証券アナリスト(CMA)1次試験の科目Ⅲで学ぶ「数量分析と確率・統計」。お金の時間価値から確率分布、仮説検定、回帰分析、微分、最適化まで数学的な用語が並び、「結局この分野で何ができるようになればいいの?」と感じる方も多いはずです。

この記事では、日本証券アナリスト協会が公表している「主要学習事項と学習ポイント」に沿って、数量分析と確率・統計で要するに何を学ぶのかを、学習ポイントを1つずつかみくだいて解説します。

数量分析と確率・統計で学ぶこと

  • お金の時間価値と利回り:複利・現在価値・NPV・IRR・スポットレートなど、証券分析のすべての土台になる計算
  • 確率・統計の道具:平均・分散・相関、正規分布、推定と検定、回帰分析で、データから意味のある結論を引き出す
  • 数学の基礎:微分や最適化の考え方で、債券のデュレーションやポートフォリオの最適化を理解する下地をつくる

数量分析と確率・統計の基本情報

試験科目 1次 科目Ⅲ「市場と経済の分析・数量分析と確率・統計・職業倫理・行為基準」
試験での出題 第2問「数量分析と確率・統計」(20点)(2025年春・2024年秋の本試験の構成)
学習ポイント数 64項目(大分類9つ)
2次とのつながり 2次では「ベクトルと行列」「回帰分析(重回帰)」「多変量解析」「時系列分析」「シミュレーション手法」など、1次の統計・数学を発展させた内容を学びます

全体像:9つの大分類

大分類 ひとことで言うと
(1) お金の時間価値 金利と複利の考え方、将来のお金をいまの価値に直す現在価値の計算
(2) リターン、利回り NPV・IRR、収益率の測り方、スポットレートやフォワードレートなど利回りの計算
(3) 統計の基礎 平均・中央値・分散・標準偏差など、データの特徴を数字で表す方法
(4) 確率変数 確率の基本ルール、期待値・標準偏差・相関、ベイズの定理
(5) 確率分布 二項分布・正規分布・対数正規分布と、VaRなどリスク管理への応用
(6) 推定と検定 一部のデータ(標本)から全体(母集団)を推し量り、仮説が正しいかを判断する方法
(7) 回帰分析(単回帰) 2つの変数の関係を直線で表し、その当てはまりや有意性を評価する
(8) 微分の基礎 関数の傾きや曲がり具合を求める微分と、テーラー展開・偏微分
(9) 最適化手法 条件のもとで最もよい答えを探す線形計画法やラグランジュの未定乗数法

各大分類の表にある学習ポイント名をクリックすると、用語解説の記事で意味と試験で問われやすいポイントを確認できます。

(1) お金の時間価値

ポイント:「今日の100円は1年後の100円より価値がある」という考え方を数字で扱えるようにします。金利の意味と決まり方、複利計算と実効利子率、キャッシュフローから現在価値を求める計算が中心で、株式・債券などすべての分野の土台になります。

学習ポイント 学ぶ内容
ファイナンスにおける金利の意義 金利は「お金を借りる対価」であり、時点の違うお金を比べるときの物差しになることを理解する
金利水準の決定要因 実質金利・予想インフレ率・期間や信用リスクに対する上乗せなど、金利の高さを決める要素
複利計算と実効利子率 利息にも利息がつく複利の計算と、年2回複利など複利の回数が違う金利を年率ベースにそろえた実効利子率の計算
お金の時間価値 将来の価値=現在の価値×(1+金利)の期間乗、その逆が現在価値という基本の考え方
金融商品の現在価値計算 債券の利息と元本、年金型のキャッシュフローなどを割り引いて合計し、金融商品の現在価値を求める

(2) リターン、利回り

ポイント:投資の「もうけ具合」をどう測るかを学びます。投資判断に使うNPVとIRR、運用成績を測る金額加重収益率と時間加重収益率、債券の利回りやスポットレート・フォワードレートの換算がポイントで、計算問題の中心になります。

