ひとことで言うと

  • アセット・リターンの予測とは、株式・債券・現金などの資産クラスごとの期待リターンを、経済変数やバリュエーション指標を使って見積もることです。
  • 基本は、リターンをインカム・成長・評価の変化などの部品に分けて積み上げるビルディング・ブロックの考え方と、配当利回りなどで将来リターンを説明する予測回帰です。
  • 資産クラスごとに効く変数が違い、特に短期のリターン予測は精度が低いという限界があります。

この記事では、証券アナリスト2次「市場と経済の分析」の学習ポイントのひとつ「アセット・リターンの予測」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 市場と経済の分析/経済
大分類 (10) 市場の分析・予測と経済的要因
協会の学習ポイント 計量経済モデルに基づき、個別の資産クラスの特徴を踏まえたアセット・リターンの予測ができる。

アセット・リターンの予測とは

年金基金などの資産配分(アセット・アロケーション)を決めるには、各資産クラスの期待リターンの見通しが欠かせません。過去の平均リターンをそのまま使うと、たまたま好調だった時期の影響を受けたり、現在の金利水準や株価の割高・割安を無視したりしてしまいます。そこで、現在の経済環境と資産クラスの特徴を踏まえて、将来のリターンを組み立てる方法が使われます。

現金・短期金利

短期金融資産のリターンは、ほぼ政策金利の見通しで決まります。インフレ率やGDPギャップから政策金利を考えるテイラー・ルールなどが手がかりになります。

債券

満期まで保有する国債なら、期待リターンのよい出発点は現在の利回り(最終利回り)です。そこに、金利が変化したときの価格変動(デュレーション×利回り変化)や、社債なら信用スプレッドと予想デフォルト損失を加減します。長期金利そのものは、期待インフレ率・実質成長率・タームプレミアムに分けて考えます。

株式

定率成長モデルを変形すると、株式の期待リターンは配当利回り+配当成長率になります。長期の成長率は名目GDP成長率(実質成長率+インフレ率)を目安にし、さらにPERなどのバリュエーションが平均へ戻る効果を加味します。株式の期待リターンから国債利回りを引いたものが株式リスクプレミアムです。

予測回帰と限界

計量分析では、将来のリターンを配当利回り・イールドスプレッド・信用スプレッドなどで回帰します。一般に、短期(1か月〜1年)の予測力は低く決定係数も小さい一方、長い期間ではバリュエーション指標の説明力が高まる傾向が知られています。ただし、期間の重なったデータの回帰は見かけ上の説明力が高くなりやすい点にも注意が必要です。

押さえておきたい公式

株式の期待リターン ≒ 配当利回り + 配当成長率 + バリュエーション変化率ビルディング・ブロック(成長率は名目GDP成長率が目安)
バリュエーション変化率 = (将来のPER ÷ 現在のPER)1/n − 1n年かけてPERが変化すると考えた年率の寄与
債券の期待リターン ≒ 現在の利回り − デュレーション × 利回りの変化幅(年率換算)保有期間中の金利変化の影響を加味
Rt+1 = a + b × (D/P)t + εt+1予測回帰:配当利回りが高いほど将来リターンが高いならb>0

具体例で確認

ある国の株式市場について、配当利回り2.2%、実質成長率1.0%、期待インフレ率1.8%、10年国債利回り1.5%とします。

  1. 名目成長率:1.0 + 1.8 = 2.8%
  2. バリュエーションが変わらない場合の株式期待リターン:2.2 + 2.8 = 5.0%
  3. PERが現在の16倍から5年かけて15倍に戻ると考えると、年率の寄与は (15 ÷ 16)1/5 − 1 ≒ −1.28%
  4. 調整後の株式期待リターン:5.0 − 1.28 ≒ 3.7%
  5. 国債を満期まで保有する場合の期待リターンは約1.5%なので、株式リスクプレミアムは 3.7 − 1.5 ≒ 2.2%

割高な市場ほど、バリュエーションの修正によって将来の期待リターンが低めになる、という考え方がわかります。

試験で問われやすいポイント

  • 配当利回り・成長率・PERの変化から株式の期待リターンを積み上げて計算させ、その過程を示す問題に備えましょう。
  • 債券の期待リターンの出発点は現在の利回りで、金利上昇はデュレーション分だけ価格を押し下げる、という方向を押さえましょう。
  • 株式リスクプレミアム=株式の期待リターン − 国債利回り、という定義と、その変動要因を説明させる記述に注意しましょう。
  • 予測回帰では短期の予測力が低いこと、過去平均をそのまま使う方法の問題点、データマイニングの危険性が問われやすいです。
  • 資産クラスごとに効く経済変数(短期金利=金融政策、債券=インフレ期待と成長、株式=企業収益とバリュエーション)の対応を整理しておきましょう。

要点まとめ

  • 期待リターンは過去平均ではなく、現在の経済環境と資産の特徴から組み立てる
  • 債券は現在の利回りが出発点、株式は配当利回り+成長率+バリュエーション変化
  • 株式リスクプレミアムは株式の期待リターンと国債利回りの差
  • 予測回帰は長期で説明力が高まりやすいが、短期予測は難しい

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