組むことで上乗せされるシナジーの価値、の層に分けて考えると整理しやすくなります。買収価格が市場価値を上回る部分が買収プレミアムで、買収企業にとって価値が生まれるのはシナジー(から統合コストを引いたもの)がプレミアムを上回るときだけです。

DCF法

対象会社の将来のフリー・キャッシュフロー(FCF)を予測し、対象会社の事業リスクに見合った資本コスト(WACC)で割り引いて事業価値を求め、有利子負債などを差し引いて株主価値を求めます。単独価値とシナジーを分けて評価すると、どれだけの価値が統合から生まれるのかが明確になります。割引率には買収企業ではなく対象事業のリスクを反映させる点が重要です。

マルチプル法と市場株価法

類似会社比較法は、同業の上場企業のEV/EBITDAやPERなどの倍率を対象会社に当てはめる方法です。類似取引比較法は、過去の同種のM&Aで実際に支払われた倍率を使う方法で、支配権の獲得に対するプレミアムが含まれる点が特徴です。上場会社であれば市場株価法で一定期間の平均株価を確認し、プレミアムの水準を判断します。このほか、資産の時価を積み上げる純資産法が、資産の多い会社や清算価値の確認に使われます。

押さえておきたい公式

買収企業にとってのNPV = (対象会社の単独価値 + シナジーの価値 − 統合コスト) − 買収価格
買収プレミアム = 買収価格 − 対象会社の市場価値NPV > 0 となるのは、シナジー − 統合コスト > 買収プレミアム(単独価値=市場価値の場合)のとき
株主価値 = 事業価値 + 非事業資産 − 有利子負債などマルチプル法でEV/EBITDAを使う場合も、最後に純有利子負債を差し引いて株主価値に直す

具体例で確認

対象会社B社の時価総額は900、DCF法による単独の株主価値は1,000です。買収後のシナジーの現在価値は300、統合コストは50と見込まれます。B社のEBITDAは150、純有利子負債は300です。

  1. 支払ってよい上限:1,000 + 300 − 50 = 1,250
  2. 1,150で買収した場合の買収企業のNPV:1,250 − 1,150 = 100
  3. B社株主が受け取るプレミアム:1,150 − 900 = 250(市場価値の約27.8%)
  4. 類似会社のEV/EBITDA 8倍で確認:事業価値150 × 8 = 1,200、株主価値1,200 − 300 = 900(市場価値とおおむね一致)
  5. 類似取引のEV/EBITDA 9.5倍で確認:150 × 9.5 − 300 = 1,125(支配権プレミアムを含む水準)

買収価格1,150は類似取引の水準に近く、上限1,250の範囲内に収まっています。ただしシナジーが見込みの半分(150)にとどまれば上限は1,100となり、1,150での買収は買収企業の株主価値を50損なうことになります。

試験で問われやすいポイント

  • 支払ってよい上限(単独価値+シナジー−統合コスト)と、買収企業にとってのNPVを計算させる問題に注意しましょう。
  • 類似会社比較法と類似取引比較法の違い(後者は支配権プレミアムを含む)が問われやすいです。
  • DCFの割引率は対象事業のリスクに見合ったものを使う、という点がひっかけになりやすいです。
  • EV倍率から株主価値に直すときに純有利子負債を差し引く手順を忘れないようにしましょう。
  • 記述式では、複数の手法を併用する理由や、シナジーの見積もりが楽観的になりやすい点を説明できるようにしましょう。

要点まとめ

  • 対象会社の価値は、市場価値・単独価値・シナジーの層で整理する
  • 支払上限は単独価値+シナジー−統合コストで、これを超えると買収企業の株主価値が減る
  • DCF法を中心に、類似会社・類似取引の倍率や市場株価で妥当性を確かめる
  • シナジーの見積もりの不確実性を考え、感応度を確認することが大切

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