Learning Module 12「Introduction to Financial Statement Modeling(財務諸表モデリング入門)」は、売上ベースのプロ・フォーマ財務モデルの構築、アナリストの予測に影響する行動バイアスとその対策、ポーターのファイブフォースに基づく競争上の地位が価格とコストに与える影響、インフレ・デフレ下の売上とコストの予測、明示的な予測期間の選び方と短期予測期間を超えた予測の考え方を扱う単元です。

本記事では、最新版カリキュラムのLOS(Learning Outcome Statement)と、この単元の重要論点を日本語で整理しました。

LM12のLOS(学習目標)

LOSは、この単元で「できるようになるべきこと」として示されている学習目標です。LM12には5つのLOSがあります。

  1. LOS 1:売上高をベースとしたプロ・フォーマの企業モデルの構築を示すdemonstrate the development of a sales-based pro forma company model
  2. LOS 2:行動要因がアナリストの予測にどう影響するかを説明し、アナリストのバイアスへの対策を提案するexplain how behavioral factors affect analyst forecasts and recommend remedial actions for analyst biases
  3. LOS 3:ポーターのファイブフォース分析に基づく企業の競争上の地位が、価格とコストにどう影響するかを説明するexplain how the competitive position of a company based on a Porter’s five forces analysis affects prices and costs
  4. LOS 4:価格のインフレやデフレの影響を受ける場合に、業界と企業の売上高とコストをどう予測するかを説明するexplain how to forecast industry and company sales and costs when they are subject to price inflation or deflation
  5. LOS 5:明示的な予測期間の選択における考慮事項と、短期の予測期間を超えた予測を行う際のアナリストの選択を説明するexplain considerations in the choice of an explicit forecast horizon and an analyst’s choices in developing projections beyond the short-term forecast horizon

LM12のまとめ

この単元の要点をまとめると、次のとおりです。

  • 財務諸表モデルは多くの評価モデルの出発点であり、評価はフリー・キャッシュフロー、EPS、EBITDA、EBITなどさまざまな指標に基づいて行える
  • 利益剰余金のように損益計算書から直接つながる貸借対照表項目もあれば、売掛金・買掛金・棚卸資産のように損益計算書の予測と密接に結びつく項目もある
  • 運転資本項目は、在庫日数・売上債権回転日数・仕入債務回転日数などの比率を予測し、売上高・売上原価の予測と組み合わせてモデル化する
  • アナリストの予測に影響する主な行動バイアスは、過信、コントロールの錯覚、保守性、代表性、確証バイアスの5つ
  • 競争要因は、仕入先との価格交渉力や製品・サービスの値上げ余地に影響する。ポーターのファイブフォース(代替品の脅威、競合企業間の敵対関係、供給業者の交渉力、買い手の交渉力、新規参入の脅威)がその分析の枠組みとなる
  • ROIC(投下資本利益率)は税引後営業利益を営業資産と営業負債の差で割った税引後の収益性指標で、高く持続的なROICは競争優位と結びつくことが多い
  • インフレ・デフレは将来の売上・利益・キャッシュフローの予測精度に大きく影響する。投入コストが上昇する場合、企業は価格転嫁で利益率を守るか、利益率の低下を受け入れて市場シェアを取りに行くかを選ぶ
  • 予測期間の選択は、投資戦略、業界の景気循環性、企業固有の要因、アナリストの所属組織の方針などに左右される。正規化利益は一時的要因がない場合のサイクル中間の利益水準で、経済の混乱・規制・技術による変曲点の予測は最大の課題の一つ

以下、LOSごとに重要論点を整理します。

LOS 1:売上ベースのプロ・フォーマ・モデル

売上ベースのモデルは、売上高の予測を起点に損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書を連動させて予測するものです。費用は売上高に対する比率や固定費として、運転資本は回転日数などの比率として予測します。

  • 売上高予測:GDP成長率との関係、市場シェア、価格×数量など
  • 売上原価:売上総利益率を予測して算出
  • 販管費:固定費と変動費に分けて考える
  • 運転資本:在庫日数・売上債権回転日数・仕入債務回転日数と売上高・売上原価から算出
  • 設備投資と減価償却費、資金調達(負債・株式・配当)
  • 利益剰余金は損益計算書の純利益と配当から直接つながる
売掛金の予測 = 予測売上高 × 売上債権回転日数 ÷ 365

LOS 2:予測に影響する行動バイアスと対策

アナリストの予測は、過信・コントロールの錯覚・保守性・代表性・確証バイアスの影響を受けやすいとされます。バイアスを自覚し、予測の検証や反対意見の検討などの仕組みで抑えることが重要です。

  • 過信:予測の正確さを過大評価し、範囲を狭く見積もる → 予測の実績を記録・検証し、シナリオの幅を持たせる
  • コントロールの錯覚:制御できないことを制御できると考え、情報を集めすぎる → 重要な要因に絞ったモデルにする
  • 保守性:新しい情報を反映するのが遅れる → 新情報に応じて見直す規律を持つ
  • 代表性:類似性に頼って判断し、基準率を無視する → 基準率(ベース・レート)を踏まえる
  • 確証バイアス:自分の見解を支持する情報ばかり集める → 反対意見を積極的に探す、他者の意見を求める

LOS 3:ファイブフォースと価格・コスト

ポーターのファイブフォースは、業界の競争環境が企業の価格決定力と仕入コストにどう影響するかを分析する枠組みです。競争上の地位が強い企業ほど値上げや仕入価格の交渉が有利になり、高く持続的なROICにつながりやすくなります。

  • 代替品の脅威:強いと価格を上げにくい
  • 競合企業間の敵対関係:激しいと価格競争になりやすい
  • 供給業者の交渉力:強いと投入コストが上がる
  • 買い手の交渉力:強いと販売価格が抑えられる
  • 新規参入の脅威:参入障壁が低いと超過利益が長続きしない
  • ROIC = 税引後営業利益(NOPLAT)÷(営業資産 − 営業負債)
ROIC = NOPLAT ÷ (営業資産 − 営業負債)

LOS 4:インフレ・デフレ下の売上とコストの予測

インフレ・デフレのもとでは、価格と数量を分けて売上とコストを予測することが重要です。投入コストの上昇を価格に転嫁できるかどうかは、製品の価格弾力性や競争上の地位によって決まります。

  • 売上 = 数量 × 価格:数量と価格の変化を分けて予測
  • 価格弾力性が高い製品は値上げで数量が大きく減る
  • 国ごと・製品カテゴリーごとにインフレ率の違いを反映
  • 価格転嫁して利益率を維持するか、利益率を犠牲にしてシェアを取るかの選択
  • 業界全体の売上は、名目成長率と実質(数量)成長率を区別して予測

LOS 5:予測期間の選択と長期の予測

明示的な予測期間は、投資戦略、業界の景気循環性、企業固有の要因、所属組織の方針などを踏まえて選びます。明示的な予測期間を超える部分では、正規化利益や長期成長率を前提に置き、変曲点の可能性を検討します。

  • 投資期間が長い戦略ほど長い予測期間が必要
  • 景気循環的な業界では少なくとも1サイクルをカバー
  • 企業固有の要因:買収・再編などの影響が落ち着くまでの期間
  • 正規化利益:一時的要因を除いたサイクル中間の利益水準
  • 長期予測:平均回帰や業界の成熟を前提に成長率を設定
  • 変曲点:経済の混乱・規制・技術の変化で将来が過去と大きく異なる局面

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