ひとことで言うと

  • 財務諸表の数字は「唯一の正解」ではなく、見積り会計方針の選択によって変わります。
  • ブランド・人材・技術力など、自社で育てた価値の多くは貸借対照表に載りません。
  • 財務分析では、数字の背後にある前提を確かめ、他社比較の際には会計処理の違いを調整する意識が大切です。

この記事では、証券アナリスト1次・科目Ⅱ「財務分析」の学習ポイントのひとつ「会計情報の限界と留意点」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 1次 科目Ⅱ/財務分析
大分類 (1) 証券アナリストと財務分析
協会の学習ポイント 会計情報の限界など財務分析上での留意点を理解する。

会計情報の限界とは

財務諸表は企業の実態を知るための最も重要な資料ですが、万能ではありません。会計情報にはいくつかの構造的な限界があり、それを理解せずに数字をそのまま比べると、誤った結論を出してしまうおそれがあります。

見積りと判断が入り込む

減価償却の耐用年数や残存価額、貸倒引当金の設定額、退職給付債務の割引率、固定資産の減損の判定、繰延税金資産の回収可能性など、多くの項目は経営者の見積りにもとづいています。見積りが変われば利益も変わります。

会計方針の選択肢がある

同じ取引でも、認められた複数の方法から選べる場合があります。たとえば減価償却方法(定額法・定率法など)や棚卸資産の評価方法(先入先出法・平均法など)です。選んだ方法によって、各期の利益や資産の金額が異なります。

取得原価と時価のずれ

土地などの資産は原則として取得原価で計上されるため、何十年も前に買った土地は、現在の時価と大きくかけ離れていることがあります。貸借対照表の純資産が、必ずしも企業の「本当の価値」を示すわけではありません。

数字に表れない価値

自社で築いたブランド、顧客基盤、従業員のノウハウ、研究開発の成果など(いわゆる自己創設のれんや無形の資源)は、原則として資産に計上されません。日本基準では研究開発費は発生時に費用処理されるため、研究開発に積極的な企業ほど、資産が小さく、当期の利益も低めに見えることがあります。

過去の情報であり、利益調整の余地もある

財務諸表は過去の実績であり、将来をそのまま示すものではありません。また、見積りや取引のタイミングを通じて利益を意図的に動かす「利益調整」が行われる可能性もあります。キャッシュ・フロー計算書や注記と照らし合わせることが大切です。

整理しておきたいポイント

限界 具体例 分析上の対応
見積りの介在 耐用年数、引当金、減損、繰延税金資産 注記で前提を確認し、変更の影響を把握する
会計方針の選択 減価償却方法、棚卸資産の評価方法 他社比較では方針の違いを調整する
取得原価主義 含み益・含み損のある土地 時価情報の注記などを参照する
オフバランスの価値 ブランド、人材、自社開発技術 非財務情報と組み合わせて評価する
過去情報・利益調整 期末の押し込み販売、見積りの変更 営業CFとの乖離や趨勢をチェックする

具体例で確認

A社とB社が、同じ日に同じ機械を1,000万円で購入したとします。耐用年数は5年、残存価額はゼロとします。

  • A社(定額法):1年目の減価償却費は1,000万円 ÷ 5年 = 200万円です。
  • B社(200%定率法、償却率0.4):1年目の減価償却費は1,000万円 × 0.4 = 400万円です。

他の条件がまったく同じでも、1年目の営業利益はB社のほうが200万円少なくなります。機械の使い方や経済的な実態は同じなのに、会計方針の違いだけで利益に差が出るのです。5年間の減価償却費の合計はどちらも1,000万円なので、差は「どの期に費用を計上するか」というタイミングの違いです。財務分析で2社を比べるときは、このような方針の違いを意識する必要があります。

動画で解説

この論点は、証券アナリストアカデミーのYouTubeで解説しています。テキストとあわせて確認してください(動画「会計情報の限界など財務分析上での留意点を理解する」)。

試験で問われやすいポイント

  • 見積りや会計方針の選択で利益が変わること、ただし多くは期間配分(タイミング)の違いであること。
  • 自己創設のれん・ブランド・人的資本が原則としてオンバランスされない点。
  • 日本基準では研究開発費が発生時に費用処理される点と、その分析上の影響。
  • 取得原価で計上された資産の簿価と時価の乖離(含み益・含み損)。
  • 他社比較や時系列比較で、会計方針の変更・違いを調整する必要性。

要点まとめ

  • 財務諸表の数字には見積りと判断が入り込んでいる。
  • 会計方針の選択によって各期の利益や資産額が変わる。
  • 取得原価主義のため、簿価と時価がずれることがある。
  • ブランドや人材などの価値は数字に表れにくいので、非財務情報も併用する。

証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、学習ポイントに沿って論点を1つずつ解説しています。

▶ 証券アナリストコミュニティーに参加する

※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。