学習ポイント 学ぶ内容
NPV・IRRとIRR法の限界 NPV(将来のキャッシュフローの現在価値-投資額)とIRR(NPVがゼロになる割引率)の計算と、IRRが複数存在しうるなどの弱点
所有期間利回り 投資期間中に受け取った収入と値上がり益を合わせたトータルリターンの計算方法
金額加重と時間加重の収益率 資金の出し入れの影響を含む金額加重収益率と、その影響を除いて運用者の実力を測る時間加重収益率の計算
金融商品の利回り計算 国債などを例に、所有期間利回り・実効利回り・市場レートを計算する
利回り曲線と期間構造 パーイールド・スポットレート・フォワードレートとディスカウントファクターの関係を理解し、互いに換算する

(3) 統計の基礎

ポイント:たくさんのデータを、少ない数字で要約する方法です。データの「真ん中」を表す代表値、「ばらつき」を表す分散・標準偏差、分布の形を表す歪度・尖度を学びます。

学習ポイント 学ぶ内容
代表値の計算 平均値(算術平均・幾何平均)・中央値・最頻値など、データの中心を表す値の意味と計算
分位数 データを小さい順に並べて区切る四分位数やパーセンタイルの意味と求め方
散らばりを表す統計量 範囲・分散・標準偏差など、データがどれだけばらついているかを表す数字の計算
正規分布と歪度・尖度 左右対称の釣鐘型である正規分布の性質と、分布の偏り(歪度)や裾の厚さ(尖度)の意味

(4) 確率変数

ポイント:「不確実なもの」を数学で扱うための基本ルールです。確率の加法定理・乗法定理、条件付き確率とベイズの定理、期待値・標準偏差・相関係数を学び、ポートフォリオのリターンとリスクの計算に応用します。

学習ポイント 学ぶ内容
確率の基本概念と性質 事象・標本空間・確率の定義と、確率は0以上1以下で全体の合計が1になるといった基本的な性質
乗法定理・加法定理・全確率の定理 「AかつB」「AまたはB」の確率の求め方と、場合分けして足し合わせる全確率の定理
結合確率・条件付き確率・独立 2つの出来事が同時に起こる確率、ある条件のもとでの確率、互いに影響しない「独立」の意味と簡単な計算
期待値・標準偏差・相関とポートフォリオ 確率変数の期待値・標準偏差・相関係数を計算し、2資産ポートフォリオの期待リターンやリスクを求める
条件付き期待値の応用 景気が良い場合・悪い場合など、条件ごとの期待値をポートフォリオの分析に使う
2つの確率変数の確率分布 2つの確率変数の同時分布と、そこから一方だけの分布(周辺分布)を求める考え方
ベイズの定理 新しい情報を得たときに、事前確率を事後確率に更新する計算を簡単な例でできるようにする

(5) 確率分布

ポイント:確率変数がどんな値をどんな確率でとるのかを表す「確率分布」を学びます。二項分布と正規分布が中心で、標準正規分布表を使った確率の計算、株価のモデル化に使う二項ツリーや対数正規分布、リスク管理のVaRへの応用を押さえます。

学習ポイント 学ぶ内容
離散型の確率分布と累積分布 サイコロの目のように飛び飛びの値をとる確率変数の分布と、ある値以下になる確率を積み上げた累積分布
累積分布からの確率計算 累積分布を使って「ある値以下」「ある範囲に入る」確率を求める方法
二項分布と二項ツリー 成功か失敗かを繰り返す二項分布を理解し、株価が上がるか下がるかを繰り返す二項ツリーで価格の動きをモデル化する
確率密度関数と累積分布関数 連続した値をとる確率変数では、確率を確率密度関数の面積で表すという考え方
累積分布関数からの確率計算 累積分布関数の差をとって、ある区間に入る確率を求める方法
正規分布と標準正規分布 平均と標準偏差で形が決まる正規分布と、平均0・標準偏差1の標準正規分布の密度関数・分布関数
標準化と標準正規分布表 (値-平均)÷標準偏差で標準化し、標準正規分布表から確率を読み取る
対数正規分布とファイナンス 対数をとると正規分布になる分布。価格がマイナスにならない株価のモデルなどに使われる
ショートフォール確率とVaR リターンが目標を下回る確率(ショートフォール確率)と、一定の確率で起こりうる最大損失額(VaR)の考え方
多変量の正規分布 複数の確率変数がまとめて正規分布に従う場合の考え方と、平均・分散・相関による表し方

