証券アナリスト(CMA)2次試験で学ぶ「数量分析と確率・統計」。ベクトルと行列、重回帰、主成分分析、時系列分析、モンテカルロ・シミュレーションと、数学色の強い用語が並び、「結局この分野で何ができるようになればいいの?」と感じる方も多いはずです。

この記事では、日本証券アナリスト協会が公表している「主要学習事項と学習ポイント」に沿って、2次の数量分析と確率・統計で要するに何を学ぶのかを、学習ポイントを1つずつかみくだいて解説します。

数量分析と確率・統計で学ぶこと

  • ベクトルと行列:ポートフォリオの分散などを行列でまとめて表し、固有値・固有ベクトルまで扱えるようにする
  • 重回帰と多変量解析:複数の説明変数で予測するモデルや、主成分分析・因子分析でデータの共通要因を取り出す方法を学ぶ
  • 時系列分析とシミュレーション:株価や金利などの時系列データの性質を分析し、モンテカルロ・シミュレーションでリスクを評価する

数量分析と確率・統計の基本情報

試験科目 2次「市場と経済の分析」(経済・数量分析)の分野グループ
試験での出題 午前・午後の総合試験の中で出題(記述式)
学習ポイント数 33項目(大分類5つ)
1次とのつながり 1次では(1)お金の時間価値、(2)リターン・利回りから、統計の基礎、確率変数、確率分布、推定と検定、単回帰分析、微分の基礎、最適化手法までを学びます。2次はその続きの(10)〜(14)で、行列・重回帰・多変量解析・時系列分析・シミュレーションへと発展させます

全体像:5つの大分類

大分類 ひとことで言うと
(10) ベクトルと行列 行列の計算と固有値・固有ベクトルを学び、ポートフォリオの計算を行列で表現する
(11) 回帰分析(重回帰) 複数の説明変数を使う回帰モデルを推定・検定・評価し、マルチファクター・モデルに応用する
(12) 多変量解析 主成分分析・因子分析・判別分析・クラスター分析で、多くの変数から構造を見つける
(13) 時系列分析 トレンド、定常性、自己回帰モデル、単位根、ボラティリティ変動などを学び、市場分析に使う
(14) シミュレーション手法 モンテカルロ・シミュレーションの手順と、意思決定・リスク評価に使うときの長所と注意点を学ぶ

各大分類の表にある学習ポイント名をクリックすると、用語解説の記事で意味と試験で問われやすいポイントを確認できます。

参考:1次も含めた大分類の全体像

協会の「主要学習事項と学習ポイント」では、1次と2次で大分類に同じ通し番号を使っています。2次の数量分析と確率・統計に(1)〜(9)が出てこないのは、これらを1次で学ぶためです。2次は1次の内容を前提に出題されるので、全体の流れを参考に確認しておきましょう。

大分類 扱う試験 ひとことで言うと
(1) お金の時間価値 1次のみ 金利と複利の考え方、将来のお金をいまの価値に直す現在価値の計算
(2) リターン、利回り 1次のみ NPV・IRR、収益率の測り方、スポットレートやフォワードレートなど利回りの計算
(3) 統計の基礎 1次のみ 平均・中央値・分散・標準偏差など、データの特徴を数字で表す方法
(4) 確率変数 1次のみ 確率の基本ルール、期待値・標準偏差・相関、ベイズの定理
(5) 確率分布 1次のみ 二項分布・正規分布・対数正規分布と、VaRなどリスク管理への応用
(6) 推定と検定 1次のみ 一部のデータ(標本)から全体(母集団)を推し量り、仮説が正しいかを判断する方法
(7) 回帰分析(単回帰) 1次のみ 2つの変数の関係を直線で表し、その当てはまりや有意性を評価する
(8) 微分の基礎 1次のみ 関数の傾きや曲がり具合を求める微分と、テーラー展開・偏微分
(9) 最適化手法 1次のみ 条件のもとで最もよい答えを探す線形計画法やラグランジュの未定乗数法
(10) ベクトルと行列 2次のみ 行列の計算と固有値・固有ベクトルを学び、ポートフォリオの計算を行列で表現する
(11) 回帰分析(重回帰) 2次のみ 複数の説明変数を使う回帰モデルを推定・検定・評価し、マルチファクター・モデルに応用する
(12) 多変量解析 2次のみ 主成分分析・因子分析・判別分析・クラスター分析で、多くの変数から構造を見つける
(13) 時系列分析 2次のみ トレンド、定常性、自己回帰モデル、単位根、ボラティリティ変動などを学び、市場分析に使う
(14) シミュレーション手法 2次のみ モンテカルロ・シミュレーションの手順と、意思決定・リスク評価に使うときの長所と注意点を学ぶ

