ひとことで言うと

  • 全社的リスクマネジメント(ERM:Enterprise Risk Management)は、部門ごとにばらばらに管理していたリスクを会社全体で統合的に把握し、経営戦略と一体で管理する考え方です。
  • リスクを避けるだけでなく、どこまでリスクを取って収益を狙うか(リスク選好)を決め、資本や経営資源を配分する点に特徴があります。

この記事では、証券アナリスト2次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「全社的リスクマネジメント(ERM)」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 コーポレート・ファイナンスと企業分析/コーポレート・ファイナンス
大分類 (9) 企業のリスク管理と運転資本管理
協会の学習ポイント 全社的リスクマネジメント(ERM)について理解する。

全社的リスクマネジメント(ERM)とは

従来のリスク管理は、財務部が為替や金利、営業部が取引先の信用、工場が事故や品質といったように、部門ごとに個別に行われることが多くありました。この方法では、部門をまたぐリスクの重なりや相殺が見えにくく、会社全体としてどれだけのリスクを抱えているのかがわかりません。

ERMは、市場リスク、信用リスク、オペレーショナル・リスク、戦略リスク、災害やサイバー攻撃などのリスクを横断的に洗い出し、同じ物差しで評価して、全社で優先順位をつけて対応する仕組みです。取締役会や経営陣が関与し、経営戦略の立案と結び付けて運用される点が重要です。米国のCOSOが公表したERMのフレームワークなどが、考え方の土台として広く参照されています。

ERMの基本的な流れ

まず、会社として許容できるリスクの量や種類(リスク選好・リスク許容度)を決めます。次に、リスクを特定し、発生可能性と影響の大きさで評価します。そのうえで、回避・低減・移転・受容のいずれで対応するかを決め、モニタリングと報告を繰り返します。デリバティブや保険は、主に「移転」の手段として位置付けられます。

企業価値との関係

ERMのねらいは、単にリスクを減らすことではありません。会社全体のリスクを把握することで、自社が強みを持ち、取る価値のあるリスクには積極的に資本を振り向け、取る必要のないリスクは外部に移転する、というメリハリのある経営判断が可能になります。これにより、財務困難に陥る可能性を抑えながら、成長投資を続けやすくなります。

整理しておきたいポイント

観点 従来型(サイロ型) ERM
管理の単位 部門・リスクの種類ごと 会社全体で統合
目的 損失の回避が中心 リスクとリターンのバランス、戦略との一体化
リスク間の関係 重なりや相殺が見えにくい 相関や集中を考慮して把握
主な担い手 各部門 取締役会・経営陣が関与

具体例で確認

ある製造業では、財務部が為替リスクを、調達部が原材料価格リスクを別々に管理していました。ERMで全社を見直したところ、海外調達の拡大により、円安になると原材料コストが上がる一方で、海外売上の円換算額も増え、両者が一部相殺し合っていることがわかりました。そこで、個別に全額をヘッジするのをやめ、相殺後に残る純額のリスクだけをヘッジすることにし、ヘッジコストを減らしました。

さらに、リスク選好に照らして、主力事業の新興国展開というリスクは積極的に取る一方、本業と関係の薄い資産運用のリスクは縮小する、という資源配分の見直しも行いました。

試験で問われやすいポイント

  • ERMは部門横断・全社統合でリスクを管理し、経営戦略と一体で運用するという定義が中心です。
  • リスクへの対応策(回避・低減・移転・受容)の区別と具体例が問われやすいです。
  • リスク選好(どのリスクをどこまで取るか)を定める意義を押さえましょう。
  • 記述式では、サイロ型の管理との違いや、ERMが企業価値の向上につながる理由を説明させる形が考えられます。
  • リスクを全て減らすことが目的ではない、という点がひっかけになりやすいので注意しましょう。

要点まとめ

  • ERM=会社全体のリスクを統合的に把握し、戦略と一体で管理する仕組み
  • リスク選好を定め、回避・低減・移転・受容を使い分ける
  • リスク間の相殺や集中を把握し、純額で対応できる
  • 目的はリスクの削減だけでなく、リスクとリターンのバランスによる企業価値の向上

証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、学習ポイントに沿って論点を1つずつ解説しています。

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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。