(6) 推定と検定

ポイント:一部のデータ(標本)から全体(母集団)の姿を推し量る「推計統計」を学びます。中心極限定理を土台に、母平均の区間推定と、仮説が正しいかどうかを判断する仮説検定の手順・p値・2種類の誤りを押さえます。学習ポイントの数が最も多い大分類です。

学習ポイント 学ぶ内容
推計統計の基本概念 母集団・標本・母数・統計量など、標本から母集団を推し量るための基本用語
標本抽出と標本誤差 無作為抽出などの標本の選び方と、標本から計算した値が母集団の値とずれる標本誤差
時系列とクロスセクション 同じ対象を時間に沿って並べた時系列データと、同じ時点で多くの対象を並べたクロスセクションデータの違い
標本の平均・分散・標準偏差 標本平均や標本分散を計算する。標本分散はn-1で割る不偏分散を使う点に注意する
大数の法則と中心極限定理 標本が大きいほど標本平均は母平均に近づき、その分布は正規分布に近づくという、推定と検定の土台になる定理
推定量の不偏性・一致性・有効性 良い推定量の条件。平均的に正しい(不偏性)、標本が増えると真の値に近づく(一致性)、ばらつきが小さい(有効性)
母平均の区間推定 「母平均は95%の信頼度でこの範囲にある」という区間を、標準正規分布やt分布を使って求める
仮説検定の手順と片側・両側検定 帰無仮説と対立仮説を立て、有意水準と棄却域を決めて判断する手順と、片側検定・両側検定の使い分け
p値と仮説検定 帰無仮説が正しいとしたときに観測結果以上に極端な値が出る確率(p値)が有意水準より小さければ帰無仮説を棄却する
第一種・第二種の過誤と検定力 正しい帰無仮説を棄却する誤り(第一種過誤、その確率が有意水準)と、誤った帰無仮説を棄却しない誤り(第二種過誤)、検定力の関係
母平均の検定 正規母集団について、母平均がある値に等しいかをz検定やt検定で調べる方法
母分散の検定 正規母集団の母分散がある値に等しいかを、カイ二乗分布を使って調べる方法
ノンパラメトリック検定 正規分布などの分布の形を仮定せずに行う検定の概要と、どんなときに使うか

(7) 回帰分析(単回帰)

ポイント:2つの変数の関係を1本の直線で表す方法です。散布図と相関係数で関係をつかみ、最小二乗法で回帰直線を求め、決定係数や係数の検定で「その直線はどれだけ当てになるのか」を評価します。株式のベータ推定などにもつながる考え方です。

学習ポイント 学ぶ内容
散布図による分析 2つの変数を点で描いた散布図から、正の関係・負の関係・無関係といった傾向を読み取る
標本の相関係数 共分散を2つの標準偏差の積で割った相関係数(-1から+1)の計算
単回帰分析と結果の解釈 Y=a+bXの形で関係を表し、切片や傾きが何を意味するのかを読み取る
最小二乗法と説明力・限界 誤差(残差)の二乗和が最小になるように直線を引く方法と、決定係数で測る説明力、回帰分析の限界
信頼区間と予測区間 回帰直線上の平均的な値の幅(信頼区間)と、個々の新しい観測値の幅(予測区間)の違い
無相関検定 標本で計算した相関係数から、母集団の相関がゼロといえるかどうかを検定する
分散分析と単回帰 データのばらつきを回帰で説明できる部分と残差に分けて、回帰全体の有意性を調べる考え方
単回帰の仮説検定 回帰係数がゼロかどうかをt検定で調べ、Xが本当にYの説明に役立っているかを判断する

(8) 微分の基礎

ポイント:微分は「少し動かしたときに、どれだけ変わるか」を測る道具です。関数の傾きを表す1階微分、曲がり具合を表す2階微分、関数を近似するテーラー展開、複数の変数を扱う偏微分を学びます。債券のデュレーションとコンベクシティを理解する下地になります。

