ひとことで言うと

  • IFRS(IAS第19号)では、数理計算上の差異などの再測定をその他の包括利益に計上し、その後損益へ振り替えません(ノンリサイクリング)。
  • 日本基準はOCIに計上した後、一定年数で損益へ振り替えます(リサイクリング)。
  • このほか、過去勤務費用の即時費用化、期待運用収益ではなく純利息を使う点などが違います。

この記事では、証券アナリスト2次「財務分析」の学習ポイントのひとつ「労務費用の基準差」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 コーポレート・ファイナンスと企業分析/財務分析
大分類 (6) 労務費用の会計
協会の学習ポイント 労務費用の会計について、日本基準とIFRSの相違点を理解する。

労務費用の基準差とは

労務費用のうち、日本基準とIFRSの違いがとくに大きいのが確定給付型の退職給付です。貸借対照表では、日本基準の連結でもIFRSでも、退職給付債務から年金資産を差し引いた積立不足(または積立超過)の全額を負債(または資産)として計上する点は同じです。違いが出るのは、主に損益計算書に何をいつ計上するかです。

数理計算上の差異:リサイクリングの有無

日本基準では、数理計算上の差異は連結上いったんその他の包括利益に計上し、平均残存勤務期間以内の一定年数で損益に振り替えます。IFRSでは、数理計算上の差異や、年金資産の実際の収益と利息収益の差などを再測定としてその他の包括利益に計上し、その後損益には振り替えません。つまりIFRSでは、これらが純利益に表れることはありません。

過去勤務費用:即時認識

日本基準では過去勤務費用も一定年数で費用処理しますが、IFRSでは制度改定が行われた期に全額を損益に計上します。

利息と運用収益:純利息アプローチ

日本基準では、退職給付費用に利息費用(退職給付債務×割引率)を加え、期待運用収益(年金資産×長期期待運用収益率)を差し引きます。IFRSでは、純確定給付負債(債務−資産)に割引率を掛けた純利息だけを損益に計上します。期待運用収益率が割引率より高い場合、日本基準のほうが費用が小さくなります。

その他

日本基準の個別財務諸表では未認識項目がオフバランスのままです。また、IFRSでは翌期以降に繰り越せる未消化の有給休暇(累積型有給休暇)について負債を計上しますが、日本基準では一般に計上されていません。

整理しておきたいポイント

論点 日本基準 IFRS(IAS第19号)
数理計算上の差異 OCIに計上後、一定年数で損益へ振替え 再測定としてOCI、損益へ振り替えない
過去勤務費用 一定年数で費用処理 発生時に全額を損益
運用収益 期待運用収益率で計算 割引率による純利息
個別財務諸表 未認識項目はオフバランス (連結と同じ考え方)
累積型有給休暇 一般に負債計上しない 負債計上する

具体例で確認

退職給付債務10,000、年金資産8,000、割引率1%、長期期待運用収益率3%の会社を考えます(勤務費用は両基準で同じとして省略)。

  • 日本基準:利息費用10,000×1%=100、期待運用収益8,000×3%=240。差し引き−140(費用を減らす方向)です。
  • IFRS:純利息(10,000−8,000)×1%=20の費用です。

この部分だけで、IFRSのほうが費用が160大きくなります。さらに、制度改定で過去勤務費用500が生じた年は、日本基準(10年で処理)なら費用は50ですが、IFRSでは500が一度に費用になります。一方、割引率の変動による数理計算上の差異は、IFRSでは純利益に影響しません。

試験で問われやすいポイント

  • IFRSでは再測定をOCIに計上し、リサイクリングしない点が最重要の相違点です。
  • 過去勤務費用は日本基準が遅延認識、IFRSが即時に損益、という違いを押さえましょう。
  • 期待運用収益と純利息の違いによる費用の大小を計算させる問題に注意しましょう。
  • 貸借対照表の負債(積立状況)は連結ではどちらも全額計上である点も混同しやすいです。
  • 2次の記述式では、基準の違いが純利益・包括利益の変動性に与える影響を説明させる形も考えられます。

要点まとめ

  • IFRSは再測定をOCIに計上し、損益に振り替えない。
  • IFRSは過去勤務費用を発生時に全額損益に計上する。
  • IFRSは期待運用収益ではなく割引率による純利息を使う。
  • 連結の貸借対照表では、両基準とも積立不足の全額を負債計上する。

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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。