ひとことで言うと

  • M&Aで買収企業のEPSが増えるか(増加=アクリーティブ)、減るか(希薄化=ダイリューティブ)は、支払う価格と資金調達の方法で決まります。
  • 株式交換なら「買収企業のPER」と「実際に支払うPER」の比較、現金買収なら「対象会社の益回り」と「税引後の調達コスト」の比較がカギです。
  • EPSが増えても企業価値が増えるとは限りません。のれんや負債の増加が財務指標に与える影響もあわせて確認します。

この記事では、証券アナリスト2次「コーポレート・ファイナンス」の学習ポイントのひとつ「株価・財務指標への影響」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 コーポレート・ファイナンスと企業分析/コーポレート・ファイナンス
大分類 (7) M&Aと企業再編
協会の学習ポイント M&Aが株価や財務指標に与える影響について理解する。

M&AのEPS増加・希薄化とは

M&Aを発表すると、市場はまず「買収後に1株当たり利益(EPS)がどう変わるか」に注目します。買収後のEPSが買収前より高くなることをEPSの増加(アクリーティブ)、低くなることをEPSの希薄化(ダイリューティブ)といいます。

株式交換で買収する場合

対価として自社株を発行する場合、統合後の利益は2社の合計になりますが、発行済株式数も増えます。対象会社に支払う価格のPER(買収価格÷対象会社の利益)が、買収企業自身のPERより低ければEPSは増加し、高ければ希薄化します。高PERの会社が低PERの会社を株式で買うとEPSが上がりやすいのはこのためです。

現金で買収する場合

借入などの現金で買収する場合は株式数が増えない代わりに、支払利息(または手元資金の運用収益の減少)が生じます。対象会社の益回り(利益÷買収価格)が税引後の調達コストを上回ればEPSは増加します。低金利の環境では、現金買収はEPSを押し上げやすくなります。

EPSの増加は価値創造とは別物

EPSが増えるだけで株価が上がるとは限りません。高PER企業が低PER企業を株式交換で買うと、シナジーがなくてもEPSは上がりますが、統合後の会社は成長性やリスクが混ざるため、市場が付けるPERは下がるのが自然です。このように、見かけのEPS成長を演出する効果はブートストラップ効果と呼ばれます。株主価値が増えるかどうかは、あくまでシナジーの価値が買収プレミアムを上回るかで判断します。

のれんと負債の影響

買収価格が対象会社の時価ベースの純資産を上回る部分はのれんとして計上されます。日本基準ではのれんを20年以内の期間で償却するため利益を押し下げ、IFRSでは償却せず減損テストを行います。どちらでも、業績が計画を下回れば減損損失のリスクがあります。また、借入で買収すれば負債比率が上がり、インタレスト・カバレッジ・レシオの低下や格付けへの影響も考慮が必要です。のれんで総資産が膨らむため、ROAやROEが低下することもあります。

押さえておきたい公式

統合後EPS = (買収企業の純利益 + 対象会社の純利益 + シナジー) ÷ (既存株式数 + 新規発行株式数)株式交換のケース
新規発行株式数 = 買収総額 ÷ 買収企業の株価交換比率 = 対象会社1株当たり買収価格 ÷ 買収企業の株価
統合後EPS = (両社の純利益合計 − 支払利息 × (1 − 税率)) ÷ 既存株式数現金(借入)買収のケース
判定の目安 EPSが増加する条件
株式交換 支払うPER(買収価格÷対象会社の利益)< 買収企業のPER
現金買収 対象会社の益回り(利益÷買収価格)> 税引後の調達コスト

具体例で確認

A社(純利益1,000、株式数100、株価200、PER20倍、EPS10)が、B社(純利益300、株式数50、株価90)を1株108(20%のプレミアム)で買収します。シナジーはゼロとします。

株式交換の場合

  1. 買収総額:108 × 50 = 5,400
  2. 新規発行株式数:5,400 ÷ 200 = 27
  3. 統合後EPS:(1,000 + 300) ÷ (100 + 27) ≒ 10.24(EPS増加)

支払うPERは108÷6=18倍で、A社のPER20倍より低いため増加します。1株120(PER20倍)で買えば新株は30株、EPSは1,300÷130=10で変化なし、それより高く払えば希薄化します。

借入による現金買収の場合

5,400を金利3%で借り、税率30%とすると、税引後の支払利息は5,400×3%×0.7≒113.4です。統合後EPSは(1,300−113.4)÷100≒11.87に上がります。B社の益回り(6÷108≒5.6%)が税引後の調達コスト2.1%を大きく上回るためです。ただし負債は5,400増え、財務リスクは高まります。

試験で問われやすいポイント

  • 株式交換での統合後EPSの計算手順(買収総額→新株数→EPS)と、損益分岐となる買収価格を求める問題に注意しましょう。
  • 「PERの高い会社が低い会社を株式で買うとEPSは増える」という関係と、その逆のケースの判定が問われやすいです。
  • EPSの増加=株主価値の増加ではない(ブートストラップ効果)ことを、記述式で理由とともに説明できるようにしましょう。
  • 現金買収では、益回りと税引後の調達コストの比較になる点がひっかけになりやすいです。
  • のれんの会計処理(日本基準は償却、IFRSは非償却・減損)や、負債増加による財務指標の悪化も押さえておきましょう。

要点まとめ

  • 株式交換は「支払うPER<自社PER」ならEPS増加
  • 現金買収は「対象会社の益回り>税引後調達コスト」ならEPS増加
  • EPSの増加は価値創造の証拠ではなく、判断基準はシナジー>プレミアム
  • のれん・負債の増加がROE、ROA、カバレッジ、格付けに与える影響も確認する

証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、学習ポイントに沿って論点を1つずつ解説しています。

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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。