ひとことで言うと

  • AS曲線(総供給曲線)は、物価水準と、経済全体で企業が供給するGDPの関係を表す曲線です。
  • 賃金などがすぐには調整されない短期では、物価が上がると生産が増えるため右上がりになります。
  • 賃金や価格が十分に調整される長期では、GDPは完全雇用GDP(潜在GDP)で決まり、AS曲線は垂直になります。

この記事では、証券アナリスト1次「市場と経済の分析」の学習ポイントのひとつ「短期と長期のAS曲線」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 1次 科目Ⅲ/市場と経済の分析
大分類 (2) 国民所得と金利や物価との関係
協会の学習ポイント 短期のAS曲線と長期のAS曲線の考え方について説明できる。

AS曲線(総供給曲線)とは

AS曲線は、ある物価水準のもとで経済全体がどれだけの財・サービスを生産(供給)するかを示します。縦軸に物価水準P、横軸に実質GDP Yをとります。AD曲線(総需要)と組み合わせることで、物価とGDPが同時に決まるしくみを分析できます。

短期のAS曲線が右上がりになる理由

短期には、名目賃金が契約などで固定されている(硬直的である)と考えます。このとき物価が上がると、名目賃金は変わらないので実質賃金W/Pが下がり、企業にとって労働者を雇うコストが相対的に安くなります。企業は雇用を増やして生産を拡大するので、物価の上昇とともにGDPが増え、AS曲線は右上がりになります。このほか、価格改定にコストがかかる、企業や労働者が物価の変化を正しく認識できない、といった理由も挙げられます。

長期のAS曲線が垂直になる理由

長期には、名目賃金も物価に合わせて調整されます。物価が上がれば名目賃金も同じように上がり、実質賃金は元の水準に戻ります。そのため雇用量は労働市場の均衡(完全雇用)の水準に戻り、GDPは労働・資本・技術といった供給力で決まる完全雇用GDP(潜在GDP)に落ち着きます。物価がいくらでもGDPは変わらないので、長期のAS曲線は完全雇用GDPの位置で垂直になります。

政策への含意

短期には、総需要を増やす財政・金融政策でGDPを増やすことができます。しかし長期には、AD曲線を右にシフトさせても物価が上がるだけで、GDPは完全雇用GDPから変わりません。長期的にGDPを増やすには、労働力や資本の増加、技術進歩などで長期AS曲線そのものを右にシフトさせる必要があります。

整理しておきたいポイント

項目 短期AS曲線 長期AS曲線
右上がり 完全雇用GDPで垂直
名目賃金・価格 硬直的(すぐに調整されない) 伸縮的(十分に調整される)
物価上昇の影響 実質賃金低下→雇用・生産増 名目賃金も上昇し、実質賃金・雇用は不変
総需要増加の効果 GDP増加+物価上昇 物価上昇のみ(GDPは不変)
シフト要因 名目賃金・原材料価格・期待物価など 労働力・資本ストック・技術進歩など

具体例で確認

名目賃金が時給2,000円で1年間固定されている経済を考えます。物価が5%上がると、実質賃金は2,000÷1.05≒1,905円相当に下がります。企業にとっては、製品を高く売れる一方で人件費は据え置きなので、パートを増やして生産を増やします。これが短期AS曲線上で右上に移動する動きです。

しかし翌年の賃金交渉で名目賃金が5%引き上げられて2,100円になると、実質賃金は元の2,000円相当に戻ります。企業が追加で雇う理由はなくなり、雇用と生産は元の完全雇用の水準に戻ります。最終的には「物価は5%高いが、GDPは元のまま」という状態になり、これが長期AS曲線が垂直であることの意味です。

試験で問われやすいポイント

  • 短期AS曲線が右上がりになる理由として、名目賃金の硬直性→物価上昇で実質賃金が低下という説明が問われやすいです。
  • 長期AS曲線は完全雇用GDP(潜在GDP)で垂直になる点を正確に押さえましょう。
  • 長期には総需要政策でGDPは増えず物価だけが上がるという結論が、正誤問題の定番です。
  • 短期ASのシフト要因(原材料価格・名目賃金)と長期ASのシフト要因(技術進歩・労働力・資本)の区別に注意しましょう。
  • 物価の変化は曲線上の移動であり、AS曲線のシフトではない点もひっかけになりやすいです。

要点まとめ

  • 短期AS:名目賃金が硬直的なため右上がり
  • 長期AS:賃金・価格が調整され、完全雇用GDPで垂直
  • 長期には総需要の増加は物価上昇だけをもたらす
  • 長期のGDP拡大には供給力(労働・資本・技術)の向上が必要

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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。