学習ポイント 学ぶ内容
微分の定義と曲線の傾き 微分は変化の割合の極限であり、グラフ上ではその点での接線の傾きを表すこと、その表記の仕方
代表的な関数の微分 xのn乗、指数関数、対数関数など、よく使う関数を微分した形
微分の演算法則 和・積・商の微分と、関数の中に関数がある合成関数の微分を計算できるようにする
2階微分と曲率 微分をもう一度微分した2階微分が、グラフの曲がり具合(凸か凹か)を表すこと
テーラー展開とマクローリン展開 関数を1階・2階微分を使った多項式で近似する方法。指数関数のマクローリン展開を使った応用
多変数関数と偏微分 変数が複数ある関数で、1つの変数だけを動かしたときの変化を表す偏微分の計算と応用例

(9) 最適化手法

ポイント:「条件を満たす中で、いちばん良い答え」を数学的に探す方法です。1次式だけで表す線形計画問題と、2次式などを含む非線形の問題に分けて、それぞれの解き方と最適な点の条件を学びます。ポートフォリオの最適化などの基礎になります。

学習ポイント 学ぶ内容
数理最適化と代表的なモデル 目的関数・決定変数・制約条件で問題を表す数理最適化の考え方と、線形計画など代表的なモデル
線形計画問題の定式化と解法の基礎 目的関数と制約条件がすべて1次式の問題を標準的な形に書き、解を探す基本の考え方
線形計画問題の代表的な解法 図解法やシンプレックス法など、線形計画問題を解く代表的な方法
制約なし非線形最適化の条件 制約がない場合、最適な点では1階微分(勾配)がゼロになり、2階微分の符号で最大か最小かを判断する
ラグランジュの未定乗数法 等式の制約がある最適化問題を、ラグランジュ乗数を使って制約のない問題に置き換えて解く方法
制約付き非線形最適化の条件 不等式の制約も含む非線形の最適化問題で、最適な点が満たすべき条件の考え方

数量分析と確率・統計を学ぶときのコツ

1. (1)(2)の時間価値と利回りを最優先で固める

現在価値・複利・NPV・IRR・スポットレートは、株式分析・債券分析・コーポレート・ファイナンスなど他の分野でも繰り返し使います。ここを最初にしっかり固めておくと、ほかの分野の学習がぐっと楽になります。

2. 統計は「何を知りたいのか」から考える

区間推定・仮説検定・回帰分析は公式の数が多く見えますが、どれも「標本から母集団について何が言えるか」という同じ問いに答える道具です。帰無仮説や有意水準といった用語の意味を、言葉で説明できるようにしておきましょう。

3. 電卓で実際に手を動かす

複利計算、IRR、標準偏差、標準化、相関係数などは電卓の操作に慣れているかどうかで解くスピードが大きく変わります。テキストの例題を電卓で実際に解きながら進めましょう。

証券アナリストアカデミーのYouTube(@cma-fa-academy)では、ここで紹介した学習ポイントを1つずつ動画で解説しています。テキストとあわせて活用してください。

よくある質問

Q. 数学が苦手でも大丈夫ですか?

大丈夫です。必要なのは高度な証明ではなく、公式の意味を理解して使えることです。(1)(2)のお金の時間価値から始め、(3)(4)で統計と確率の基本をつかんでから、推定・検定や微分へと順に進めると無理なく学べます。

Q. 計算問題はどのあたりから出ますか?

幅広い大分類から出題される可能性があります。特に複利・現在価値・IRR・収益率、期待値・標準偏差・相関係数、標準正規分布表を使った確率、区間推定や回帰分析の計算は、テキストの例題でしっかり練習しておきましょう。

Q. 学習ポイントとは何ですか?

日本証券アナリスト協会が「CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」として公表している、学習内容の一覧です。出題範囲の公式な目安になるので、テキストを読むときはどの学習ポイントを学んでいるのかを意識しましょう。

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※学習ポイントは日本証券アナリスト協会「【2026年度】CMA資格の取得に求められる主要学習事項と学習ポイント」にもとづき、証券アナリストアカデミーが要約しています。