1次で学ぶ内容は【証券アナリスト1次】数量分析と確率・統計の記事で学習ポイントごとに解説しています。

(10) ベクトルと行列

ポイント:2次の数量分析の「共通言語」です。行列の基本演算から、逆行列・固有値・対角化、そして期待値・分散を行列で表す方法を学び、ポートフォリオ計算に応用します。後の主成分分析や重回帰の理解にも直結します。

学習ポイント 学ぶ内容
ベクトル・行列の基本 ベクトルと行列の和・スカラー倍・積・転置といった基本的な演算のルールを理解する
行列式と逆行列による解法 連立方程式を行列で表し、行列式が0でなければ逆行列を使って解けることを学ぶ
固有値と固有ベクトル 2×2行列Aについて、固有方程式 det(A-λI)=0 を解いて固有値λを求め、対応する固有ベクトルを計算する
対角化とスペクトル分解 対称行列は固有ベクトルを使って対角化でき、固有値と固有ベクトルの組み合わせに分解(スペクトル分解)できることを理解する
期待値・分散の2次形式表記 複数資産のポートフォリオ分散を、ウェイトのベクトルwと分散共分散行列Σを使って w’Σw と表す
ベクトルの微分 ベクトルを変数とする関数の微分の書き方を学び、たとえば w’Σw をwで微分すると 2Σw になる、といった計算をする
ポートフォリオへの応用 最小分散ポートフォリオの導出など、ベクトルと行列がポートフォリオ・マネジメントでどう使われるかを理解する

(11) 回帰分析(重回帰)

ポイント:1次の単回帰を、説明変数が複数ある場合に広げるパートです。推定、仮説検定、予測、説明力に影響する問題点、一般化線形モデル、そしてマルチファクター・モデルへの応用を押さえます。

学習ポイント 学ぶ内容
重回帰モデルの概要 1つの被説明変数を複数の説明変数で説明するモデルの形と、それぞれの係数の意味(他の変数を一定としたときの影響)を理解する
推定とモデルの評価 最小二乗法で係数を推定し、決定係数や自由度修正済み決定係数などでモデルの当てはまりを評価する
重回帰の仮説検定 個々の係数が0かどうかをt検定で、係数全体が同時に0かどうかをF検定で確かめる
重回帰による予測 推定した回帰式に説明変数の値を代入して、被説明変数の予測値を求める
説明力に影響する要因 多重共線性、不均一分散、誤差項の系列相関、変数の選び方などが、推定結果や説明力にどう影響するかを理解する
一般化線形モデル ロジットモデルのように、被説明変数が0か1かといった通常の回帰に向かないデータを扱うための、回帰モデルの拡張を知る
マルチファクター・モデル 株式リターンを複数のファクターで説明するモデルの係数(ファクター感応度)を重回帰で求め、モデルの良し悪しを評価する

(12) 多変量解析

ポイント:たくさんの変数から「共通する要因」や「グループ」を見つけ出す手法を学ぶパートです。主成分分析と因子分析が中心で、(10)の固有値・固有ベクトルがここで活躍します。

学習ポイント 学ぶ内容
2変数の主成分合成 2つの変数を重み付けして合成し、分散が最大になる方向(第1主成分)を求める原理を理解し、実際に計算する
固有値と寄与率 各主成分の分散は固有値に等しく、固有値を固有値の合計で割った値が、その主成分がデータの変動をどれだけ説明するか(寄与率)になることを理解する
多変数への一般化 分散共分散行列の固有値・固有ベクトルを求めることで、主成分分析を3変数以上に広げられることを理解する
因子分析の原理 観測される多くの変数が、少数の共通因子と各変数に固有の要因から成り立っていると考えるモデルの考え方を学ぶ
因子負荷行列の推定 各変数が共通因子からどれだけ影響を受けるかを表す因子負荷を、主因子法や最尤法などで推定する方法を知る
判別分析とクラスター分析 データを既知のグループに振り分ける判別分析と、似たもの同士をグループにまとめるクラスター分析の概要をつかむ

(13) 時系列分析

ポイント:株価・金利・経済指標のように、時間の順に並んだデータを分析するパートです。定常性と単位根の区別、自己回帰モデルによる予測、ボラティリティ変動モデル、見せかけの回帰と共和分を押さえ、市場分析に生かします。

