財政支出乗数とは?意味と試験で問われるポイント|証券アナリスト1次・市場と経済の分析
ひとことで言うと
- 財政支出乗数とは、政府支出を1単位増やしたときにGDPが何倍増えるかを表す値で、基本形は1 ÷ (1 − 限界消費性向)です。
- 支出が所得を生み、その所得の一部が消費に回って、さらに所得を生むという連鎖が乗数効果の正体です。
- ただし、金利上昇で民間投資が減るクラウディング・アウトや、財政赤字の累積などの限界があります。
この記事では、証券アナリスト1次「市場と経済の分析」の学習ポイントのひとつ「財政政策の効果・限界と乗数」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。
| 分野 | 1次 科目Ⅲ/市場と経済の分析 |
|---|---|
| 大分類 | (6) 金融政策と財政政策 |
| 協会の学習ポイント | 財政政策の効果や限界について説明できる。また、財政支出乗数の計算ができる。 |
財政支出乗数とは
政府が公共投資を10兆円増やすと、まず建設会社などの売上げ=所得が10兆円増えます。所得が増えた人はその一部を消費に回すため、別の企業の所得が増え、さらにその一部が消費される……という連鎖が続きます。所得が増えたときに消費に回す割合を限界消費性向(c)といい、cが0.8なら、GDPの増加は10+8+6.4+…と続き、合計で10 ÷ (1 − 0.8)=50兆円になります。この倍率(ここでは5倍)が財政支出乗数です。
減税の乗数は政府支出より小さい
減税は可処分所得を増やしますが、増えた所得のうち最初に消費に回るのはc倍だけで、残りは貯蓄されます。そのため租税乗数は −c ÷ (1 − c)となり、絶対値で政府支出乗数より1だけ小さくなります。同額の政府支出と増税を同時に行うと、GDPは支出額と同じだけ増える(乗数=1)という結果を均衡予算乗数の定理といいます。
乗数を小さくする要因
所得に比例して税がかかる(税率t)と、所得増の一部が税に取られるため乗数は小さくなります。開放経済では所得増の一部が輸入に漏れる(限界輸入性向m)ため、やはり乗数は小さくなります。
財政政策の限界
IS-LM分析では、政府支出の増加でIS曲線が右にシフトすると、所得増加に伴う貨幣需要の増加で金利が上昇し、民間投資の一部が押しのけられます。これがクラウディング・アウトで、単純な乗数ほどGDPは増えません。流動性のわなの状況では金利が上がらないため、財政政策は十分に効果を発揮します。ほかに、国債発行の累積による財政の持続可能性の問題、将来の増税を見越して家計が貯蓄を増やすため効果が相殺されるというリカードの等価定理、予算成立までの内部ラグの長さなども限界として挙げられます。
押さえておきたい公式
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| ΔY | GDP(国民所得)の変化 |
| ΔG | 政府支出の変化 |
| ΔT | 定額税の変化 |
| c | 限界消費性向(1 − c は限界貯蓄性向) |
| t | 所得に対する税率 |
| m | 限界輸入性向 |
具体例で確認
限界消費性向c=0.8の経済で、政府が10兆円の対策を検討しています。
- 政府支出を10兆円増やす:乗数=1 ÷ (1 − 0.8)=5、GDPは 50兆円 増加
- 10兆円の減税を行う:乗数=0.8 ÷ 0.2=4、GDPは 40兆円 増加
- 政府支出10兆円を同額の増税でまかなう:50 − 40=10兆円 増加(均衡予算乗数=1)
- 税率t=0.25の比例税がある場合:乗数=1 ÷ {1 − 0.8 × 0.75}=1 ÷ 0.4=2.5、GDPは 25兆円 増加
- 限界輸入性向m=0.1を考える場合:乗数=1 ÷ (1 − 0.8 + 0.1)≒3.33、GDPは 約33.3兆円 増加
税や輸入という「漏れ」が加わるほど、乗数が小さくなることがわかります。
試験で問われやすいポイント
- 限界消費性向から政府支出乗数・租税乗数を計算させる問題が典型です。分母が限界貯蓄性向(1 − c)である点を確認しましょう。
- 減税の乗数は政府支出乗数より小さいこと、均衡予算乗数が1になることが問われやすいです。
- 比例税や輸入を入れた乗数の式で、tやmが入る位置を取り違えないよう注意しましょう。
- クラウディング・アウトは金利上昇→民間投資の減少という流れで起こり、LM曲線が急なほど大きく、流動性のわなでは起こらない点が狙われやすいです。
- リカードの等価定理は、国債で減税しても消費が増えないとする考え方として出題されやすいです。
要点まとめ
- 政府支出乗数=1 ÷ (1 − c)、租税乗数=−c ÷ (1 − c)
- 均衡予算乗数は1、税や輸入の漏れがあると乗数は小さくなる
- クラウディング・アウトにより実際の効果は単純な乗数より小さくなりうる
- 財政赤字の累積、リカードの等価定理、内部ラグの長さも限界となる
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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。
