予測値(配当・FCF・残余利益)の違いとは?意味と試験で問われるポイント|証券アナリスト1次・株式分析
ひとことで言うと
- 株式評価モデルは、予測に使う数字(配当・フリー・キャッシュフロー・残余利益)によって使いやすさや弱点が変わります。
- 配当は観察しやすい一方、無配企業には使いにくく、FCFは配当政策に左右されない一方、投資の多い時期にマイナスになりやすい特徴があります。
- 残余利益は自己資本の簿価を土台にするため遠い将来への依存が小さい反面、会計数値の質に左右されます。
この記事では、証券アナリスト1次・科目Ⅰ「株式分析」の学習ポイントのひとつ「予測値の違いと留意点」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。
| 分野 | 1次 科目Ⅰ/株式分析 |
|---|---|
| 大分類 | (3) 株式価値評価モデルの基礎 |
| 協会の学習ポイント | 株式評価モデルにおける予測値としての配当、FCF、残余利益のそれぞれの相違や留意点を理解する。 |
予測値(配当・FCF・残余利益)の違いとは
DDM・FCFE割引モデル・残余利益モデルは、前提がそろえば理論上同じ株式価値になります。しかし、実際に価値を計算するときには将来の数字を「予測」しなければなりません。どの数字を予測するかによって、予測のしやすさや誤差の出方、向いている企業のタイプが変わってきます。
配当を予測する場合(DDM)
配当は株主が実際に受け取るお金で、企業も安定的に支払おうとする傾向があるため、近い将来の予測は比較的しやすい数字です。一方で、配当は経営者の方針(配当政策)で決まるため、企業の稼ぐ力を必ずしも反映していません。無配企業や、利益の大半を再投資している成長企業では、価値のほとんどが遠い将来の配当に依存してしまい、評価が難しくなります。
FCF(FCFE)を予測する場合
FCFEは「配ろうと思えば配れるお金」なので、配当政策に左右されずに企業の実力を評価できる点が利点です。ただし、設備投資や運転資本の予測が必要で、成長期に大きな投資をする企業ではFCFEがマイナスになりやすく、その場合は価値の大部分が遠い将来のキャッシュフローに頼ることになります。また、設備投資や運転資本の区別がつけにくい金融機関などでは算出が難しいとされます。
残余利益を予測する場合
残余利益モデルは、現在の自己資本(簿価)を出発点にするため、価値のかなりの部分がすでに貸借対照表に載っている数字で説明されます。その分、遠い将来の予測やターミナル・バリューの前提に振り回されにくい点が長所です。反面、会計処理の方法や、利益を通さずに自己資本が変動する項目(クリーン・サープラス関係の崩れ)によって結果がゆがむことがあり、会計数値の質に注意が必要です。
整理しておきたいポイント
| 予測値 | 長所 | 短所・留意点 |
|---|---|---|
| 配当(DDM) | 実際に受け取るお金で観察しやすい。安定配当の企業では近い将来を予測しやすい | 配当政策に左右され稼ぐ力を反映しにくい。無配・低配当の成長企業に使いにくい |
| FCF(FCFE割引モデル) | 配当政策に左右されない。株主に還元できる力を直接とらえられる | 設備投資や運転資本の予測が必要。投資期はマイナスになりやすく、遠い将来への依存が大きくなりやすい |
| 残余利益(RIM) | 簿価を土台にするため、遠い将来やターミナル・バリューへの依存が比較的小さい。無配企業にも使える | 会計数値の質に左右される。クリーン・サープラス関係が崩れると結果がゆがむ |
具体例で確認
期首の1株当たり自己資本1,000円、ROE10%、配当性向40%(来期配当40円)、成長率6%、株主資本コスト8%の企業では、DDMでも残余利益モデルでも理論株価は2,000円になります。では、そのうち「最初の5年間の予測」で説明できる割合はどれくらいでしょうか。
- DDM:最初の5年間の配当の現在価値合計は約178円で、株価2,000円の約9%にすぎません。残り約91%は6年目以降の配当に依存します。
- 残余利益モデル:期首自己資本1,000円+最初の5年間の残余利益の現在価値約89円=約1,089円で、株価の約54%を説明できます。6年目以降に依存するのは約46%です。
同じ企業・同じ価値でも、残余利益モデルのほうが遠い将来の予測に頼る割合が小さいことがわかります。これが「残余利益モデルはターミナル・バリューへの依存が小さい」と言われる理由です。
試験で問われやすいポイント
- 無配企業・成長企業にはDDMが使いにくいという特徴が問われやすいです。
- FCFEは設備投資が多い時期にマイナスになりやすく、評価が難しくなる点が狙われやすいです。
- 残余利益モデルは簿価を出発点とするため、価値に占めるターミナル・バリューの割合が小さいという長所が問われやすいです。
- 残余利益モデルの弱点として、会計処理やクリーン・サープラス関係の崩れの影響を受ける点が混同しやすいポイントです。
- 「理論上は一致するが、予測の前提がそろわないと結果は異なる」という整理も確認しておきましょう。
要点まとめ
- 配当は観察しやすいが、配当政策の影響を受け、無配企業に使いにくい
- FCFは配当政策に左右されないが、投資期にマイナスになりやすい
- 残余利益は簿価が土台で遠い将来への依存が小さいが、会計数値の質に注意
- 企業の特性に合わせてモデルを選ぶことが大切
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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」より引用しています。