学習ポイント 学ぶ内容
トレンドの推定 時系列データに含まれる長期的な傾向(トレンド)を、回帰や移動平均などで取り出す方法を理解する
定常性 平均・分散・自己共分散が時点によらず一定である「定常」な時系列の意味と、それが分析の前提として重要な理由を学ぶ
自己回帰モデルによる予測 今期の値を前期の値で説明するAR(自己回帰)モデルを使って将来の値を予測し、その精度を評価する
単位根とランダムウォーク ランダムウォークのような単位根過程では、ショックの影響が消えずに残り、分散が時間とともに大きくなるという特徴を理解する
構造変化と季節調整 制度変更などでデータの性質が途中で変わる構造変化や、毎年くり返す季節的な動きを取り除く季節調整について学ぶ
ボラティリティ変動モデル 変動の大きい時期と小さい時期がかたまって現れる現象を、ARCHやGARCHといったモデルで表す考え方を知る
見せかけの回帰と共和分 非定常な系列どうしを回帰すると、無関係でも関係があるように見える「見せかけの回帰」が起きること、長期的に安定した関係がある場合を共和分ということを理解する
証券・市場分析への応用 時系列モデルを、株価・金利・為替などのリターンやリスクの分析と予測に応用する

(14) シミュレーション手法

ポイント:乱数を使って将来の起こりうる結果を大量に作り出し、その分布からリスクや意思決定を考えるパートです。モンテカルロ・シミュレーションの手順、入力する確率分布の決め方、長所と限界、他の手法との違いを押さえます。

学習ポイント 学ぶ内容
モンテカルロの仕組みと手順 変数の確率分布を決め、乱数でシナリオを何度も発生させ、結果の分布を集計するというモンテカルロ・シミュレーションの基本的な流れを理解する
確率分布の定め方 過去データへの当てはめや専門家の判断などで、各変数の確率分布とパラメータ、変数間の相関をどう決めるかを学ぶ
意思決定での長所と短所 複雑な問題でも結果の分布全体を見られる長所と、入力の前提に結果が左右され、計算の手間もかかるといった短所を理解する
リスク評価での留意点 分布の仮定や試行回数、極端な事象(分布の裾)の扱いによって、リスクの評価結果が変わりうることに注意する
シナリオ分析・決定木との違い いくつかの想定ケースを比べるシナリオ分析や、判断を順番に枝分かれさせて考える決定木と比べて、シミュレーションが何を得意とするかを整理する

数量分析と確率・統計を学ぶときのコツ

1. 行列は「ポートフォリオの分散」で理解する

(10)の行列は抽象的に見えますが、w’Σwというポートフォリオ分散の式を手で2資産分展開してみると、行列が何をまとめているのかが見えてきます。具体的な金融の計算と結びつけて覚えると、主成分分析や重回帰の理解にもつながります。

2. 1次の統計を土台として見直す

重回帰の検定は1次の推定と検定、単回帰の考え方の延長です。t検定や決定係数の意味があいまいなときは、1次の内容に戻って確認してから進むと効率的です。

3. 手法の「使いどころ」と「限界」を言葉で説明できるようにする

2次は記述式なので、計算だけでなく「なぜこの手法を使うのか」「どんな落とし穴があるのか」(多重共線性、見せかけの回帰、シミュレーションの前提依存など)を自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。計算問題はテキストの例題を電卓で実際に解いて確かめるのがおすすめです。

証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、ここで紹介した学習ポイントを1つずつ動画で解説しています。テキストとあわせて活用してください。

よくある質問

Q. 行列が苦手でも2次の数量分析は大丈夫ですか?

2次の学習ポイントで扱う行列の計算は、2×2行列の固有値・固有ベクトルなどが中心です。まずは2×2行列の積・逆行列・固有値を手で計算できるようにし、ポートフォリオ分散の行列表記と結びつけて理解すれば、十分に対応できます。

Q. 1次の数量分析とどうつながっていますか?

1次では確率分布、推定と検定、単回帰、微分と最適化の基礎を学びます。2次の大分類は(10)から始まる通し番号で、単回帰は重回帰へ、最適化はベクトル・行列を使ったポートフォリオ計算へと、1次の内容を発展させています。

Q. 学習ポイントとは何ですか?

日本証券アナリスト協会が「CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」として公表している、学習内容の一覧です。出題範囲の公式な目安になるので、テキストを読むときはどの学習ポイントを学んでいるのかを意識しましょう。

一緒に合格を目指しませんか

証券アナリストアカデミーでは、1次・2次の受験生が集まるコミュニティを運営しています。

▶ 証券アナリストコミュニティーに参加する

※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」にもとづき、証券アナリストアカデミーが要約しています。