ひとことで言うと

  • 費用・便益分析は、制度や規制を導入したときに社会全体が得る便益と負う費用を金額で評価し、比較して導入の是非を判断する手法です。
  • 将来にわたる便益と費用は割引率で現在価値に換算し、純便益(NPV) > 0、または費用便益比(B/C) > 1なら導入が望ましいと判断します。
  • 結果は割引率や便益の見積もりに大きく左右されるため、感応度分析が欠かせません。

この記事では、証券アナリスト2次「市場と経済の分析」の学習ポイントのひとつ「規制の費用・便益分析」について、意味と試験で問われやすいポイントを解説します。

分野 2次 市場と経済の分析/経済
大分類 (9) 産業政策と市場規制
協会の学習ポイント 経済制度や規制の導入のための費用・便益分析ができる。

費用・便益分析とは

規制や制度には、事故や環境被害の減少、取引の透明化といった便益がある一方で、企業の対応コスト、行政の執行コスト、経済活動の抑制といった費用もかかります。費用・便益分析は、これらを可能な限り金額に換算し、社会全体として便益が費用を上回るかどうかを評価する手法です。考え方は企業の投資判断で使う正味現在価値(NPV)法と同じですが、企業の利益ではなく社会全体の厚生を対象にする点が違います。

分析の手順

  • 比較の基準を決める:規制を導入した場合と、導入しなかった場合(ベースライン)を比べます。
  • 便益と費用を洗い出す:影響を受ける全ての主体(企業、消費者、政府、第三者)について考えます。
  • 金額に換算する:市場価格がないもの(健康、時間、環境など)は、支払意思額(WTP)などで評価します。
  • 現在価値に割り引く:社会的割引率で割り引き、純便益や費用便益比を計算します。
  • 感応度分析を行う:割引率や見積もりを変えても結論が変わらないかを確認します。

注意すべき点

便益や費用は、社会全体にとっての機会費用で測ります。税金や補助金のように、ある主体から別の主体へ所得が移るだけのもの(移転)は、社会全体では相殺されるため、純便益には含めません。また、同じ便益を二重に数えないこと、埋没費用は考慮しないことも重要です。費用・便益分析は効率性の基準であり、誰が得をして誰が損をするかという分配の問題は別途考える必要があります。日本でも、規制の新設や改廃の際に、費用と便益を事前に評価する仕組み(規制の事前評価)が設けられています。

押さえておきたい公式

純便益(NPV) = Σ (Bt − Ct) ÷ (1 + r)tNPV > 0 なら導入が望ましい
費用便益比(B/C) = 便益の現在価値 ÷ 費用の現在価値B/C > 1 なら導入が望ましい。規模の異なる案の比較ではNPVを優先する
記号 意味
Bt t年目の便益
Ct t年目の費用(初期費用はt = 0)
r 社会的割引率

具体例で確認

ある安全規制を導入すると、初期費用(設備改修)が100億円、その後5年間にわたり毎年の運用費用が5億円かかり、事故の減少による便益が毎年30億円得られるとします。割引率は4%です。

  • 5年間の年金現価係数(4%):1 ÷ 1.04 + … + 1 ÷ 1.045 ≒ 4.4518
  • 便益の現在価値:30 × 4.4518 ≒ 133.55億円
  • 費用の現在価値:100 + 5 × 4.4518 ≒ 122.26億円
  • 純便益:133.55 − 122.26 ≒ 11.30億円(> 0)、B/C ≒ 133.55 ÷ 122.26 ≒ 1.09(> 1)なので、導入は望ましいと判断できます。
  • 感応度分析:割引率を8%にすると、年金現価係数は約3.9927、便益の現在価値は約119.78億円、費用の現在価値は約119.96億円で、純便益は約−0.18億円とわずかにマイナスになります。便益が後から生じ、費用が先にかかる規制ほど、割引率が高いと不利になることがわかります。

試験で問われやすいポイント

  • 便益・費用を現在価値に割り引き、NPV > 0(B/C > 1)で判断するという計算手順。
  • 割引率が上がると、将来の便益が小さく評価され、初期費用の大きい規制ほど不利になるという方向性。
  • 税や補助金などの移転は社会全体の純便益に含めない、埋没費用は考慮しない、二重計算をしないといった注意点。
  • 市場価格のない便益を支払意思額などで評価すること、分配の問題は別に考える必要があること。
  • 記述式では、キャッシュフローを与えてNPVやB/Cを計算させ、計算過程と導入の是非を示させる形が考えられます。

要点まとめ

  • 費用・便益分析は、制度や規制の導入を社会全体の便益と費用で評価する手法。
  • 便益と費用を現在価値に割り引き、NPV > 0、B/C > 1 なら導入が望ましい。
  • 社会全体の機会費用で測り、移転は含めない。
  • 結論は割引率や見積もりに左右されるため、感応度分析で確認する。

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