ひとことで言うと

  • 日本基準からIFRSに切り替えた年の財務諸表は、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」にもとづき、比較年度もIFRSで作り直して表示されます。
  • のれん償却の有無、特別損益の区分がないことによる営業利益の範囲の違い、未払有給休暇などの新たな負債計上といった基準差が利益や資産に表れます。
  • 開示される調整表(日本基準からIFRSへの資本・包括利益の調整)を読めば、どの基準差がどれだけ影響したかを見分けられます。

この記事では、証券アナリスト2次「財務分析」の学習ポイントのひとつ「IFRS導入初年度の分析」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 コーポレート・ファイナンスと企業分析/財務分析
大分類 (11) 財務分析の応用
協会の学習ポイント 日本基準との相違点を踏まえ、IFRS導入初年度の財務諸表を分析できる。

IFRS導入初年度の分析とは

日本では任意適用によってIFRSを採用する企業が増えています。IFRSに切り替えた最初の年度(初度適用)の財務諸表は、IFRS第1号にしたがって作成されます。原則として、IFRSを最初から適用していたかのように遡及して適用し、比較年度の期首(移行日)時点の開始財政状態計算書を作成します。そのため、初年度の有価証券報告書では、当年度と比較年度の両方がIFRSで表示されます。

免除規定

すべてを遡及適用するのは実務上の負担が大きいため、IFRS第1号にはいくつかの免除規定があります。代表的なものとして、移行日前の企業結合をIFRSで遡及修正しない選択(のれんは移行日の帳簿価額を引き継ぎ、移行日に減損テストを行う)、有形固定資産などを移行日の公正価値で測定してそれをみなし原価とする選択、在外営業活動体の累積換算差額を移行日にゼロとする選択などがあります。どの免除規定を使ったかによって、移行後の数値が変わる点に注意が必要です。

基準差が表れやすい項目

  • のれん:IFRSでは償却しないため、償却費がなくなり営業利益が増えます。一方、のれん残高は減損しない限り残ります。
  • 表示区分:IFRSには特別損益の区分がないため、日本基準で特別損失としていた固定資産の除売却損や減損損失などが、営業利益の中に含まれることがあります。
  • 負債の追加計上:未払有給休暇、賦課金など、日本基準では計上していなかった負債が認識されることがあります。
  • 収益・開発費・金融商品:開発費の資産計上、資本性金融商品の評価差額をOCIに計上してリサイクリングしない選択など、利益の構成が変わる項目もあります。

分析の進め方

最も大切なのは、日本基準の前期実績とIFRSの当期実績をそのまま比べないことです。成長率や利益率は、IFRSで作り直された比較年度の数値と比較します。そのうえで調整表を読み、どの基準差がどれだけ利益や資本に影響したかを把握し、実態としての業績変化と会計基準の変更による変化を区別します。

具体例で確認

ある企業の比較年度の日本基準の営業利益が1,000で、その中にのれん償却費200が含まれていたとします。また、特別損失に固定資産除却損50があり、IFRSへの移行で未払有給休暇の増加分10を費用に計上するとします(簡略化した例)。

  • のれん償却の戻し:+200
  • 固定資産除却損を営業費用へ:−50
  • 未払有給休暇の費用計上:−10
  • IFRSの営業利益:1,000 + 200 − 50 − 10 = 1,140

もし当期のIFRS営業利益が1,200なら、日本基準の前期(1,000)と比べると20%増に見えますが、IFRSで作り直した前期(1,140)と比べると約5%増にとどまります。基準変更の影響を取り除いて比べることの大切さがわかります。

試験で問われやすいポイント

  • 初度適用では比較年度もIFRSで作り直し、移行日の開始財政状態計算書を作成する点が基本です。
  • のれん非償却で営業利益が増える、特別損益の区分がないため営業利益の範囲が変わる、といった影響の方向が問われやすいです。
  • 企業結合の免除規定やみなし原価など、主な免除規定の内容を押さえておきましょう。
  • 記述式では、調整表の数値をもとに基準差の影響を分解し、実質的な業績の変化を説明させる形が考えられます。

要点まとめ

  • IFRS初度適用では原則遡及適用し、比較年度もIFRSで表示する。
  • 免除規定の選択(企業結合、みなし原価など)が移行後の数値に影響する。
  • のれん償却の有無、表示区分、負債の追加計上などが利益や資産に表れる。
  • 日本基準の前期実績とそのまま比べず、調整表で基準差の影響を区別して分析する。

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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。